アンクの情報
「ベンさんは、森の中にあるアンクと呼ばれるものに、心当たりがありませんか」
恒例のお礼とあいさつを終えた俺は、ベンに本題を切り出した。
「いや、アンクなんて聞いたこともないが、それはいったいどんな物なんだ」
「俺も実物は知らないので、想像でしかありませんが、例えば森の中に石像や石碑があるとか、祭壇や祠がポツンとあると言った感じでしょうか。あとは、狩場でもないのによそ者が近くに居る事が多い場所とか」
「よそ者? ああ、魔物ハンターの事か。そういわれてみると、あいつらをよく見かけた場所の近くに、小さな泉とその水が湧き出す祠があったな」
ちらりとジェシカに視線を移すと、そっぽを向いて口笛ふく真似をしていた。誤魔化し方が古いぞ。
「その場所へ案内してもらうことはできますか」
「俺はハンターが消えた後に、一度その近くへ行って魔物に襲われて負傷した。それなりに危険がある場所だが、それを承知でというなら案内しよう」
「決まりだな」
俺が答える前にリックが何故か返答した。
「案内をお願いします。それとリック、何か意気込んでいるみたいだけど、お前は連れて行かないぞ」
「え、何故だ」
「何故って、お前武器ないだろ」
ちなみにリックとベンのステータスはこうだ。
【名前 リック】
【種族 人族】
【年齢 20歳】
【状態 健康】
【職業 大工】
【スキル 木工2 鎚術2 男料理1】
【固有スキル 】
木製が槌で金属製が鎚だよな。鎚術って叩く部分が金属製じゃないとだめって事だ。
で、男料理ってなんだ?
愚羅嘆(グラタン)とか八鳳祭(はっぽうさい)とか、そういう当て字をしそうな料理か?
【名前 ベン】
【種族 人族】
【年齢 38歳】
【状態 疲労(小)】
【職業 猟師】
【スキル 弓術3 罠術2 感知2 解体2】
【固有スキル 】
4スキル持ちと言うのは、年齢的な理由もあるかもしれないけど、かなり優秀なんじゃないだろうか。
感知と言うのはレーダーの様なものかな?
鑑定のレベルが上がりました。
鑑定が2レベルに達したため開示スキル(パッシブ)を取得しました。
お?スキル上がった。
そして、視界に人の名前と職業がでたよ。
「武器ならメイスがあるじゃないか」
おっと、いけない。話中だった。
色々気になるけど今はお預けだな。
「お前メイスのスキル無いから、オークに弾かれていたじゃないか」
似た系統に思えるが、鎚術は所謂(いわゆる)バトルハンマーなどの、重くて大型のハンマーを使うスキルで、一方のメイスは棍術系統なのだろう。
「あれは、何というか当たり所が悪くて…」
「兄さんは留守番。森には私が付いていく」
「は?お前何言っているんだ」
「リック、ジェシカ嬢の突きは槍の穂先が立ち木を貫通するレベルだぞ。そして俺は刃物を使えば、生きたオークを解体できると思う」
「え…本当に?」
「ジェシカ・トムス・俺の三人は、静かにうなづいた」
「それで、この後どうする?東の森は地下からも行けるが、途中にあいつらが居るんだよな」
そう言ってベンは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「あいつらって?」
「さっき話していた引きこもり共だよ。連中は東の森へ出入りすると、その出入り口が魔物に見つかって、そこから侵入される危険があるから、出入りするなと言うんだよ」
なるほど、確かにリスクが無いとは言えないな。
「そうだ、武器屋に行こう!」
部屋の隅で小さくなって、のの字を書いていたリックが、突然叫んで立ち上がった。
「突然どうした」
「今思い出した、教会の近くに武器屋があったはずだ。建物が壊れていても、鎚の一つくらいあるかもしれないし、鍛冶屋が併設されていたから、最悪でも鍛冶用のハンマーはあるはずだ」
「地上を通るなら、教会は東の森へ行く途中にあるな」
「その教会が安全なら、いっそそっちに引っ越しても良いかもな」
「そうだな、正直言ってそりの合わねえ連中もいるからな」
「でもそれなら、話位は通した方が良いんじゃない?こっち側や中立に黙ってというのはよくないわ」
教会への引っ越しか、俺は別に構わないが、何人行くんだろうか?
「ジェシカとリックは教会を見ているわけだが、何人ぐらいでの引っ越しを考えている?」
「そうね、ここで既に紹介した人に加えて、3~4人かしら」(ジェシカ)
「ジーンとマリク、それとエイブラムも話に乗るか?」(リック)
「ベゼットは?」(ベン)
「あの人は面倒見が良いからなあ。ここの連中を捨てられないだろう」(トムス)
「………(あらまあ)」(リタ)
「………(あの女のはそんな玉じゃ無いわね)」(ジェシカ)
「………(うちの旦那もまた騙されているのかしら?)」(リタ)
知らない名前が次々に上がる。
そして、ジェシカとリタが何だか怖い。
「ここに居るのは皆知り合いなのか?」
「いや、ここに来て知り合った感じだよ。名前が上がったのは社交性があって、何度も話して人柄を知っているからだ。逆に名前すら知らないやつもいる」
トムスが名前も知らないって、そりゃ相手の方が悪そうだな。
「それじゃ、説明して明日引っ越すか」
「え、何で明日なの?早く引っ越して、今夜はベッドで寝たいのだけど」
「俺もジェシカに賛成だ。まだ時間はあるし、今日中に引っ越せるだろ」
あれ?
「なあ、俺の体感では結構長く起きているんだけど、日が落ちるまでにはまだ余裕があるのか?」
「あ、言っていなかったわね」
え、何この世界は昼が20時間あるとかそんな感じ?
「ワタルが『後は頼む』みたいに言って寝てから、一晩経ったわよ。今は寝た日の翌日の昼前ね」
「マジか、俺こっち来てから干し肉一枚しか食べてないぞ」
「そう言えばそうね、オーク肉の串『よし、俺がステーキを焼いてやろう』焼き作ってあげようかと思ったけど、ステーキが出てくるみたいね」
ジェシカの言葉にかぶせたリックは、再び部屋の外へ出ていった。
早くも男料理スキルの洗礼を受けるのか、ちゃんと食えるんだろうか。
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