事情説明
「つまり、よそ者がこの世界を去る直前に、大バカ騒ぎをした結果、町が破壊されたのか」
ンギギ ブチ モグモグ
貰いものとは言え、硬い干し肉だな。
「ああ、最初はただのバカ騒ぎだと思ったし、あいつらの使う魔法でも町は壊れなかった」
「それでも、度が過ぎた連中は、ガード兵が来て倒してくれの。ガード兵は最強だから皆そこまで心配していなかったの」
「そうだな、町中でペットのドラゴンを開放されたときは、焦ったけどそれもガード兵が一瞬で倒してくれた」
「でも、よそ者が消えた瞬間、何かが変わったの。それまでびくともしなかった壁が、ペットたちの攻撃で容易く壊れ、どんな火魔法でも燃えなかった建物が、急に燃え出して町はパニックになったわ。ペットが暴れてもガード兵は来ないし、私達には戦う力がないから、みんな慌てて逃げたわ。だけど、町の中に逃げ場は無かったの」
「俺たちを含めた十数人は、地下にある下水路に逃げ込んだ。下水路には何故かいくつかの小部屋があって、よそ者も時々出入りしているって聞いていたからな。その後、騒ぎが収まるのを待って、俺たちは外に出てみたが、町は無残なものだった」
「ガード兵が居なくなって、ゴブリンの様な魔物が町に入ってくるし、安全な家は無いしで、結局下水路に戻ったのよね。でも食料は不足しているから、そんな干し肉ぐらいしかないのよ」
俺が干し肉と格闘しているが気になったのか、ジェシカが付け足してきた。
俺は肉を飲み下してから口を開く。
「大体わかった。俺の方の事情と言うか、俺が知る情報だけど、それを話す前に一つ確認させて欲しい。二人はこの世界を管理していた、神にも等しい存在が居たと言ったら、理解できるか?」
「俺は正直分からない」
「私はなんとなくわかるわ。この教会で亡くなっていた方たちは、教会の関係者よね。なのに、武器を手に戦う事も、教会からの脱出もしないで死んでいた。普通ならあり得ないと思うの、それにあの混乱の日よ、逃げる私達と違って、燃える建物の中や魔物の前でも、全然動かない人たちがいたわ」
「そう言えばいたな、だけど放心していたとか、恐怖で動けなかったからとかじゃないのか」
「たぶん違うと思う。だって、ここの人たちが生きようとしなかった、理由にはならないもの」
二人の様子から、何か秘密があると分ってもらえたと、判断した俺は口を開く。
勿論真実を話すわけにはいかないので、内容は改変したものになる。
「この世界には、管理者がいたんだ。管理者はこの世界の魔物を間引き、世界の均衡を保つために、この世界の外から人を呼んだ。それがジェシカの言うよそ者だ。だけど、よそ者の能力は明らかに、この世界の人とかけ離れている。異常と言っても良いだろう。だから管理者は、この世界の人たちに、強い暗示をかけて、その疑問を消したのだと思う。そして何らかの理由で、この世界からよそ者が去ったとき、管理者もまたこの世界から去ったのではないかと思う。その時うまく暗示が解けたのが君たちで、暗示が残ってしまったことで、判断能力を失ったのが、この教会の人たちなんじゃないかな」
実際のところ理由はわからないが、俺の考えた本当の推察は別にある。
それは、ゲーム世界が終わったとき、この世界の時は止まった。そして、現実となった時再び動き出し、NPCは生きた生物になった。だけど全てのNPCに、同時に魂が入ったのではなく、生物とNPCが混在した時期があって、それが逃げる人と逃げないNPCの差を、生んだのではないだろうか。
「管理者か…それはこの世界の創造神様という事か?俺たちは神に捨てられたのか?」
「どうだろうな。あるいは神の部下が…さぼったとか?」
ゲーム会社とは言えないから、わからないことにしたが、二人は何とも言えない顔をしているね。
俺は生前から『この世に神が居ても現世には介入しない』と思っていたが、二人はどうなんだろうな。
「まあ管理者云々は、俺たちにはどうにもならないから、それは置いておくとして、ワタルは何故ここに?」
当然聞かれるよなあ。
「俺はたぶん、よそ者と同じか近似世界の、住人だったと思うんだけど、事故死してこの世界に送り込まれた。向こうは生き物が増え過ぎたから、こっちへ移動になったんだと。あ、俺を送り込んだのは、別の神様の部下らしいから、この世界の事は全く聞かされていないからな」
「事故死って?」
「階段から落ちて首を折った」
「…階段落ちのベテランなのね」
「お陰様でね」
「それで、ワタルはこれからどうするんだ」
「どうとは?」
身の振り方なんだろうけど、リックに案があるなら、先に聞いておきたい。
「ワタル望むなら、地下へ案内しても良いが」
ふむ、行き場のない俺からすれば、普通は悪くない提案に思えるし、リックも善意で言ってくれているのだろうけど、俺の答えは否だな。
「気持ちはありがたいが、遠慮しておくよ。俺はこの町を探索して物資を集めたい。最低限の武器はこの教会で手に入ったけど、町には武器屋や道具屋があったろう?そこならまた違った武器や、便利なアイテムがあると思うんだ。それに、そっちの生活だって、余裕はないだろ?」
「正直言って生活は良くない。食料は不足しているし、身の回りの品も同様だ。だけどワタルが協力してくれるなら、少しは町から運び込む事もできると思う」
「いや、それなら地上に出る事を考えろよ。この教会には複数の部屋があるし、二段ベッドだが10人分のベッドがある。地下で暮らすよりは、よほどいいと思うぞ。周辺には瓦礫が山ほどあるから、教会を中心にバリケードを作ることもできる」
「教会は居住空間としては悪くないが、地下下水路は町の外に通じているから、食料の調達がしやすいんだ。だけどここは町の中心に近いから、ここから外に行くとなると、町中に入り込んだ魔物と遭遇するかもしれない」
「だけど外でも危険度は変わらないだろ?」
「それはそうなんだが、俺たちは戦えないし、ワタルだって一人で戦うには限度があるだろ」
「その木槌ならゴブリンぐらい倒せるだろ。それにさっきも言ったが、ここには武器や盾がある。リックは体格も良いし、戦ったことが無くても、ゴブリンぐらいなら、どうにかなると思うぞ」
「それがなあ、逃げるときに少し戦ったけど、全然ダメだったよ。こいつで叩くと、ゴブリンは吹っ飛ぶ。だけどそれだけだ。俺がどれほど殴ってもゴブリンは死ななかった」
いや、人の頭ほどある木槌で吹っ飛ばしたら、普通死ぬだろ。
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