新しい魔法

「いえいえ、実はベンさんに教えていただきたいことがありまして。ですがその話はまた後程にしましょう。ベンさんが目を覚ましたら念のために、先程の残りの毒消し薬を飲ませてください。後は体力を回復するために精のつく食べ物を、食べさせてやれると良いのですが」


と言っても、食料事情は悪そうだよな。

スタミナポーションを飲ませるしかないかな。


「精のつく物と言えば肉だろう」


部屋の入り口から、そんな声がかかり振り返れば、生肉を抱えたリックとトムスの姿があった。


「病み上がりの人に肉食わせるとか、拷問だぞ」

「え、そうなのか?」

「肉っていうのは、消化するのに力を使うからな。弱った体には重いんだよ。できたら軟らかく煮た野菜や穀物に、細かく刻んた少量の肉を入れたぐらいが良いと思う」


俺の話を聞いたリックが、下水路の奥へと消えていった。奥にまだ部屋があって人がいるのだろうな。


「さて、ベンの治療はできたけど…他の生き残りの人たちは、どうしているんだ?」


事前に聞いていた話ではもっと人数が居たようだが、今ここに居る面子とリック以外の姿がないのが少し気になったので、聞いてみたのだが。


「残りの人は、すっかり怯えてしまって…ワタルの事も信じられないからって、下水路の奥に引きこもっちゃって…」

「そうか、それはまあ仕方がないな」

「なに、ベンが回復したと知れば、俺たちに協力してくれるものも、出てくるだろうさ。いつまでもこんな所には居られないんだ、心配するほどでもないさ」


トムスはそう言って、笑い飛ばす。…ところで、その生肉どうするの?

俺が生肉を見ていると、トムスも気が付いたようで。


「あ、これか、これはワタルが倒したワタルの肉だ。そう言えばリックの奴が勝手に一つ持って行ってしまったな、申し訳ない」

「いや、俺も自分のって意識が無かったですし、リックも戦っていましたから」

「兄さん瞬殺されていたけど?」

「まあそうだけどね」


兄に厳しい妹だな。


「それで、この肉だがバッグに入れておけば腐らないから、しまってくれるか」

「え、腐らないんですか、俺も手に入れたばかりのバッグなので、見かけよりも入るという事しか知らないのですけど」

「そうか、しかしここは湿気が多いから生肉を置いておくような場所は無いし、ダメもとという事で」


下水がすぐはたを流れていて、不衛生だしね。


「それじゃ、バッグの中の物をいくつか出しますので、代わりに肉を入れましょう」

「なら、残ったオーク肉も入れてくれ。外に置いてあるから」

「わかりました」


外に出て肉を回収する。

肉は木箱に入れてあったが、あまりきれいな箱ではないので、バッグの中で腐らなかったとしても、調理前に洗った方が良いな。


「俺の死体が一つしかないんですけど」


オークと一緒に魔法に巻き込まれて燃え尽きたのかな?


「あ、あれは、俺が埋めた。見た目が相当ヤバかったが、掘り出すか?」

「いえ、そんな状態なら埋めたままで。お手数おかけしてすみません」


肉食系魔物狩る時に、餌として使う事を考えていたけど、埋めたならそれはそれで良しとしよう。


「それから、オークを解体した時に、これが出てきた」


そう言ってトムスが差し出してきたのは、ゴブリンの物よりは大きな石と、巻物2つと布だった。


「出てきたというと、解体スキルですか」

「ああ、オークに解体スキルを使うと、肉のブロック以外にも、アイテムが出る事がある。今回はこのアイテムがでた」

「ほうほう」

「純粋に肉を取るなら普通に解体するが、今は保管もできないから、スキルを使わせてもらったが、このアイテムもワタルに権利がある」


そう言ってトムスは、石と巻物2つと布…小さな旗を俺に渡してきた。


「貰っていいのか」

「倒した者の当然の権利だ、それに俺たちではうまく使えないさ」

「では遠慮なく」


ではアイテムは何かな。


鑑定 巻物


巻物 エンチャントウエポン(火)

任意の武器に属性の力を付与する。

エンチャントの効果は、武器使用者によって対象を指定できる。


鑑定 巻物


巻物 聖光(ホーリーライト)

聖なる光を発する魔法。

不浄なるものに効果がある。

直視するとまぶしい。




鑑定 旗


旗 フラグ

地に刺せば転移ポイントとして記録される。

対象となる魔法 テレポート ゲート


ほう、支援魔法と対アンデット用の魔法に、転移系魔法用のアイテムか。

早速実験してみようじゃないか。


俺はバッグから槍を取り出して、近くにあった立木へと向かう。


「おい、急にどうした」


突然、槍をもって歩き出した俺を見て、トムスが訝しげな声を上げるが、魔法剣(槍)というロマンを前には、おっさんの戸惑い何て知った事じゃない。

片手で持った槍を前に突き出し、魔法を唱える。


「エンチャント」


俺の言葉に応じて、穂先が炎に包まれた。


「うお、なんだいそれは!」


「ふ、魔法剣!」


言って、体を捻りながら、槍を持った腕を左へと運ぶ。

剣じゃねえと、ツッコミされそうだが、槍ではゴロが悪いからなあ。


「一文字切りぃぃぃ」


叫びと共に、槍を左から右へと一気に振りぬいた。

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