第727話 再びの
ルパル三世の診察を私が請け負うのは決まった。でも、まだまだ姉君様に聞かなきゃいけない話はある。
「あのマフバドス伯爵って、どんな人物ですか?」
「彼は、内乱前から陛下の周囲に侍っていた人物よ。私の存在が目障りらしく、わかりにくい嫌がらせを何度もされているわ」
うへえ。あのおっさんは、大掃除対象だな。
「前回の時に見かけなかったという事は……」
「内乱が起こってすぐ、王都を捨てて逃げ出したわ。なのに、内乱が終結したらすぐに戻って、また陛下の周囲にまとわりつくようになったの」
姉君様の言葉からも、あのおっさんへの嫌悪感が滲み出てる。そりゃそうだよね。大変な時に見捨てたくせに、騒動が終わった途端手のひら返しで速攻戻ってくるなんて。
そんな奴でも、使わないとやっていけなかったのがギンゼールなんだ。
こりゃ、本当に大掃除になりそう。
ギンゼール国内の勢力図に関しては、まだ色々聞き出さないといけないんだけど、さすがに長旅で姉君様も疲れている。
「続きは明日以降という事で。今日はもう、お互いに休みませんか?」
「ええ、そうね」
よく見れば、姉君様の顔には疲労の色が濃い。周囲の侍女達も、心配そうだ。
ただでさえ出産育児で疲れているところに、デュバルまでの行き帰り。帰って早々王宮での態度に、おっさんの存在ときた。休まなきゃやってられない。
ルパル三世の診察も、後回しだな。
王宮内に用意してもらった部屋でほっと一息吐いていると、来客が告げられる。誰だ?
通されたのは、ファベカー侯爵。彼の後ろには、先の内乱騒動の黒幕だったギャロス伯爵の息子がいた。
「久しいな、デュバル侯爵」
「ご無沙汰しております、ファベカー侯爵」
この人も、ちゃんと情報を得ているね。となると、やはり国王回りはかなりヤバいかも。
にしても、まさか国王の側近が訪ねてくるとは。
彼等を部屋に招き入れ、オケアニスにお茶を出してもらう。オケアニスも彼女が煎れているお茶も、王都駅から用立てたもの。
実際には、デュバルからネスティの移動魔法で送ってもらった。この王宮だと、飲み物や食べ物に毒を盛られかねないから。
身の回りの事も、王宮の使用人に任せたら何か盗まれそうだし。
ここ、前よりも信用出来ない場所になってるからね。
「さて、唐突だが、今回の訪問の理由を聞いてもいいか?」
いきなりか。まあ、前置きとかは私も面倒に思うタイプだけれど。
「唐突過ぎますね。観光とは思わないんですか?」
「はっはっは、面白い冗談だな」
冗談かよ。まあ、確かに観光ではないけれど。
「王妃陛下をお送りしてきたんです」
「侯爵、建前はいい。あの内乱で恥はさらした。今更だ」
そういや、内乱の黒幕、この人と仲がよく、従姉妹を嫁がせる程だったっけ。一緒に来た……ネヴァン卿か。彼がその息子だ。
ファベカー侯爵は姉君様とも良好な関係だし、ガルノバンとの国交が大事なのもよく知っている。
なら、いっか。
「実は、王女殿下の為にギンゼールの大掃除にきました」
「大掃除……か。それも、王女殿下の為とは」
何故かファベカー侯爵、苦い笑みを浮かべている。これはあれか? 王女殿下が国外逃亡をする羽目になった事を自嘲しているのかな?
「して、その大掃除、どの辺りまでやる予定か?」
「考え中です」
これは本当。ギンゼールって、私が思うより面倒な国っぽいし。まさか今王宮にいる貴族全部掃除する訳にもいかないしなあ。
私の返答を聞いたファベカー侯爵は、何やら考え込んでいる。あ、あなたは掃除しないから、安心してね。言わないけど。
しばらく無言だったファベカー侯爵が、口を開いた。
「……大掃除に必要な情報を、私からも提供しよう」
「よろしいのですか?」
「よい。掃除後に使える人材にも、心当たりがある。もちろん、侯爵が調べて不当と思えば、使わずともよい」
こういう人材がいるのに、どうしてこの国はこんなになっちゃったんだろうねえ。
翌日にはもう一度姉君様に会って、勢力図に関しての話をしようと思ったんだけれど、それどころではなくなった。
姉君様、発熱でダウンだってさ。
それを聞いたのは、朝食の前。もちろん、食事に関してもネスティがデュバルから送ってくれたものを、オケアニスが給仕してくれる。
その朝食の席で、姉君様の話題を出した。
「まあ、まだ体調も万全じゃない時に長距離を移動してうちまで来て帰ってってやってるからね。相当体に負担がいったんじゃないかな」
「あんたの魔法でどうにか出来ないの?」
リラの気持ちもわからんでもないし、出来ると言えば出来る。でも。
「やらない方がいいんだよ。疲労からの体調不良は、きちんと休養で治した方がいいんだ。私の回復魔法だと、体力を使うから」
もっとも、その体力を自分の魔力で代替出来るけどなー。
ただ、やっぱり魔法で無理矢理治すよりは、休んで治した方がいい。病気や怪我、毒なんかだと、魔法を使うけど。
まさか、毒って事は、ないよね?
『反応がないので、魔法薬系の毒ではないですね』
待って。それ、毒を盛られているって事?
『微弱ですが』
駄目じゃん!
「前言撤回。姉君様、毒を盛られてる」
「え!?」
朝食の席が、一瞬で騒然となった。
本来なら侍女か誰かに先触れを伝えに行ってもらうんだけど、ここの王宮は姉君様にも私達にも隔意がある連中ばかりなので、直で行く。マナー違反も甚だしいね。ここを突っ込まれたら素直に「ごめんなさい」するしかない。
訪ねた王妃の部屋にいた侍女達も、ちょっと顔が曇っている。
「まあ、あなた様方は……」
「王妃陛下にお会いしたいのだけれど、取り次いでもらえるかしら?」
「それが、あいにくと体調が悪くて」
「わかっているわ。それ、治せるから」
「え?」
ぽかん顔の侍女を押しのけるようにして、奥から王女殿下が顔を出した。
「皆さんを中に入れて」
「ですが……」
「お母様を助けてくださるわ。お父様の事だって、助けてくださったのだもの」
あれ? 王女殿下、まさか姉君様が毒で倒れているって、知ってる?
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