第753話 再利用は大事

 無事、王宮をクビになった文官をゲットした。口利きをしてくれたのは、ヴィル様。


 お礼を言ったら、何だか渋い顔をしている。


「どうしたんです?」

「いや、何だか悪事の片棒を担いだような気がしてな……」


 これは、私が怒るべきところですかねえええええ?




 一応、面接だけはしておいた。何故かデュバル家という名に、皆戦いているんだけど。


「どうして、あのデュバル家が?」

「わからん。いくらでもいい人材を雇えるだろうに……」

「そんな家が、どうして俺らなんかに声を?」

「これ、何かの罠か?」


 面接する相手を王都邸の客間にごちゃっと入れておいたら、この会話。しっかり聞いてるよー。


「普通、面接先での雑談を盗聴されているとは思わないでしょ」


 リラの目が冷たい。いや、これは必要な情報収集であってだね。


「ただの好奇心でしょうが」


 一刀両断。否定出来ないのが辛い。


 その後の面接は、全てうまく行った。彼等はそれぞれ微妙に得意分野が異なっていたのは、嬉しい誤算。


 なかでも、都市内での移動線が専門とかいう人もいたよ。


「居住区からいかに早く目的地に行ける経路があるかや、目的地に目指す時間に到着する為には、自宅を何時に出ればいいかとかですね」


 何それ、凄く有益な情報じゃない! 彼は自分の足を使って、それらを調べたらしい。しかも、仕事ではなく、私用として。


「え……それ、仕事になるのでは?」


 驚愕の私の言葉に、彼は苦く笑う。


「上司が認めてくれませんでした。所詮遊びだろうと」


 許せん。その上司、首根っこひっ捕まえて二時間くらい問い詰めてやる!


 と思ったら、その上司が今回更迭された伯爵家当主のうちの一人だったんだとか。


 彼等の不正やら勤務態度やらを調べて、更迭という処罰を行ったのはレーオル陛下だ。


 陛下、やるう。と思うと同時に、不正をやられる前に調べて処罰しておきなよとも。


 とはいえ、事件は発覚しないと事件にはならないしねえ。


 ちなみに、彼等がやっていた不正は、自分達の権利を利用したもの。やはり民間の中から巡回バスのような仕組みを考えた人がいたそうな。


 でも、その申請を難癖つけて却下。他にも、下級貴族や庶民が申請してきたもので、馬車や馬車馬の売り上げが落ちそうなものは片っ端から却下していたらしい。セコいというのか、何というのか。


 そのせいで、結局家の商売にも陰りが差し、あちこちから取引を断られているんだとか。


 馬も馬車も、製造しているのはその二家だけじゃないからなー。




「という訳で、我が家にも問い合わせが殺到しています」

「はい?」


 面接が全て終わり、普段通り執務室で書類を見ていると、リラが感情をなくした目で報告してきた。


「何の問い合わせ?」

「車のよ」


 ああ、なるほど。馬も馬車も買わないという選択肢の果てには、代わりに車をという道があるのか。


 王立の競馬場も出来て、持ち馬もそこに出す事が出来る。そこで優勝まではしなくとも、それなりの成績を出せれば、種馬や繁殖用で売るという道も。


 思い描いたような未来が、そこまで来ているなあ。


「でも、車はまだ量産はしていないんじゃなかったっけ?」

「ええそう。だから、早急に生産工場を作った方がいいんじゃないかって事よ」


 なるほど。


 量産自体は、多分一、二年もあれば生産工場を整えられると思うんだ。箱はすぐに出来るけれど、組み立てや部品作りがね……


 今は全てデュバルの工場で作っているんだけれど、蓋を開ければ人形遣い達が人形を使って部品を作ったり本体を組み立てたりしているので、まったく工場という気がしない。


 いっそ、東のカイルナ大陸のように、地下に巨大工場を……


「あ」

「何?」

「あった。カイルナ大陸の使い道」

「使い道言うな。東の大陸はあんたの持ち物じゃないんだから」


 そうなんだけど。あそこ、今ひとつ私の興味をそそらないんだよな。


 でも、あったよ、一つ。


「カイルナ大陸で見つけた地下工場、整備して車の工場に出来ないかな?」

「え」

「出来ますよ」


 ドン引きのリラとは対照的に、いい笑顔のカストルが口を挟んでくる。


「場所はどうなさいますか?」

「んー。なるべく発掘されていない工場で、似たようなものを作っていた場所がいいな」

「軍用車か戦車工場ですね。いくつか心当たりがございますので、ポルックスに行かせます」


 ここでポルックスか。カストル、以前の事をまだ根に持っているな。


 考えた途端、いい笑顔を向けられた。だから、人の考えを読むんじゃありません。

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