教会へ引っ越す

「あいつは何時も、ああなのか?」

「そうね、兄さんは基本あんな感じね」


そうか、あんな感じか。


「ワタル、肉を出してくれ。あいつら『今更返せと言われても知るか』と言って、ワタルの分の肉すら拒否しやがった」


行ったと思ったらもう戻ってきたよ。


「いや、渡した肉を返せというのは、どうかと思うぞ」


食い物の恨みは怖いというのを知らないのか。

他の人たちも生暖かい目をしているし、ジェシカに至っては頭を抱えているぞ。

リックに肉を渡すと、それを抱えてまた外へ出ていった。


「肉を地下で焼いているのか?」


煙や匂いが下水路に充満しそうなんだが。


「換気用の通風孔があって、その近くで焼いているのよ。外で焼きたいけど、ゴブリンなんかが来ると危ないからね」

「なるほどね。だけど教会では…あ、そう言えば調理場があったな」

「食堂もあったし、部屋数もそれなりだったから、ここよりはかなりマシよ」

「ふむ、奥の奴らに話を通しに行くなら、現地を知っているジェシカが説明するのが一番良いが頼めるか」

「いいわよ」

「よし、俺たちはちょっと行ってくる」


そう言って、トムスとジェシカが部屋を出て、奥へと説明に向かった。

部屋に残ったのは俺とベン夫妻のみか。

リタを鑑定…あ、リタは革職人なのか。

そうか、トムスを介して狩人と革職人の夫婦が、焼き肉屋と知り合った感じなのだろうな。


「東の森にはどんな魔物が出るか教えてもらえますか」


共通の話題もないので、魔物について聞くことにした。


「そうだな、獣系であれば、三角羊に剛腕兎と針狼、人型であればゴブリン・ギリドゥと稀に全身に奇妙な文様を描いた蛮族が居るかな。ああそうそう、もっと砕けた感じで話してもらって構わないよ」

「では言葉遣いは、そのように。動物はなんとなくわかるけど、ゴブリン・ギリドゥというのは、普通のゴブリンと何が違うんです?」

「ゴブリン・ギリドゥは基本的にはゴブリンなんだが、木の葉や枝で全身を包んでいる奴らだ。森の中だけに、見つけるのが困難な上に弓を使う奴らだね。でも臆病だからさほど脅威にはならないかな」


つまりギリースーツを着た、弓持ちの暗殺者のようなゴブリンか?


「厄介そうですけど、脅威ではないとは?」

「そいつらは本当に憶病でね、いきなり出会ったりしなければ、こっちに気が付いた時点で逃げていくよ。」

「俺の中のゴブリンイメージとだいぶ違うんですけど」

「変わり種ではあるかな。お、リックが戻ってきたようだよ」

「え、何故わか…感知スキルの効果ですか?」

「感知スキル? 俺はそんなスキルを持っているのかい」

「知らなかっ「できたぞ、さあ食ってくれ」たんですか」


委細構わず話をぶった切ってくる奴だな。


「知らなかったというより、自分のスキルを知ることができると、思っていなかったね」


そしてベンもリックに構わず話を続けるのかよ。


「冷めるとまずくなる。話は食ってからにしろ」


自己中か。


「わかった、いただこう。ところで、リックは料理ではなく男料理と言うスキルを持っているようだけど、思い当たる節はあるか」


リックから肉の皿を受け取りながら訊ねる。ステーキの見た目は普通…よりでかいな。


「いや、わからんが?」

「俺が思うには、リックの料理はかなり適当だが、どういうわけか不思議と食べられるものに仕上がるから、そういうスキルなんじゃないか?」

「なるほど…あ、確かに若干味付けが濃いけど悪くないな、美味いよ」


普通と違う調味料使っても、奇跡的に美味い物を作れるとか、そんな感じのスキルか? ある意味普通の料理スキルより使えるな。


「ジェシカとトムスはどうした」

「奥の奴らにここを出ると伝えに行ったよ」

「そうか、俺も行ってくる」


暫くして、三人が何人もの人を連れて戻ってきた。

話していたより多いじゃないか、ベッドが足りないぞ。


部屋に全員を入れると、一気に狭くなったけど、ここで話をするのか?

俺が心の中でそんな問いかけをしながら、トムスに視線を送ると彼が口を開いた。


「全員引っ越しを希望するそうだから、直ぐに移動しよう」

「わかった俺とリック…いやベンが先頭に立ってもらった方が良いか?」

「教会はわかるから、俺が先導しよう。後ろは戦える者で固めてくれ」


引っ越しをするのは、最初の五人に加えて、九人となり俺を加えた15人が教会に住むことになった。

俺たちと同行した面子は、ジーン(女19)マリク(男13)エイブラム(男23)ゴモン(男32)モレス(男25)ペプス(男22)リンド(女22)ゼーリン(男27)ヘイジ(男42)ミネア(女10)で、ヘイジとミネアは親子になるが、他は他人のようだ。

元がNPCの町人なので、家族構成まで設定されている方が稀なのだろうな。



「結局残ったのは五人程か?」

「ならず者とその情婦か」

「え、ベゼットさんが?」

「トムスさんはもう少し女を見る目を養うべきだね」

「流石、吟遊詩人。いう事が違うね」

「若いいねえ」

「お父さん『じょうふ』ってなあに?」

「あ、そ、それはミネアは知らなくていい事だよ」

「マリクはこういう駄目な大人にならないようにね」


あんたら気を抜きすぎじゃないか? 真面目に警戒しているのは俺とベンとゴモンだけじゃないか。


「にしても、正直言ってゴモンは、向こう側だと思っていたよ」


お、トムスがゴモンに切り込んだぞ、果たしてどう答える?

ちなみにゴモンの職業とスキルはこうだ。

ゴモン 物乞い(シーフ) 開錠2 罠術3 索敵2 忍び足2 探索2


驚愕の5スキル持ちで、RPGの遺跡探索に欠かせないシーフ職だ。職業も物乞いに偽装していて他とちょっと違うし、もしかしたら特定のイベントで、プレイヤーの協力者になるとか、そういう感じのキャラクターだったんじゃなかろうか。


「俺は荒事が苦手だから、あいつらに従っていたまでだ。オーク肉の差し入れの後に、あんたと嬢ちゃんが急に凄みを増して現れた時、俺は今が節目の時と思ったね。それに教会は以前から気になっていたんだ。これは感だが、あそこには何か秘密があるはずだ」


「秘密ってどんな?」

「あんたが迷い人で、教会を開けたお方だね。あの教会、外見の見た目より中が狭くなかったか」

「いや、そう言われても外はあまり見ていなかったから、ちょっと分からないな」

「そうか、だったら俺に教会を調べる許可をくれないか」

「構わないけど、俺の許可が必要か?」

「なんとなく、そんな気がした」


これは本当に、プレイヤーの依頼でNPCのシーフが、教会を探索するイベントがあったのかもしれないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る