教会で暮らす準備

「一応、板の移動はステータス開示を取得した者の方が良いな。ゴモンが指示を出して他の者が板を動かすようにしてくれ」

「それなら俺がやろう」


ゴモンの指示でトムスがパズルを動かす。

生き返れるトムスなら、罠が作動してもやり直しがきくはずだ。


「ワタル、煮沸した水を作ったけど、それをどうするの?」

「呼び水は、ポンプのレバーを押し下げて、その状態で上の穴から水を流し込んで、パイプの中を水で満たすんだ。そうすれば、水が上がってくるはずなんだ」

「だって。じゃ、兄さん後はお願い」

「わかった」


ジェシカに言われ、リックが水を取りに炊事場へ向かった。

そんなに難しい事じゃないから、任せておいていいだろう。


さて、掃除もあらかた終わったが、皆何をしているんだろうか。


「リタさん、何か手伝うことはありますかね」

「あらワタルさん、手伝ってくれるの? それなら、あの燭台のガラスを磨いていただけるかしら」


そう言って示された物は、天井からぶら下がるシャンデリア。

当然高い位置にあって、普通では手が届かない。


「え、どうやって?」

「そこの収納に三脚があるはずだから、それを使ってね」


示された場所は、装飾の施された木製の壁。

一体どこに収納があるのかとみていれば、急に違和感を感じる部分が見つかる。


『これが取っ手か?』


気になった部分に手をかけ引くと、壁と思っていた部分が手前に動いた。


『リタが知っているという事は、これはごく普通の仕掛けなのか? そうなると、俺が思っていた以上にこの建物は複雑で、見つけていないアイテムが多数あるのかも』


収納に入っていた三脚は木製だった。

形は造園屋さんが使っている下が広い三角形のはしごに、支えの棒がついた物だったけど、総丸木作りで固定カ所は全て縄で縛ってあった。


『これ大丈夫なんだろうか』


そう思いながら、三脚を立てていると。


「僕が上がって磨きますよ」


金髪碧眼のマリク少年が手伝いを申し出てくれた。


「僕でも手が届くし、ワタルさんより軽いですから」

「そ、そうか、軽い方がこの三脚でも安心だね。それじゃ悪いけど上に上がってくれるかい」

「はい」


マリク少年は羊飼いで、テイマー1のスキルを持っている。いずれ家畜を手に入れたら、彼に任せるつもりだ。


「なら、下は俺が抑えるよ」


次に声をかけてきたのは、茶髪の日焼けした精悍な男だった。

彼モレスと言う名の船乗りで、操船2と短剣術2を持っている。

この世界の船はまだ見ていないが、帆船だとすれば海賊なども居るのだろうから、戦闘力があるのも当然かもしれない。


「別に俺が押さえても良いけど?」

「いや、押さえるだけなら俺でもできる。あんたはあんたにしか出来ないことをしてくれ」


そう言って、モレスが三脚を押さえたので、俺はお役御免となってしまった。

モレスとマリクに礼を言って離れたが、俺にしかできない事と言われても、ちょっと思いつかない。

他にやることは無いかと思いながら歩いていると、廊下の先から手に籠をもったシスターが現れた。


「リンドさんその服は?」

「ジーンが用意してくれたの、似合うかしら?」

「大変よろしいと思います」


リンドは製本家で作本2と筆写2というスキルを持っている。

そう、彼女は魔導書グリモを作れるかもしれない超重要人物だ。

現状では俺しか魔法を使えないが、魔導書グリモがあれば魔法を使える者を増やせる可能性がある。それに俺自身が使う魔導書グリモのスペアも欲しい。

魔法を使うには魔導書グリモと巻物が必須で、それは使用者が保持していないとだめだという制約がある。俺は初期装備の頭陀袋に、魔導書グリモ入れているので失くすことは無いように思えるが、頭陀袋が破損すればその限りではないのだ。


「ありがとう。お世辞でもうれしいわ」

「いえいえ、お世辞ではないですよ」


シスターベールからこぼれる、赤みのある金髪と丸メガネが、ちょっとコスプレっぽいけど俺的にはアリです。


「おや、迷い人君はジェシカよりリンドの方が好みなのかい」

「あら、エイブラム。盗み聞きなんて悪趣味じゃなくて」

「僕は愛の歌い手、人の恋路には興味深々なのさ」

「私、あなたにだけは、歌われたくないわ」


エイブラムは吟遊詩人で演奏2歌唱2呪歌2のスキルを持っている。

おそらくはバードと言われる、呪歌で魔法をかけるキャラなのだろう。

ん?そうなると、俺の使う魔法とは異なる体系の魔法なのか?

後で呪歌について聞いてみたいものだ。


「それは残念ですね」


あまり残念がっては見えない顔でエイブラムが言った。


「あ、そうそう。私は、このお野菜を炊事場に持っていくところだったの。ごめんなさいワタルさん、また後でお話しましょうね」

「ああ、またあとで」


エイブラムから逃げるように、リンドは去って行った。

エイブラムは愛の歌い手を自称する割に、女性受けはよく無いようだ。

顔と声はそこそこ良いんだけど性格に難ありだね。


「リンドは行ってしまったか。それじゃ、僕は次の愛を探しに行くよ。愛の相談は何時でも受け付けるから、迷い人君も是非僕に愛の悩みを聞かせてね」


そう言って、エイブラムは去って行った。

お前、それはただのネタ集めだろ。

俺も絶対に、お前にだけは相談しないぞ。

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