第744話 嫌とは言わせない

 ある意味、力は正義だと思うのだよ。力なき正義はただの理想だし。


「そこ、ごちゃごちゃ言っていないで、自白魔法、始めるんでしょ?」


 ブツブツ言っていたら、リラに突っ込まれた。厳しい。




 王都が見える範囲で止まったトラックから、騙りの男と盗賊団の男を一人ずつ引っ張り出す。あ、引っ張り出したのはオケアニスです。


 彼女達、見た目によらずパワフルなんだよな……


 オフロード車とトラック、それに取り出した移動宿泊施設を囲む区域に結界を張り、外から見えないようにしておく。


 あ、音声も外には届かないよ。そこら辺はばっちり対策してあるのだ。


 さて、では自白魔法を使っていきましょうか。




 尋問自体はカストルが請け負ってくれた。なので、私達は移動宿泊施設でお休み中。楽でいい。


「あの盗賊達、随分体格がよかったな」


 リビングでお茶を楽しんでいたところ、ヴィル様がぽつりと漏らす。


「やっぱり、どこかの家の仕込みですかねえ?」


 私の問いに、ヴィル様はカップを眺めながら呟いた。


「そう見えるが……結果は尋問でわかるだろう」


 確かに。何人たりとも、自白魔法には逆らえないのだ。




 尋問には、少し時間が掛かったらしい。というのも、騙りはまだしも、盗賊の方で事情を知っている人間が少数だったらしく、その人物に当たるまで何度も引っ張り出しては自白魔法を使う羽目になったから……だってさ。


「お疲れ様」

「もったいないお言葉でございます」


 カストルと一緒に、トラックから盗賊を引っ張り出す仕事をしていたオケアニスも労う。


 彼女達には食事は必要ないそうだけど、嗜好品として甘い物は好むんだとか。


 なので、我が家の優秀なパティシエールが作ったケーキを出しておいた。本日のケーキはレンカンのタルトである。


 オケアニス、普段の無表情が嘘のように目が輝いているよ。切り分けて召し上がれ。


 その間、カストルから結果を聞く。


「どうだった?」

「やはり、後ろにいるのはクイッツ伯爵のようですね」


 やっぱりー。


 騙り達の方が情報を持っていて、そちらの自白によるとクイッツ伯爵領の鉱山は既に掘り尽くしたらしく、新しい産業を見つけないと伯爵家自体がかなりヤバい事になるそうな。


 で、見つけた新しい産業が盗賊団……


「クイッツ伯爵の頭って、どうなってるの?」


 リラ、言いたくなる気持ちはよくわかる。盗賊を支援するにしても、こんな近場を荒らしたんじゃ意味ないだろうに。


 ところが、そこは浅知恵、ろくな事を考えてなかった。


「近場を盗賊団で荒し、各領主の不手際をあげつらって、領主失格まで追い込む予定だったようです」

「領主失格?」

「領地を治める能力が足りない家だと、王城に訴える予定だったようですね」


 なんという。それで空いた領地を、全て自分のものにしようとしていたんだとか。


 浅知恵すぎるわ。


「領地が空いたところで、クイッツ伯爵とやらに転がり込むとは決まっていないだろうに」


 ヴィル様の言葉ももっともだ。ああいうのって、色々話し合って決めるんじゃないの? 特にギンゼールは王家の力が弱いから。


 ところが、そこも手を打っていたという。


「クイッツ伯爵は、王城での政治を怠っていなかったようです。ただ……」

「ただ?」


 カストルが言いよどんだ先を促すと、彼は苦笑した。


「王城で縋っていた相手が、ユムツガン伯爵でして」


 ついこの間失脚した人ー!


「え……ユムツガン伯爵は王族を毒殺しようとした罪で、かなり重い罪を科せられたはずだけど……」


 そんな相手に縋って、どうするというのか。


 私の言葉に、カストルが残念そうに答える。


「王都の外……クイッツ伯爵の耳にまで、まだ届いていないようですね」


 そういえば、こっちにはまだ通信機、普及してなかったっけ。


 いや、それでもそんな大事な事、早馬でも飛ばせば今頃知っていても不思議はないのでは?


 ところが、ここにも落とし穴が。


「ユムツガン伯爵失脚に際し、彼の派閥は王城内外で大混乱を起こしているようです。その結果、末端に過ぎないクイッツ伯爵まで、情報が届かなかったのではないかと」


 あちゃー。


 元々、今回の盗賊問題は、荒らされた領地の子息がたまたま王城の練兵場にいる兵士で、彼から直接話が爺さんに舞い込んだ。


 それを通りがかった私達が耳にし、ちょうどいいからと速攻で捕縛したんだったわ……


 私達のスピードに、向こうの情報伝達スピードが負けた結果……か?




 盗賊被害に遭っていたテスジト男爵領、レイバル男爵領、ドルプス子爵領は、それぞれお互いに連携し合っているという。


 何でも、ツェマー芋という、寒冷地でもよく成る芋を栽培していて、その育成方法や市場への出荷などなど、お互いに協力し合っているんだとか。


 そこからハブられているのが、クイッツ伯爵家。


 とはいえ、ここはこれまで自領の鉱山の事で、大分三つの家にマウントを取っていたようだから、ハブられるのは自業自得……らしい。


 なのに、鉱山が枯渇し掛けた頃、自分もその協力関係に入れろと上から目線でごり押ししてきたので、三家にそっぽを向かれたんだとか。当たり前だ。


 その逆恨みで、今回の盗賊騒動を考えついたんだとか。


 そのちっぽけな頭脳、他に使えばまだ生き残れたかもしれないのに。


 全ての証拠を揃えて、盗賊の残党も全て捕縛し、王城へと戻る。


 なんかね、よく調べたら控えの盗賊がいたよ、クイッツ伯爵領に。なので、こっそり捕縛してきた。


 穴掘り要員にはちょっと足りないけれど、まあまあいい労働力が手に入ったと思おう。




 証拠の自白映像と、騙りと盗賊を一人ずつ、自決出来ないようにしっかり対処してファベカー侯爵に引き渡した。


 さすがのファベカー侯爵も、顔が引きつっていたよ。


「こ、この短期間で、あれほど手こずっていた盗賊団を一網打尽にするとは……」


 あれー? なんか、驚く場所が違うような。


 ともかく、これで王城が動く理由が出来た。後は任せて、盗賊の身柄はこっちで引き取ればおしまい。


 いやあ、帰国の前の一仕事だね!


「あの盗賊達、そのままこっちの穴掘りに使えるかな?」


 王城で借りている部屋へ戻る最中、カストルに訊ねると、こんな答えが。


「脱走防止の為に、別に地域の者達と入れ替えましょう」

「そうなの? まあ、任せるからうまくやって」

「承知いたしました」


 面倒な事は丸投げに限る。


 そういえば、盗賊の話を聞いた時、爺さんに港の件を話す予定だったっけ。今からでもいけるかな?


「爺さん、まだ王城にいるかな……」

「ベデービヒ侯爵の事? なら、ちゃんとアポを取ってから行きなさいよ?」


 ちょっとこぼしたら、リラから正論を言われた。まあ、あっちにもこっちにも立場というものがあるから、仕方ないか。


 オケアニスにアポを取ってもらうと、何と向こうからやってきた。


「話があるというから、こちらから来てやったぞ!」


 爺さん……フットワークが軽いにも程がある。リラ達も唖然としているよ。


「あんた並に空気読まない侯爵が、他にもいるなんて……」

「おい」


 この爺さんと私を一緒にするな!


 とはいえ、来てしまったものを追い返す訳にもいかない。なので、お話し合いスタート。


「前置きは面倒なのでなしで。爺さんの領内にある港を改修して使わせてほしいの。何なら買い取ってもいいよ」

「港だと? 一体何に使う気だ?」

「クルーズ船の寄港地……大きな船に、観光客を乗せたものなんだけど、その船を停める港にしたいのよ」

「くるーず……せん? 観光客とな。いや、しかし、うちの領には見るものなぞ、何もないぞ?」

「うん、それはわかってる」

「な」

「ただ、ずっと船に乗っているよりは、下りて歩いたり、普段とは違う場所を見る方がいいからね。そこに住んでいる人にとっては何でもないものでも、余所の人には素晴らしく見えるものもあるのよ」

「……」


 爺さん、黙っちゃった。嫌だと言っても、王家からのごり押しでうんと言わせる予定だけれど。


 しばらく考えていた爺さんは、やっと考えがまとまったらしい。


「よし、許可しよう」

「ほう」

「人が来れば、我が領の刺激にもなる。いい事もあるだろう」


 ほほう。これで了承ゲットだな。あ、もう一つ。


「ついでに、ダーウィカンマー領からそっちまで、鉄道も引くし駅も作るからよろしく」

「はあ!?」


 あ、今度は固まっちゃった。これも、嫌だと言っても押し通すからね。

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