連続殺人編
第26話:制作会社のお仕事
この夏は良いことがあった。
それは、ミヤコさんの夏服姿が拝めたことだ。
普段の仕事着は黒のブラウスに黒のパンツとストッキング、その上に黒のロングコートという泥水に飛び込んだ後のようなシルエットである。しかしさすがのミヤコさんも暑さへの耐性は人並みらしく、六月下旬になってから衣替えを果たした。
ミヤコさん:サマーバージョンはなぜかチャイナドレスであった。ノースリーブで肩から素肌が出ていて、下も膝上に十センチくらいの超ミニ。ストッキングは譲れないらしいが、脚線美がはっきりと強調されて思わず見とれてしまいそうになる。おまけに座っている時のミヤコさんは常に足を組んでいるので、油断をすれば簡単に下着が露わになってしまいそうだ。確認しなくても色はわかりそうだが。
高校が夏休みに入ってから僕は、ゴールデンウィーク同様、毎日のようにスタジオミヤコに出勤していた。おかげで八月のアルバイト代は一介の高校生とは思えない額だった。事務所用のコーヒーやカップめんを多めに買い置きをしてもお金はまだまだ残っている。
悲しいことに(悲しいとすら思えないのがより悲しい)、僕は趣味もなければプールや花火大会に行く友人もいないので、最終的にほとんどが貯金に行き着くのである。これで禁欲をしているわけでもないのだから、なんとも灰色な高校生活だ。
このまま大学生になって、スタジオミヤコで働き続けて、就職して。
僕の「心」がいつ戻ってくるのかはわからない。
このままでは、スタジオミヤコに正社員として就職するのが最有力候補になってしまう。
それだけは御免だ。その気持ちはずっと変わらない。
スタジオミヤコの業務内容。
テレビ番組の企画・立案。編集の知識は問いません。業界未経験者歓迎。
取材を通じて、現場の生の声が聞けます! 今日は女子高生、明日は小学生……。年齢・性別を問わず幅広く接するので、コミュニケーション能力は欠かせません。
同僚と四六時中ずっと一緒にいるので、職場はアットホーム。上司・部下も関係なく、みんな家族のように仲良し。マジックを披露したり、漫画の話をしたり。仕事が終わったらそのままスタジオで飲み会が始まることも。
一緒に情報発信の裏側を支えていきませんか?
就活サイトにこんな文言が掲載されることを想像し、ものは言いようだと認識する。
国営だからほとんど仕事がない月でも安定収入だし、経営不振で首になることもない。職場環境もまあ、良好。
あとは殺人や誘拐がなければ完璧なんだけど。
とは言ってもこの数か月、そういう意味では、僕らは仕事をしていなかった。
藤城ありすの一件以降、事務作業や定例会議はこれまで通りだったが、取材に至ったことは一度もない。
なぜならその必要がなかったからだ。
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