生存者たちの元へ
「ちょっとその木槌、見せてもらっていいか」
「ああ、いいよ」
俺は木槌を受け取り、鑑定をかけた。
鑑定 木槌
種別 インテリア
特性 非破壊
貴方の家を彩る展示用アイテム。
この木槌による攻撃では、ダメージが与えられないため、武器としては使えない。
一時期、木槌相撲と称した、プレイヤー同士の殴り合いに使われた。
インテリア…そうだよな~、ゲームだったものな~そういうのも有るよな。
「……リック、これは飾りだ」
「飾り?」
「そうだ、家に飾るためのアイテムで、武器じゃないし道具ですらない。これは何処で手に入れた?」
「…大工の親方の家にあった物を、とっさに掴んで持ってきた。…そうか飾りだったのかって、そんな物があるわけないだろ」
「気持ちはわかるが、事実は変えられない。これはただの飾りだ」
まずい…そうなると、俺が考えていたことの前提が狂うぞ。
「ちょっと調べてくる」
「お、おい急にどうした」
俺は急ぎ、教会の正面扉を押し開けて外へと出る。
リックたちが慌てて、俺を追いかけてくるが、ついてきても何もないぞ。
外に出た俺は、教会へと向き直り鑑定を発動する。
鑑定 教会
種別 特殊建築物
特性 死者蘇生・非破壊・転移機能
死んだプレイヤーは、この場所にて蘇生できる。
世界各地に点在するアンクへの転移が可能。
ただし、転移は確認済みのアンクに限る。
よかった、教会は非破壊だ。
俺の思い込みで、他の人を呼んだ後に『実はリックの木槌が攻撃力0だから、教会の扉は壊れなかっただけ。武器を使えば普通に壊れる』とかだったら、目も当てられなかったよ。
それと、何気に凄い事が書いてあるぞ。
「二人とも、この教会は非破壊らしいから、絶対に壊れないようだぞ」
「壊れないって…この世界は、どうなってんだ」
「え、非破壊?そんな凄い建物があったの?」
リックが少し疲れたように呟く。
ジェシカはまだ余裕がありそうだぞ、妹を見習いたまえ。
「らしいな。それと、アンクという言葉に聞き覚えは無いか」
「アンク?俺は知らないな」
「私は広場で屋台をやっていた時に、聞いたことがあるわ。よそ者が、東の森のアンクがどうとか、言っていたと思う」
「東の森は食料が豊富だが、魔物も出ると聞いたぞ」
「狩人のベンさんなら知っているかも」
「狩人って事は、狩りができるのか?」
馬鹿みたいに、当たり前のことを聞いたけれど、ゲームのNPCだったなら、肩書だけで実際には、狩と無縁てこともありえるんだよな。
「ええ、下水路でも罠を仕掛けて、大鼠を捕ってくれているわ」
う、もしかしてさっき食べた干し肉は…。
「さっきの肉って?」
「あ「あれは兎よ。ちょっと処理を失敗しちゃったから、美味しく無かったかな」…そういう事らしい」
リック、お前今何を言いかけた? それに最後の『らしい』ってなんだよ。
「ともかく、そのベンさんとやらに、会うことはできるか?」
「下水路に行けば会える。というのも、ベンさんは足を怪我していて、長距離は歩けないんだ」
「ワタルさんが治してくれれば、話も早いわね」
「治す?」
「リックは知らなかったな。俺は回復魔法と攻撃魔法が使える。近接戦も多少はこなすぜ」
「凄いな、鍛えているようには見えないのに。人は見かけによらないものだな」
「まあな」
チートですとは言えないし、非戦闘員だったリックに謙遜もどうかと思ったので、軽く肯定しておく。
「それじゃ、地下下水路に、案内してくれるか」
「わかった、ついてきてくれ」
三人で町の中を慎重に進む。
隊列はリック、ジェシカ、俺の順。
リックは木槌を手放し、教会にあったメイスと小盾を装備し、ジェシカと俺は槍。俺は剣の使い方なんて知らないし、剣道三倍段と言うからには、槍の方が圧倒的に有利なのだろう。
(現在の一般認識は『素手で剣に勝つには三倍の段位が必要』だが、本来は『槍や薙刀に剣で勝つには三倍の段位が必要』という意味の言葉)
「地下への入り口は近いのか」
「距離はそう遠くないが、途中に魔物のキャンプがあって、迂回しなくてはいけない」
「それは面倒だな。そいつら数は多いのか」
「数は多くないが、ゴブリンよりは強い個体だから油断はできない」
狭くは無さそうだけど、一つの町に複数の魔物が住みついて、それで対立することは無いのだ『プギー』?
突然聞こえた豚の様な鳴き声に、俺の思考が止まる。
「まずい、奴らの鳴き声だ。ワタル、ついてきてくれ。ジェシカは後からこい」
言ってリックが走り出すしたので、俺も慌てて後に続く。
走り出して間もなく、小さな建物を囲む集団が見えた。
後ろ姿しか見えないが、でっぷりとした体形で、ピンクの地色に黒い斑点が混ざっている。
建物と比較して、体高はおよそ1.5メートル…いや、二足歩行をしているので、身長と言うべきか。
あれは、豚?
豚という生き物は、およそ200~300キロの重量がある生き物だ。元は猪だが、野生の猪は豚程大きくはなく、体は剛毛に覆われている。前方に居る、豚とも猪とも違う生き物の特徴は、あえて言えば子豚かミニブタだだろうか。
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