三の死

「ジェシカーァァァァ」


俺の全裸死体を見て絶叫を上げたジェシカ。そしてジェシカの声を聴いた何者かが、教会の前で叫んでいる。

どうしよう。

絶対に誤解される。逃げるか?

不思議なことにドアをドンドコ叩いているけれど、中に入ってくる様子はない。やはり何か特殊な条件があるのだろうか。


ジェシカを下ろしたいが、気を失った人間を俺一人で1階へ降ろすのは無理だ。

とりあえず、屋根伝いに入口へ向かって、様子をみるか。


俺は屋根の上からこっそり下を覗き見る。

下では茶色い髪の、俺と同じくらいの男が、大きな木槌を入り口のドアに叩きつけていた。あの木槌は武器というより、土木工事で使うやつに思えるけど、あれで戦闘用なのか?


「うおー開けろー、妹に何をしていやがる! ぶっ飛ばすぞー」


なるほど、ジェシカの兄か。

そこはかとなくシスコン臭が漂ってきそうなやつだが、何故ここに居るんだろ。


「お~い、下で暴れている男、聞こえるか~」

「だ、誰だ、何処にいる」


男は俺の声を聴いて、わかりやすく狼狽える。

はは、まるでお手本のような反応だな。


「上だよ、上」

「何、お、お前、お前は何者だ」


俺の声を聴いて上を見上げた男は、これまた定型の言葉を投げてきた。人だよな?NPCのAI程度の対応力に思えるけど、人だよな。


「俺は航、旅の者だ。あんたこそ何者で、何故ドアを壊そうとしているんだ」

「俺はリック、外出したまま戻らない妹を探している。ここに来たのは、鐘の音が聞こえたからだ。それに、さっき女の悲鳴が聞こえたんだ、あんたここで妹を見なかったか」


意外と確りとした説明を貰えた。


「それなら知っているぞ、妹さんに怪我はないが、ちょっとしたアクシデントがあって、今気を失っている。裏口が開くから上がってきてくれ」

「直ぐに行く、妹に手えだしたら、ただじゃすまないからな」


言って、リックはダッシュで教会の裏口へとまわり、鐘撞堂へと足音荒く駆けあがってくる。

俺は急勾配に屋根の上をそろりそろりと歩いているので、まだ鐘撞堂にはたどりつかない。


「ジェシカ、無事かって何だこりゃ!きさま、妹に手えだしやがったな」

「ん?どういうことだ」

「どういうことだとは、こっちのセリフだ、これをどう説明してくれる」


「どうと言われても、何が問題なのか分からん、ちょっと待っていろ」


鐘撞堂へと急ぎ、リックの示す場所を見る。

あらやだ、俺2号が気を失ったジェシカの上に、覆いかぶさるように倒れているじゃないの。


「いや、これは俺悪くないだろ」

「この顔どう見ても、きさまの縁者だろうが!」


縁者というか本人だけどな。


「たとえ縁者でも俺に責任(を取る気)は無い」

「…ちっ、わかった妹を下ろすのを手伝え」


俺の心の声に気が付くこともなく、リックは渋々納得したようだ。


「…で、どうやって下ろす?」

「二人で抱えて降ろそう」

「了解した」


俺は自分に近い上半身を担当しよう。

ジェシカの上に覆いかぶさる俺をバッグにしまい「おい、今死体をどこにやった」リックの言葉を無視「無視すんなやコラ」して、ジェシカを起こす。背後から密着しして脇の下に腕を入れて…。


「だから何してんだ、てめえは!」


ゴス


「んが! 痛い、痛い、いきなり何するんだ」


リックに頭を殴られ悶絶する俺。


「何するとはこっちのセリフだ、てめえよくも俺の前で、気を失った妹に抱きつけたな!」

「…人命救助活動だぞ、今はそんな事を言っている場合じゃないだろ」

「命に別状ねえよ!」

「いや、それでもこれは徒手搬送法の一つで、自衛隊だって推奨していたんだぞ」


以前、緊急救命講習を受けた時に、聞いた話ではそう言っていた。


「自衛隊?何だそりゃ」


おっと、余計な事を言ってしまったな。


「まあいい、分かった。それなら位置を入れ替えよう。お前が上半身なら文句ないだろ」

「何でお前が、偉そうにしているんだよ」


俺たちは位置を入れ替える。俺はジェシカのふくらはぎ持ち上げ、ジェシカの上半身に背を向ける。リックはさっき俺がやろうとしたように、ジェシカを起こして脇から手を入れる。この時、注意するのは脇から入れた、リック自身の手を握るのではない。正しくは、右腕をジェシカの右手脇の下から入れたら、ジェシカの左手手首をつかむ。左手をジェシカの左脇の下から入れ、ジェシカの左腕を掴む。自然、ジェシカの腹に当たるのは、ジェシカ自身の左腕になるのだ。

だが、リックは後ろから腰に手を回して、そのまま持ち上げようとした。

気絶し弛緩した人は意外と重い。

ここまで言えば、もうわかるだろう。リックはジェシカを支えきれず、その手は上にずれて、ジェシカの下乳を持ち上げる結果になった。


再び上がるジェシカの悲鳴、反射的に振るったジェシカ肘が、リックを誅し暴れた足が俺の背を蹴る。


結果、俺は階段へとダイブした。


「悪かった」

「ごめんなさい?」


俺は正座する二人を、腕組みしながら見下ろしている。


階段上から蹴落とされた俺は、首の骨を折って死んだが、礼拝堂なので即座に生き返った。

生き返ったはいいけど、初期装備の衣服を剥がれた3号が、階段下でキン肉〇スターを食らった、超人のような姿勢で鎮座していた。そんな3号を、ジェシカは蹴り飛ばしてくれやがった。


「…リックは良いとして、ジェシカは今一つ反省が足りない様だが?」

「…見せられた私も、被害者だと思うの」

「なら、今度は俺が見せられれば、プラスマイナス0ということで、どうだろう」

「貴方の頭、割って見てもいいかしら?きっと生ごみが詰まっていると思うの」

「ゴブリンが食べていた1号なら好きにしていいぞ。あ、そうだ何か食べ物を持っていないか?朝から何も食べていないんだ」

「お肉なら今すぐ用意してあげられるけど?」

「発想が猟奇的すぎるぞ」

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