第735話 さくっと終える
よく休んだ翌朝、まだ日が昇ったばかりの頃に行動開始。
姉君様からは、ダーウィカンマー伯爵家への罪状を書いてもらったので、これは正当なものなのだ。
たとえおねだりした結果であったとしても!
「カストル、植物が栽培されている場所は、領都の近く?」
「いえ、もっと山側ですね。領都はこの伯爵領の入り口のようなものです」
なるほど。
ダーウィカンマー伯爵領は、東西に広がっている領地だ。その一番西側にあるのが目の前にある領都で、東側にあるのが栽培地なんだな。
じゃあ、領都は蹂躙しても、栽培地に影響はないね?
人のいない通りを、オフロード車で行く。徒歩の衛兵を後ろに引き連れているので、のろのろ運転だ。
意外にもまっすぐな作りの道の一番奥に、領主の邸がある。領都を囲う壁、高くて分厚かったのにね。
ここ、トリヨンサークとの国境沿いにあるから、戦争になったら攻め込まれてた場所じゃね?
「この先が領主の邸ですが、そちらにも高い壁と門があります。今のうちに開けておきましょう」
カストルの言葉に、フロントガラスへ目を向ける。確かに、奥の方に高い壁と大きな門が見える。
なるほど、敵に攻め込まれても領主の邸だけは護るってか。
領主の邸に到着すると、入り口の門から続く道は狭く、しかも曲がりくねっている。侵入者避けかねえ。
「何だかな」
「どうかしたか?」
カストルを前に道を歩く最中、思わずこぼしたらユーインに聞かれた。
「うん、何が何でも自分達だけは助かろうという意気込みを感じてね……」
「ああ、領都の造りか」
さすがは元騎士団員。言いたい事がわかったらしい。
「この規模の街なら、人口も知れている。いざという時は、この邸に全員立てこもるようになっているんじゃないか?」
「そうなの?」
「ここまで敵を引き込み、街中に罠を仕掛けて攻撃する方が、立てこもるよりも早く戦いが終わるのかもしれない」
そういう考え方もあるのか。肉を切らせて骨を断つ、みたいな。
領主の邸は、街よりも少し高い場所に造られているらしく、壁の中をぐるぐるとらせん状に回って上っていく。
途中、何度か転がっている兵士を見つけたが、全員衛兵達が持参した縄で捕縛していた。
「もうじき、建物本体です」
カストルの言葉に顔を上げると、確かに四階建ての建物が見える。でも、小さくないか?
「主様、ここはデュバルとは違いますよ?」
「いや、でも、オーゼリアの他の領地と比べても……せいぜい男爵くらいの大きさじゃない?」
思い出すなあ。併合する前に三つの男爵領を視察した時の事。それぞれで問題があったけれど、領主館って、横はこれくらいの大きさじゃなかったかなあ。こっちは縦があるから厳密に同じ大きさとは言えないけれど。
周囲に壁を張り巡らせているから、建物建てる範囲が狭まったとか?
邸の中では、何人か廊下で倒れている人物発見。全員使用人だね。扉の脇で崩れている兵士がいるのは、領主の部屋だからかな?
「おっ邪魔っしまーす!」
声を掛けてから扉を開く。少し広い部屋に、大きな天蓋付きの寝台。その上には、三十代後半くらいの男女が眠っていた。
ダーウィカンマー伯爵夫妻だね。よし、捕縛。
他の部屋でも、調度品が揃った部屋から男女が四人程捕縛されている。伯爵家の子供達だね。一番上は二十歳くらいかな。
今回は、ダーウィカンマー伯爵家そのものが消えるので、彼等の身分も平民になる。余罪がある場合は……国の法で裁かれるだろうね。
さくさく捕縛していき、続々と邸のエントランスホールに集められる。ここから邸の門まで手作業で運ぶのが大変だと思っていたら、いつの間にかリアカーが用意されていた。
その荷台に、手際よく縛り上げられた人達が並べられていく。あれ? リアカーを引くのはオケアニスでいいけれど、人数増えてない? あんなに連れてきたっけ?
『途中で増員しました』
ああ、そう。
無事、邸の中の人間を全てトラックに詰めるまで、早朝から昼過ぎまで掛かりました。大変だったね。私は見てるだけだったけど。
人数が多かったので、追加のトラックを呼んだくらい。衛兵達が一瞬驚いたようだけど、彼等は無駄口を叩かず淡々と仕事をしていたわ。
これで終わりというところで、カストルからの報告があった。
「領主不在は領民が困るでしょうから、ネスティとネレイデスを呼んでおきましょう。オケアニス達も必要かと」
「そうだね。じゃあ、適宜よろしく」
「承知いたしました」
有能執事がいると、本当便利。
そのまま、また王都へ向けて出発する。行きより帰りの方がトラックの台数が多いけれど、気にしない。
あ、衛兵達はまた眠らせて運ぶ事にしました。おかげでスピードを上げられたから、休憩時間が短くて済んだよ。
帰りは面倒なので、トイレ休憩以外は止まらずに飛ばした。こういう状況を考えると、キャンピングカーがあってもいいかも? まあ、それはまた次の話かな。
昼食と夕食は、車を停めて車外で食べる。秋のギンゼールは、もう空気が冷えていた。
といっても、結界を張っておけば温度は気にならないけどー。
ささっと地面を均し、屋外用のテーブルと椅子でいただくのは、うちの総料理長が腕によりを掛けた料理。美味しい。
ギンゼールの大掃除の後は、北の海での漁業権を獲得したい。沖合なら、操業する漁師も少ないだろうし、大丈夫なんじゃないかなあ。
北の海の幸。貝、エビ、カニ、魚。楽しみ。総料理長も、いい食材があれば喜ぶでしょう。
南の海もいいけれど、北の海もね。
弾丸ツアーのように行って帰ってとしたダーウィカンマー伯爵領ぶんどり作戦だけれど、無事終了。
王城に戻って王女殿下に報告したら、驚いていた。何故報告先が王女殿下かと言えば、既に彼女が女王になるのが内々に決まったから。
こういうのは、ちゃんとしないとね。
私の報告を全て聞いた王女殿下が、重い溜息を吐く。
「侯爵のやり方は知っていたつもりだけれど、いざ我が国でやられると、何故か驚くわね」
「慣れてください」
「慣れなきゃいけないの!?」
カイルナ大陸行きで一緒にいる時間が長かったからか、すっかり突っ込みが出来るようになって。何だか感動して涙が出そう。
「私のやり方には、今から慣れておいた方がいいと思いますよ? まだまだギンゼール国内で鉄道を普及させたいですし、北の海の幸もありますし」
「鉄道はわかるしありがたいけれど、北の海の幸って、何?」
おっと、口が滑った。でもいいか。ここで言っちゃえ。
「ギンゼールの北の沖合で、漁業を営みたいのですよ。場所によっては、海も国家に帰属すると思いますので、許可をいただいておこうかと」
「ああ、そういう事……その漁業は、我が国がやってもいいのではなくて?」
お? そこ、気付いちゃった?
「別にいいですが、ギンゼールの技術で私が望む漁が出来るかどうか」
技術不足を当てこすったら、あからさまに嫌そうな顔になる王女殿下。いや、いい事だと思います。自分の国、大事ですからね。
「漁業に関する話は、後ほど。今は、連れ帰ったダーウィカンマー伯爵家の者達の処遇が先でしょう」
「ええ、そうね。裁判に関しては、母が準備しているわ」
まだ、少し親子のわだかまりは残っているようだけど、ビジネスライクに行けるのなら、それはそれでいいと思うな。
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