これは焼豚ではない

「…少しイメージと違うけど、オークと言うやつかな。よし、鑑定してみよう」


【名前   】

【種族 イベリ小オーク】

【年齢 5歳】

【状態 健康】

【職業   】

【スキル  ※※※※】

【固有スキル 】


オーク種の中で最も小型の種。

名前の表向きな由来は、イベリ茸というキノコを好むことから。

腕力は人の比ではないが、倒して得られる肉は美味しい。


おお、どこかで聞いたような名前の…って、表向きってなんだよ。そういうメタな事言うな。

それと、スキルが※印って、何かスキルを持っているけど、俺にはまだわからないという事か。


「まだドアは破られていないようだな。ワタル、あいつらを魔法で攻撃できるか!?」

「あ?わ、わかった、やってみる」

やべえ、鑑定も気を付けないと、意識を持っていかれて、ミスしそうだな。

さて、建物は石作りだが、ドアは木製。ならば、火球ではなく刃旋風が良いか。


「大気を揺蕩うマナよ、集いて刃となり、敵を刻め 刃旋風」


呪文の詠唱に応え、俺の手元から旋風が放たれ、土煙を巻き上げながら、オークへと襲い掛かった。


「「「「「ブギ!」」」」」


俺の呪文を聞いたのか、迫りくる刃旋風に気が付いたのか、オークが一斉に振り返った。

そこへ巨大な刃旋風が襲い掛かる。

前回は2メートル程度だったそれは、詠唱によって4メートル近い大きさになり、その凶悪な刃をオークへと振るう。


「プギャー」


オークの一体が旋風に飲まれ、血煙ヘと変わる。旋風刃は次なら獲物へと襲い掛かり、瞬く間に三体のオークを切り刻んだが、しかしここで一体のオークが低く構えて叫び声をあげた。


「プギプギプギィィィィ」


叫び声は何らかの、スキルか魔法だったらしく、間もなくオークの体が赤く輝く半透明な外殻に包まれた。そして、オークは中腰姿勢で刃旋風に突撃する。


オークの鼻先と刃旋風が衝突し、突風と赤光がせめぎ合う膠着の後に、オークが刃旋風を突き破ったかに見えたが、直後外殻が弾け飛びオークの体から血しぶきが上がる。


「ピギー」


どさりとオークが倒れたが、後を追うように刃旋風も風に溶け消えていく。


「ち、倒せたのは四体か」

「残った奴らが来る。行くぞ」


リックが盾をかざしながら、メイスを振り上げて走り出す。


「ちょっ、行くぞじゃねえよ」


敵との距離はまだあったのだから、もう一発ぐらい魔法が撃てたのにリックが距離を詰めては撃てないじゃないか。

しかたがなく、俺も槍を握りしめ、リックの後を追って、オークへ走る。


「おりゃああ」


リックがメイスを、オークの左肩へと振り下ろす。

対するオークは、無手で殴りかかってきていたが、メイスを持ったリックと、無手のオークとではリーチが違う。

当然、先に当たったのはリックのメイス。

だが。


「なっ」


振り下ろされたメイスは、見事オークの肩を捉えたが、分厚い筋肉はゴムタイヤの如き弾力もって、リックのメイスを跳ね返してしまった。

反動で、右腕を跳ね上がてしまったリックは、オークを前にしてのけぞり、姿勢を崩してしまう。

そこにオークの右腕が迫る。


「うわああ」

「リックぅぅぅ」


リックは山なりに迫る、オークの腕を遮るように小盾をかざしたが、崩れた体勢では受け止めることができず、大きく吹き飛ばされ地を転がっていく。


俺は自分が向かっていたオークに向け、無詠唱で火球を放つ。

急に現れた火球への対応が遅れたオークに、火球が当たり炎で包み込む。普段ほどの威力は無いとはいえ、これで一時的にでも動きを止めることができたので、目標を変えてリックの救援に向かう。

俺は横合いから、腰だめに槍を構えて、リックの相手だったオークに突撃する。俺の接近に気が付いたオークが、リックへの追撃を諦め、俺へと向きを変える。

くそ、こいつら対応が早いな、思った以上に賢いかもしれない。


「プギプギプギィィィィ」


くそ、この叫び声はさっきの赤いやつか?

あの外殻をまとわれては、俺の攻撃なんて絶対通用しないぞ。


「間に合えええ」


叫びながら、力いっぱい槍を突き出す俺。

オークを包んだ赤い光が、オークの右腕へと移動し、右腕が外殻に包まれた。


ちょっと、なにそれ。


オークは俺の槍をダッキングで躱し、下から突き上げるようなパンチを、俺の槍に放つ。

前傾姿勢で槍を突き出している俺に、対処しようもなく。


バキン


俺の槍はあっさり折れ飛び、反動で俺の両腕は跳ね上げられ、上体も反らされてしまう。

大きな一発を打ったにもかかわらず、オークは一瞬で俺の懐へと迫り、追撃の左が引き絞られる。

まずい、無防備な俺のぷよ腹に腹パンなんてされたら、一発で終わる。


オークの左ストレートが、俺の腹へと迫るが、俺の体は全く反応しない。俺はただオークの拳を凝視し、死の瞬間をスローモーションのように眺める事しかでき…死?


「2号3号でろ!」


とっさの閃きで叫び、槍を手放し両手を後頭部へ。脇を閉め、頭を腕で挟んだ瞬間に、何かがぶつかる衝撃を受け、後ろへ跳ね飛ばされ、背中を強かに打ち付け息が詰まる。


「ぐはっっ…、くっ、ひ、ヒール」


ヒールで回復し、直ぐに身を起こせば、オークもまた死体の下から抜け出そうともがいていた。


「火球、火球、火球」

「「ピギャアアアア」」


火球2つを、今戦っていたオークへ放ち、残る一発を遠巻きに見ていた一匹に放つ。

2匹が焼けて倒れると、立っているオークはいなかった。

もしかしたら逃げた個体も居るかもしれないが、とりあえず戦闘終了と考えて良いだろう。


「リック、生きてるか」

「左腕が折れて、頭から血を流しているけど、まだ息はあるわ。お願い兄さんを助けて」


いつの間にか追いついていたジェシカが、リックの具合を伝えてくれたが、結構ヤバいみたいだ。


「回復魔法を使うが、一応薬を渡しとく。俺が気を失って、それでもリックの怪我がないっていなかったら、その薬を…どうにかしてリックに飲ませろ。じゃ、回復するぞ」


俺は魔導書を取り出して手に持ち、リックの横に片膝ついて呪文を詠唱する。


「万能なるマナよ、その清く温かな力をもって、倒れし者の傷を癒せ。ヒール」


リックが淡い光に包まれ、それが消えると身じろぎして、起き上がろうとしてきた。

どうやら、十分な回復効果があったようだな。


「後はたの…」


最後まで言い終わる前に、俺の意識は遠のいていった。


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