第8話:御堀優羽という人物について

 カメラに向かって学校の友達と一緒にピースサインをする女の子――御堀優羽さん(十七)。


 優羽さんは今月△日、東都とうと区伊佐神いさかみ駅付近の路地裏で、胸から血を流して倒れているのを通行していた男性に発見された。一一九番通報で救急隊員が駆けつけたものの、搬送先の病院で死亡が確認された。


 死因は胸部に深く突き刺さっていたナイフによる失血死。犯人につながる有力な手がかりは得られていない。





 御堀美羽さん――。都内の高校に通っており、この春から三年に進級した。友人は多く、教師からの信頼も厚かった。委員会などの団体には所属していなかったものの、生徒会の役員に推薦する声も多かったという。



『自分より上の立場の人にも間違っていることには(間違っていると)きちんと言うような生徒』


『一年の時にうちのクラスでいじめがあって、いじめていた人といじめられていた人を集めて、あと担任の先生も交えて話し合いの場を設けていました』


『成績表を見せてもらった時に、全教科、オール五で、でも、全然ガリ勉って感じでもなくて、みんなからも人気がある人』




 事件が発生したのは進級してわずか五日後のことだった。


 優羽さんの所属するクラスではその金曜日、親睦会としてクラスメート全員でカラオケに行くことになっていた。優羽さんも当初は参加予定だったが、当日になって突然キャンセルを申し出たという。


 その日、途中からでもカラオケに来るようクラスの友達の何人かが連絡をとったが返事はなく、また夜になっても家には帰らず、両親からも警察に捜索願が出ていた。その頃には優羽さんは死亡していたとされる。


 告別式はクラスメートだけでなく、中学校や小学校時代の友達、また近所の住民も参加し、しめやかに営まれた。親族らを含めのべ百人以上が参列し、優羽さんの死を悼んだ。弔問客からはすすり泣く声が絶えなかった。



『優羽、優羽―っ』



『天国に行っても、ずっと……。ずっと、私たちは、友達です』



 両親は「人間のやることとは思えない。絶対に許せない」、「犯人には自首して罪をきちんと償ってほしい」と、涙ながらに報道陣に語った。


 優羽さんが学校を出て以降、駅前の本屋で立ち読みをしていたという目撃情報があるが、その後の正確な足取りはつかめていない。


 人が人を殺める行為。我々は、このような卑劣な犯罪を絶対に許してはならない。

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