リック死す

「ゴモンは、教会を調べたいなら、直ぐ始めてくれるか」

「いいのか」

「ああ、頼む」


ゴモンのNPCシーフとしての設定が、この場の探索と関係あるなら、ステータスを手に入れる前に、一通り試した方がいいと思えたので、探索を優先してもらった。


「それじゃ、掃除と部屋割りと食事の用意をしましょうか」


リタの意見に従って、皆動き出す。

彼女が女性陣では最年ち…おっと、背中にチクチク視線が刺さるぞ、これ以上は言ってはいけないようだな。

しかしまあ何だな。

明るいところでこうしてみてみると、皆酷い恰好をしているな。

ジェシカ以外にも、破れた服を着た者や、汚れの目立つものが殆どで、物乞いをしていたゴモンと大差ないな。


「武器に服に生活用品、探す物が沢山あるな」


履き掃除をしながらリックと話す。


「明日、武器と防具と服を探しに行こうぜ」

「そうだな、あの格好じゃ「そこの二人、二人で水を汲んできて」水?」

「そう、お水が無いの。たぶん裏庭に井戸があると思うわ」

「なんで俺たちが?」

「女性を舐めまわすような目で見ていたから」


酷い誤解だ。


「仕方がない、行ってくるか」

「…わかった」


思うところはあるが、実の兄が仕方がないというなら、言われた通りにするか。

俺たちは炊事場にあったかめをもって、井戸へと向かう。


「真面目な話、俺たちが来る必要あったと思うか」

「一応外だからな」

「塀を直せば、裏庭は安全になるか?」

「見張りを立てる必要はあるが、ある程度の安全は確保できるな」


そして井戸を見つけ、ガチャポンプを動かすが、水が出ない。


「出ないな」

「呼び水がないとだめかもしれない」

「川の水を煮沸して使うか」

「川あるのか」

「そりゃあるよ。でなきゃ下水が流れないぞ」

「それもそうだな」


俺たちは近くにあるという川へ。


「見た目はそこそこ、きれいか」


瓶に汲んで鑑定する。

うん、要煮沸らしい。


「持ち帰って煮沸して、それでガチャポンプ動かして、駄目ならまた汲みに来るようだな」

「そうだな。ところで、ジェシカの事どう思うよ」

「いきなりどうした」

「実はな、あいつは強い男が好みなんだ」

「へえ」

「屋台をやっていたのも、ハンターが目当てだったんだ」

「マジか」


本当にそんな理由か?思い込みで適当言うと、後で怒られるぞ。


「で、現状お前が一番強い」

「強いといっても、魔法が使えるだけで、武器だったらトムスに負けるかもしれないぞ」

「だが、実績が違う。一人でゴブリンを殲滅してジェシカを助け、死にかけた俺を助けてオークを殲滅。ハンターがどれだけ強くても、俺たちは見たわけじゃないが、お前は目の前で魅せた。ジェシカはお前を気にいっている」

「そのわりに、こうして実の兄と共に、こき使われているけどな」

「実は俺たちは本当の兄妹…。


(おいおい、実は血のつながりが無くて、お前も好きだっていうのか?)


…なんだけど、昔から俺への当たりがキツイんだ」

「知らねえよ!」


深読みして損したよ。


「まあ妹をよろしく頼む」

「何のフラグだよ」


そんな事を話しながら水がめをリックが持ち上げた時、川岸の泥で足を滑らせて、ひっくり返るようにしてリックが川に落ちた。


「おまえ、何をやって…え?」


リックの落ちた場所から、水が急速に赤く染まっていった。


「リックううう」


俺は慌ててリックを引きずり上げたが、リックの首は半ばまで切れ…


…リックは、目を開けたまま絶命していた。

リックの倒れていたところに目を凝らすと、水中に両刃の斧が刺さっていた。

リックはこの刃の上に倒れてしまったのだろう。


「そんな…俺はジェシカになんて言えば…」



リックの遺体と瓶をバッグにしまって、川から上がる。

また不幸な事故が起きないよう、斧も一応拾っておいた。


俺は彼の最期をみとった者として、ジェシカには確りと報告しなければいけない。


涙をぬぐい顔を上げた時……目の前に全裸のリックが居た。

いや、よく見れば浮いて透けているから、これは幽霊か?

その表情は泣いているようにも見えるが、涙自体は見えない。


「お前何やっているんだ?」

『!? 〇×%$&##』

「いや、わかんねえ。幽霊になったなら、とにかく教会へ戻るぞ」


俺の呼びかけに反応して何か言っているようだけど、人の言葉にはなっていない。

俺とリック(幽霊)は教会へと走り、正面扉を開けると直ぐに叫んだ。


「女性は今すぐ目を閉じろ!」

「「「「「!?」」」」」


だが俺の叫びもむなしく。


「「「「「キャアアアアアア」」」」」

「遅かったか(笑)」


幽霊&全裸のリックを見てしまい、女性から悲鳴が上がった。



「すげえー 俺、生き返ったぞ」


全裸のリックが礼拝堂で実体化した。


「ど、どういうこと」

「実はリックの奴は川岸で足を滑られて川に落ちた。その時に運悪く水中にあったこの斧で、首をざっくりと」


俺はそう言って斧を見せる。

斧は陽光を反射してきらりと光った。


「ちょ、ちょっと見せていただいてもよろしいですか」


すると遠巻きに話を聞いていたヘイジのおっさんが、鼻息荒く俺へと詰め寄ってきた。

すぐ横にはミネアちゃんも居るぞ。

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