第756話 君に任せた!
無事許可をもらったので、新道建設開始です。許可をくれる時、陛下が何やらぶつくさ言っていた気がするけれど、気にしない。許可は許可だ。
王都邸に戻り、無事許可をもらってきた事を告げる。
「許可もらったよー」
「なら、さっさと工事に入っちゃいましょう。ズーイン、手続きをお願い」
「承知した」
連携いいなあ。おっと、そういえば、一つ二人に伝えておかなきゃいけない事があるんだった。
「あ、でね。道路に変更を加えたいんだけど」
「は?」
え……何か、二人の目が怖いんですけど。
「当初は巡回バスの道路だったでしょ? 道路の幅を広げて、中央にはトラムを走らせようと思って」
「計画変更は前もって報せる!」
うひい、リラに怒られた。
「その、とらむ……? というのは、何なのだ?」
「地面を走る、列車の小型版」
「はあ?」
路面電車だから、この説明で間違っていないはずなんだけど。リラを見たら、額に手を当てている。
「間違ってないけれど、その説明だと色々と足りないわよ。ズーイン、ヌオーヴォ館の映像資料室で関連資料を見せてもらいなさい。その方が早いわ。カストル、彼を送っていってちょうだい」
「承知いたしました、エヴリラ様」
訳がわからずオロオロするズーインの肩に手を置き、カストルは彼と共に一瞬で姿を消した。頑張れズーイン。それに慣れるのも君の仕事だ。
王都邸執務室に残ったのは、私とリラのみ。
「さて、じゃあ詳しく話を聞きましょうか?」
あれー? もう終わりじゃないのー?
執務室でリラに「報告の大事さ、思いつきはいいが、きちんと練ってから」と散々説教された。そのせいで今日は疲れたから、もう書類見たくない。
ふてくされる私の前で、リラが書き上げた計画書を見つつ頷く。
「とはいえ、確かにトラムはいい選択だと思うわ」
「なら、何であんなに説教……」
「それとこれとは別です。その場で思いついても、一旦持ち帰って私達に報告するのが筋でしょうが」
道路を作るだけでなく路面電車用の線路を作るのはまた別の工事になる。発注やら人員の調整やらが、また違ってくるのだとか。
「でも、許可を先に受けておけば、こっちの都合でいつでも動かせるじゃない」
「だから、それとこれとは別だと何度も言ってるわよね?」
「はい……」
とりあえず、トラム計画は何とか通りそうなので、もういいや。
そうこうしているうちに、映像資料を見終わったズーインが戻ってくるという。その前に、映像資料室なんて、あったんだ?
「作ったの。文字で見るのも大事だけれど、映像はインパクトが大きいし、わかりやすいから」
「確かに」
百聞は一見にしかず。説明を聞くよりも、実物見せた方が早いもんな。
執務室内に、軽いベルの音が響いた。これは、カストルが移動魔法で姿を現す合図。
移動魔法は基本どこにでも出現可能なので、前もってわかっているなら報せろとリラが怒った結果。いつも前触れなく現れては、彼女を驚かせ続けたカストルが悪い。
ベルの後、すぐに二人が姿を現した。
「お帰り。どうだった?」
「あれは……あれは凄い! 列車も凄いと思ったが、あれは小回りが利くから都市の中でも運用可能ではなかろうか!?」
大分興奮してるな。
トラムは、元々本領内……特に領都であるネオポリスで使う予定でいたんだけれど、時期尚早という事で見送ったもの。
ただし、都市間の移動には使っている。要は、人通りが多くない場所なら事故も起こりにくいだろうという考え。
あれに接触したり、進行方向に飛び出したりするのが危険だという認識が広まれば、都市内でも利用可能だと思う。
「トラムを都市内で使う前に、住民に教育が必要だよ。トラムの前には飛び出さない、横断しない、走っている車体に触れない」
「それをやった場合、どうなる?」
「最悪死ぬよ」
トラムはそこまでスピードを出すものじゃないけれど、だからといって死亡事故が起こらない訳じゃない。
そこまで行かなくても、怪我を負う可能性が高いし。
私の言葉に、ズーインは何やら考え込んでいる。やがて、彼の考えがまとまったようだ。
「なら、トラムとやらについて、気を付けるべき項目をまとめ、人を集めて教えればいいのではないか? 出来れば、映像でこういう事が起こるかもしれない、というのも見せた方がいい。トラムには、事故という不利な面を除いても、利点が大きいのだから」
「なら、ギンゼールの件が全て終わったら、ズーインが中心になってやるといいよ」
「え?」
おや? どうして驚いているのかな? 君が発案したんだよね?
「言い出しっぺの法則……」
リラ、そこでボソッと何か言うんじゃありません。
トラムに関する教育は、ズーインが発案者なので彼に任せる。これは丸投げではない。リラが言ったように「言い出しっぺの法則」なのだ。
それはそれとして、王都にいると社交のお誘いが多い。本当に多い。
「普段はあちこち飛び歩いてるから、招待したくても出来ないのよ。皆、ここぞとばかりに招待してくるわねえ」
招待状の山を見て、リラですらうんざりしている。この招待状の半分は、リラも一緒にって書いてあるからねー。
社交界でも、うちとゾーセノット家はすっかりワンセット扱いされるようになったらしい。
まあ、リラは私の右腕だし、旦那達も陛下の側で働いている同士だからね。
「この時期は、夜会が多いわ」
届いた招待状を片っ端から開封し、中身を確かめて行くか行かないかを決める。
うちの場合は、その辺りのスケジュールを把握しているのがリラ。ルチルスとも連携して、あれこれ決めてくれるから楽ー。
いや、参加する社交行事は面倒だけれど。
舞踏会シーズンを抜けて、王都は比較的社交行事が減っている頃なんだけれど、それでもぽつぽつと夜会や晩餐会、小規模の舞踏会などが開かれている。
一番オープンかつ招待の幅が広いのは夜会。晩餐会は、比較的狭い付き合いのイベントだ。舞踏会はその中間点くらいかね。
で、この時期増えるのがこの夜会。主催者が「誰を招待したか、誰を招待出来たか」で、腕前が問われるという。
「何その腕前って」
「夜会を主催出来るだけの家だって、周囲へのアピールになるのよ。本当なら、うちも夜会くらい開催しないといけないんだけれど」
リラの視線がこちらに向く。いや、知らんがな。
「私にそんなものの主催、出来ると思う?」
「思わないから強制していないでしょ?」
出来ると思われていたら、やらされていたのか……
「デュバルの名前はもう社交界で知らぬ者はいないくらい広まっているから、今更夜会を開催する必要はないのよ」
名前ねえ。祖父と父のせいで落ちまくっていた評判も、鉄道とクルーズツアーで大分上がったらしい。
ロエナ商会で扱う商品も一役買っているそうだけど、やはり大きいのはその二つなんだとか。
「まあ、評判は悪いよりいい方が何かと便利なんじゃね?」
「暢気ねまったく……あ、これは行かないと」
リラが一通の招待状を私に差し出す。差出人の名は、ブーボソン伯爵家。王家派閥序列五位の家だ。
うちとしては、やらかしちゃった伯爵の姪っ子のおかげで、覚えた名前でもあるなあ。
そのブーボソン伯爵家が、夜会を開くらしい。
「王家派閥であるという事と、序列が高いって事を考えて、おそらく他の上位の家も招待してるはず」
「それで、参加必須って訳か」
序列上位の家が揃って参加したのに、うちだけ参加しなかったら、主催の家と何かトラブルを抱えているのでは? と思われるんだとか。
本当、貴族って面倒臭ー。
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