第一異世界人との会話

顔が痛い。腕も何だか固定されている気がする…。



「…う~ん」


「動くな!」


「う~ん、んん? なにこれ、どういう状態? 手、動かないんだけど」


「動くなと言っているのがわからないのか!」


「え?…」



気が付くと俺は両手を背中で縛られ、地面に転がされていた。


そして、状況がわからないままに、モゾモゾと動いていた俺に、鋭い言葉と槍の穂先を向ける、女性が一人。


記憶違いでなければ、ゴブリンに捕まっていた女性だと思う。



「あ~俺は何で縛られて「喋るな!」ふごっ」



女性の蹴りが、俺の脇腹に突き刺さった。


動けず喋れずの俺は、据わった目を女性へ向ける。



「くっ睨んだって、きさまらプレイヤーの思い通りにはならないぞ!」



「……よそ者?」



言われている意味が分からず、首を傾げ…られずに顔で地面を擦った。


地味に痛い。



「きさまは、よその世界からきて、この町を破壊した奴らの仲間だろう。そこの死体が、きさまと同じ顔をしているのが、動かぬ証拠だ。今度は何をしに来た!」



そう言って女性はピッと指さした。


たぶん1号を指さしたつもりなんだろうけど、見ずに指さしたから方向違っています。



「確かに俺は、そこの死体本人だ。ここに来て間もないから、よそ者と言われたらその通りだけど、俺は町を壊したとか知らないし、俺は何も悪い事はして…あ、ごめんなさい、廃棄された教会だと思って、家探しして色々持ちだしました。盗んだと言われても仕方がないですけど、貴女を助けて治療したのは俺なんで、大目に見てもらえませんかね」


「なに⁉」


「貴女、ゴブリンに捕まっていたでしょ、俺としては危険を冒してまで、貴女を助ける必要は無かったけど、目の前で見殺しにするのもどうかと思って助けたのに、そのお礼がこれって酷くない?」


「本当に助けてくれたのか?」


「もちろん」



成り行きだけど、助けた事には間違いがない。




「ごめんなさい、よそ者には良いイメージが無かったのでつい」


「あ、い、いや、わかってくれたなら、それでいいんだ」



誤解が解けたのか、態度を軟化させた女性が俺を縛っていた手の紐を解いてくれた。今は二人とも適当な瓦礫に腰かけて、話し合いをしようとしていた。


彼女の名はジェシカ。年齢は18歳だそうな。


茶色い髪に茶色い目、髪は肩にかかる程度。顔立ちは整っているが、やや痩せ気味で、あまり血色も良くない上に、うっすら隈があるように見える。服装はこの世界の世界観から推測すると、割と普通の町娘といった感じだろうか。


ただ、その服はかなり傷み、ゴブリンに襲われたためか、片袖はなくスカートも大きく破けているのが、少々目の毒だ。


俺は、破れたスカートへ視線が行かないように気を配りながら会話を交わす。


実は地に倒れていた時は、下から見上げる様だったし、紐を解く時はすぐわきでかがまれたので、偶然にも見てしまわないように、必死で耐えたよ。



「それより、よそ者が町を壊したという話を、詳しく聞かせてもらえないか。さっきも言ったように、俺は今日この町に来たばかりなんだ」


「わかったわ。だけど、その前にゴブリンから、取らなくていいの?」


「何を?」



何を、と言って首をかしげてから『あっ』と、思い至る。


ゲームやラノベで魔物から取ると言えば、魔石や素材といった戦利品のことだよな。



「その顔は、何か気が付いたのかしら?」


「ああ、何か取れるというのは想像がついた。でも、具体的にどうするのか、何が取れるのかは、わからないかな」


「それなら、私が解体してあげるから、少し分けてもらえる?」


「できるのか」


「倒すのは無理だけど、ゴブリンの解体だけならね」




俺の見ている前で、ゴブリンが崩れて消えて、その場には小さな石が残る。


残った石を見れば、俺が初期装備でもらった指輪の石に、よく似ていた。



「解体と言うからナイフで裂いて何か取り出すのかと思ったよ」



ゴブリンの解体は、解体というスキルで行われたらしい。



「動物の肉を取るなら普通に解体するけど、魔物は動物と違うから解体の仕方も変わるの。でも、昔のよそ者は魔物を解体していたわよ」



回収すると対象は消える。


その様子を見て解体スキルと思ったのか、それともこの世界に解体スキルがあるのか、どちらかだろう。



「そうなんだ。でも、俺は厳密にはよそ者とは違うからなあ」


「え、そうなの」


「そうなんだよ。前に来ていた連中は…あ、そこの燃え尽きた建物にもゴブリンが死んでいるはずだよ。で、なんだっけ、ああ、前に来ていた連中と俺は別口なんだ」


「前に来ていた連中は…その、何といえばいいか…」


「あ~この先は、場所を変えて話さないか。お互いにもう警戒の必要はないだろ」



俺の言葉を受けたジェシカは、少し言いよどんだ後、何かを決意をしたような顔を向けてきたが、ゴブリンの解体も終わったので、場所の移動を促し、ついてくるように手で示す。俺たちが外で話していたのも、お互い初対面で室内という閉鎖空間に入ることを避けただけだ。



「そう言えば、ジェシカは何処から来たんだ?」



教会へと移動しながら、割と基本的な事を聞き忘れていたと、気が付き尋ねた。



「私が居たのはこの町の地下よ、町の中や外の何カ所かに、地下に入る隠し通路があって、町の生き残りはそこで生活しているの、私は野草を採るために草原に出てきたところをゴブリンに捕まったの」



話しながら歩き、教会の裏口へと行き、ドアを開ける。



「え」


「ん? どうした」



ジェシカの声に振り返れば、彼女は教会のドアを見て唖然としていた。



「開かなかったの。よそ者が町で暴れて、町が崩れて魔物が入ってくるようになって、教会に逃げようとした人も居たけど、ドアは開かなかったし、壊すこともできなかったのよ」




教会内の食堂兼休憩室のような部屋で、俺たちは向き合って無言で座っていた。


ジェシカは、この教会にある遺骨に驚き、祈りらしきものをささげた後は口を開かず、なにやら思いつめたような顔をしていた。


俺は俺で、ドアが開かなかったという事から、もしかしたら立て籠もったのではなく、中に閉じ込められていたのではないか? しかし、そうなるとドアを破ろうとした痕跡すらないのは何故か? 遺体は『人』ではなく『まだNPC』だった? だとすれば、司祭の遺体だけ、様子が違ったのは何故? そうした疑問が次々に浮かび、その思考に没頭していた。



何時までそうしていたのだろうか。


無言でいた俺たちの耳に、何かを叩くような音と、何者かの声らしき喧騒が届いた。



「何だ? ちょっと見てくる。ジェシカはここに」


「え、私も行くわ」



俺たちは、騒ぎの原因を確認すべく、キャットウオークを通って、そこから鐘撞堂へと上がり。



「いやあああああああああああ」



全裸の俺2号を見た、ジェシカの絶叫が響き渡った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る