第2話 地域密着型・魔法少女
次の日――
「あっ、」
「あ」
また魔法少女のお姉さんに会っちゃったよ。まあ、お隣さんだけあって生活圏が同じだから、通学路から行きつけのコンビニにかかりつけの病院まで何から何まで一緒だから、仕方ないのかな?
でも、その次の日も、
「ええっと、お、お疲れ様です……」
「あ、ンン――ありがとう」
とりあえず、そう言うしかなかった、お姉さんは今日も怪物と戦っていたんだ、高校に通いバイトをしながらご近所の平和も守るなんて本当に大変だと思う。
昨日と違ってちょっと凛々しく声を作って――正義の味方のお姉さんぶっているのが年上なのにカワイイとか思ってごめんなさい。
そしてその次の日、
「あ、」
「あっ」
その次の日も、
「んんっ!?」
「ん――」
次の日も、
「……こ、こんにちは?」
「え、ええ……こんにちはね?」
次の日も次の日も次の日も、
「………………」
「………………」
いくら生活圏が同じでも、会い過ぎじゃないかなって思いました。
世界で一日に犯罪が何件起きているとか考えると同じ街で一日一回事件が起こるくらい少ない方だと思うけど。
とにかく毎日毎日、毎日毎日毎日――
光線をぶっ放して拳を振り回して足で蹴り倒して。
お姉さんは戦い続けていた、ずっとずっと戦い続けていた。
それは終わりの見えないマラソンのようだった。
いつまで続くんだろう、天丼はもうとっくの昔に過ぎている。
お姉さんの戦いに終わりはない。
――だけど、
僕は、お姉さんに出来ることが、何もない。
関西の一部みたいに飴玉を持っているわけでもないし、戦いで喉が渇いただろうってジュースを買ってあげるのもなんか違うと思う、怪我をしていませんかなんて毎回毎回言われるまでもない――
僕がしても意味の無い心配だ、危険は向こうからやって来る、やってこなくともお姉さんは自ら飛び込んでいく。年中無休の過重労働――正義の味方って大変だ。
それでも何かいいことが一つでもあれば、その日は少しでも変わるんじゃないかと思う、これはお姉さんが魔法少女だって気付く前からの事だけど。
それでも、お姉さんが戦い続けることは変わらない、それでも……
それでも、どうしてもお姉さんの幸せの事を考えてしまった。
僕は何もせずにはいられなかった。
だからある日、僕はお姉さんにアプローチに出た。
「あの――」
「ん? ――なにかな?」
「……今日はいい天気ですね?」
「……? ええ、そうね?」
「僕、これから遊ぼうとしてたんです、お姉さんはこれからどうするんですか?」
「ん……特に予定はないわ。アクダーマが現れたら、また戦うでしょうけど」
「じゃあ、何も起こらなかったら、一緒に遊んでもいいですか?」
お姉さんの、一日のいいことの為に、
「――え?」
「だって、戦ってばかりだと、体より心が疲れちゃうでしょ?」
僕が何を心配しているのか理解したのだろう、お姉さんは眼を見開いていた。
たまに遊ぶくらいはした方がいい、殺伐とした現代社会の膿の海を泳ぎ続けるのは辛すぎるだろう――それくらいお姉さんも分かっている筈だ。
でも現実は、
「……ん。でも、いつ何が起こるか、分らないから……」
「――じゃあ、
「それは……」
「それまで毎日、僕、ここで待ってますから」
いつ、また戦うのか、不安で堪らない――暗にそう言ってしまったお姉さんに、僕はそう言った。
それは僕がいつでもお姉さんの幸せを願っているという約束だ。
お姉さんも、その意味は分かっているんだろう。
そんな日がいつ来るかなんてわからない、それはニュースで何事も無く一日が終わる時かな? それともこの街で一度もサイレンが鳴らなかった日かな?
それを確かめるには、毎日ここに来るしかない。
僕はこれから毎日この公園に来る。
お姉さんが来たのなら、それは平和な一日だ。
たとえ丸ごと一日じゃなくても、平和なひと時にはなる筈なんだ。
一日じゃなくてもいい、永遠じゃなくてもいい、その一瞬を、どれだけ捻る出せるかが僕達普通の人に出来る闘いなんだと思う。
それが唯一の、たったそれだけのことだけど――
「……うん、分かったわ? じゃあ、そんな日は、ここに来ればいいのね?」
「――はい!」
お姉さんは、小さくだけどまるでお化粧をしたように笑った。
それは妙に嬉し気で朗らかで、少しだけ幸せそうな顔だった。
でもね?
「――こんにちは、修くん」
「……こんにちは」
なんでかな、お姉さんは毎日ここに来た。
いや、ていうか、うん、この公園、僕とお姉さんの通学路上にあるんだけどさ?
迂闊だったよ、そりゃ毎日来るよ、お姉さん高校生だし、小学生の僕より下校時間が遅いから、必然に僕が待ってればここで毎日遭遇するんだよ!
結果、僕は魔法使いのお姉さんと毎日ベンチに座って話をすることになりました。
どうしてこうなったのかな?
僕が毎日お姉さんの幸せを願ってるってことが伝わればそれでよかったのに、誰かにそういう風に思われてるっていうのは、何気に励みになるからね? 僕にとってのお姉さんみたいに。
たったそれだけのことだったんだけど、お姉さん、毎日喜々として僕の事を見つけるんだもん、今更断れないよ。
まあ、魔法少女のお姉さんの、ほんのちょっとの息抜きにはなるのならいいのかな?
とりあえず、世間話をする、それはちょっとおかしな世間話だけど、
「今日も戦っていたんですか?」
「ええ、いじめられっ子に逆襲されたいじめっ子が、今度はいじめられっ子になってアクダーマになってしまったみたいなの」
「へえー……、なんでいじめなんてあるんですかね……」
「そうね、いじめなんて虚しいだけよ」
僕はこの状況がなんか虚しいんですけど、話を聞いていると怪物化するのはそういう心が爆発寸前の闇に傾きやすい人が多いというのは分かった。
過酷な仕事やいじめ、家族の不和、そうでなくても心のバランスを崩している人。
何らかの原因で極限のストレスを抱えている人。
ただし、心に力が無い人は、どんなストレスや感情を抱えていても何も起こらない。極端な話、自分を変えるだけの力を持っている人だけが皮肉にも怪物になるみたいだ。
そして今日は珍しく、人を怪物化させる悪の組織の幹部らしき人に出会ったらしい。
それはお姉さんと同じ魔法少女みたいな人で、女の人らしかった。
怪物との戦いが始まる前に飛んで逃げてしまったらしいけど、もしかしたら今度は直接戦うことになるかもしれないらしい。
そんな、お姉さんとの逢引きみたいな時間の、ちょっとあとのこと――
「あっ」
「うん? あら、修くん」
魔法少女ではないお姉さんと出会った。
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