第743話 盗賊狩り
渋るファベカー侯爵を説き伏せて、何とか盗賊団討伐をもぎ取った。
「私も行くぞ!!」
「足手まといなので却下でーす」
髭ジジイは、練兵場で若い子達と遊んでなさい。大体、ついてこられないって。
盗賊団は、王都から東にある二つの男爵領と一つの子爵領、一つの伯爵領を荒らし回っているそうだ。
そのどれも、全て近場なんだよねえ。
「地図で見ると、デカいカルデラの中に四つの領地が入ってるって感じかな」
現地へ向かうのに、以前使ったオフロード車で向かっている。これ、周囲は遮光結界で姿を消し、音も消しているので周囲から見えないようになってるんだー。
ダーウィカンマー領へ行くときはそのままだったけれど、これ、ギンゼール国内では凄く目立つから。
ついでに、付いてこようとしている髭ジジイの一団を置いていく目的もある。目的地がバレてるから、追いかけられる可能性もあるけれど、向こうに見つからないよう移動すればいいし。
改めて地図を見る。これも、カストルが作ったものなので詳細なのだ。
外輪山に当たる部分が、ものすごくデカい。ただし、標高はあまり高くない。せいぜい一千五百メートルが限界かな。
その一番高い場所は全体に西側にあって、伯爵領内にある。ここを、盗賊団が荒らし回っている……ねえ。
「どこかの家が、フォローしてるのかしら?」
リラ、いいところを突くねえ。
「だとすると、このクイッツ伯爵家が一番怪しいかなー?」
「理由は?」
「クイッツ伯爵領だけ、特産品がない。鉱山で収入を得ている領だそうだけど、最近産出量が減ってきているという噂もあるんだとか」
「噂だけじゃねえ」
リラの言う事ももっともだ。だからこそ、しっかり裏付けを取って潰していこうと思います!
労働力確保の為には、労力を惜しまないよ。
出発が早朝、到着は昼過ぎ。結構な距離だね。ギンゼールって、広いから。
「盗賊団は、やっぱり夜中に動くのかな?」
「普通に考えたら、そうでしょうね。人目に付かないように」
だよねー。でも、こっちだと照明もろくにないから、暗がりの中で動けるのかな。
だとしたら、土地勘がある奴がいる?
ま、捕まえてみればわかるでしょ。
現在、拠点としてクイッツ伯爵領にある山の頂上にいる。ここ、人があまり来ない場所らしい。
ハイキングとかトレッキングに向いていると思うんだけどな。それを愚痴ると、リラからこんな返答が。
「こっちにスポーツ感覚で登山をする人、いないと思うわよ?」
なんと。リラ曰く、山に入るのは猟の為か、山の恵みを得る為なんだとか。
「確かにここは景色がいいけれど、庶民は景色を楽しむ余裕があるかどうか怪しいし、貴族は馬に乗るから今更他のスポーツは不要なんじゃない?」
乗馬は、体力使うからだって。そうか……何か、もったいない……ん?
「リフトとか作って、気軽に来られるようになれば、観光地にならないかな?」
「なるかもしれないけれど、それだけだと弱いんじゃない? ここ程度だと、何かのついでくらいのレベルの場所だわ」
リラが厳しい。いや、言ってる事はいちいち納得出来るんだけど。
クイッツ伯爵は、多分潰れる。つか潰す。問題は、その後なんだよなあ。
……いやいや、私がここをもらう訳じゃないんだから、今から考える必要はないんだった。
これも、職業病ってやつかなあ。
動きがあったのは、その日の夜中。時刻は午前一時頃。
「丑三つ時かよー」
「あれって二時前後じゃなかった?」
「前後だから、一時も含むー」
「雑」
リラと言い合いながら、支度をする。盗賊の方は、カストルのドローンで既に捕縛済み。現在、オケアニスが縛り上げているそうだ。
……オケアニス、連れてきてたっけ? まあいいか。今更だ。
これから捕縛した連中を引き取りに向かう。カストルが移動すれば一発だって思うけれど、何と周囲に既に野次馬が集まり始めてるらしいんだ。
しかも、その中に怪しい人間も複数いるそうな。
現場にはオケアニスがいるから、盗賊達が殺される心配はない。あの子達、結界魔法も使えるからね。いや、優秀な子達だわ。
カストルが急遽呼び出したトラックを、これまた呼び出したオケアニスが運転してオフロード車の後ろを走る。
今回は、結界で見えないようにはしていない。見えてないと困るから。
今回盗賊達が襲ったのは、四つの領の一つ、レイバル男爵領の裕福な農家。襲撃しようとしたところを、オケアニスが捕まえたそうだ。
何故襲撃場所が事前にわかったかといえば、カストルのドローンが盗賊達の動きを捉えていたから。
そこから見えてくる、色々おかしなところは後で盗賊団を問い詰めるとして、まずは身柄確保か。
現場に到着すると、何やらもめている。何事?
「だから、そいつらをこちらに引き渡せと言っているんだ!」
「それは出来ませんと、何度も申し上げております」
「ここはレイバル男爵領だ!」
「それが何か?」
「男爵様の言う事には、従わなくてはならないんだよ!!」
何あれ?
『クイッツ伯爵の手の者が、レイバル男爵の名を騙って盗賊連中を連れて行こうとしているようです』
ああん? うちの労働力を横からかっさらおうってか? いい度胸だ。
そんな連中は、我が家の地下工事現場へご招待してあげよう。
人の波を割って現場に入ると、まだオケアニスと騙りが言い争っている。いや、叫んでいるのは騙りの方だけで、オケアニスは冷静だ。
「何回も言わせるな! それと、この見えない何かを外せ!」
「……」
「いい加減にしないと、痛い目を見るぞ!」
「それは、脅しですか? ならば、実力行使をします」
「てめえ!」
オケアニスに殴りかかった男は、華麗に投げ飛ばされた。おお、思わず「一本!」って言いたくなるね。つか、オケアニスって、柔道技も使えるの?
「あぐ……」
「な!」
「まだ、やりますか?」
騙り達の腰が引けてるね。奴らが逃げないよう、捕まえてくれる?
『お任せください』
あ、いつの間にかオケアニスが増えて、騙りの後ろに静かに近寄って、あっという間に締め落としちゃった。
「さて、これで積み込めるわね」
「ご足労にいただき、申し訳ございません。ご当主様」
オケアニスが、一斉に礼をする。
「謝る必要はありません。悪いけど、こいつらをトラックに乗せてくれる?」
「お任せください」
いつ見ても、小柄なオケアニスが大柄なごろつきを軽々と運ぶ姿は、異様だよねえ。
周囲に集まった野次馬達も、ぽかんとしているわ。
「あ、あんたら、一体……」
「これで盗賊被害はなくなると思うけれど、何かあったら困るわね。この子を置いていくから、貴族に困らされたりしたら、この子に言ってちょうだい。オケアニス、しばらくここに滞在してね。宿泊施設は好きに使っていいわ」
「承知いたしました」
これで、盗賊被害やそこからくる貴族からのいちゃもんも減らせるでしょ。うまくいけば、その場でたたき伏せられるし。
とはいえ、これから盗賊と騙りに自白させるから、クイッツ伯爵の命運は尽きたと思うけど。
夜中ずっと走って、明け方には王都に到着した。私達は車内で寝てたよ。やっぱり、キャンピングカーくらい作った方がいいかな。
いくら居心地のいい車内とはいえ、寝るには適さないし。
「んー!」
王都手前での最後の小休憩で、体を伸ばす。ずっと揺られていたからか、お腹も空いたねえ。
「あの連中、王都に連れていくの?」
背後から、リラに聞かれた。そういえば、トラックには寝かしつけた盗賊団と、騙り連中が積んであるんだっけ。
自白は場所を選ばないけれど、王都まで連れて行くと横やりが入る可能性があるか……
「ここで自白魔法を使っちゃおうか。様子は全て録画して」
「その録画、証拠として認めてくれるといいわね」
「いざとなったら実力行使!」
最後には、拳がものを言うんだよ。
私の発言に、リラが溜息を吐く。
「あんたのそういうところ、オケアニスが影響を受けてるわね」
「え?」
いや、そんな。
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