第723話 まだだったんだ……
狩猟祭の後、ギンゼール行きが決定した訳ですが。それはいい。それはいいんだ。
「何故、アンドン陛下達まで狩猟祭を見ていく必要が?」
「いやあ、オーゼリアでもでかいイベントなんだろ? だったら見ていくのは大事じゃないかあ」
嘘だな。帰国して仕事するのが面倒なだけだろ。正妃様の額に青筋が立っているのが見えるよ。笑顔に凄みがあります……
姉君様も、残るらしい。私がギンゼールに行く際、一緒に帰る事にしたそうだ。
お子さん、まだ小さいのでは?
「あの子は将来、国を背負って立つ子です。この程度の期間、母と離れていても、耐える事を覚えなくては」
いやいやいや! そういうところでしょうが! 姉君様だけでも帰国させようと思ったんだけれど、それを止めたのは、何とシェーヘアン公爵夫人。
「あの姉には、現実を突きつける必要がありますよ。帰国して、我が子に嫌がられてみればいいんです。赤子とて人、親とはいえど長い間側にいなかった者の事は簡単に忘れますよ」
ほほほと笑う公爵夫人。つまり、我が子に忘れられて盛大に落ち込めと? 恐ろしや。
とはいえ、姉君様の悪い点って、そこだからね。自覚をさせるには、確かにいい機会かも。
既にお子さんを置いてここまで来ている時点で、姉君様って詰んでるんじゃね?
ああ、でもこちらにも「我が子」がいるのか。うーむ。
問題の起きない狩猟祭って、素敵! なんだかんだで何かしら起きる事が多かったイベントだからなー。
アンドン陛下は、スクリーンやドローン撮影に興味津々だった。
「まさかここでこんな技術が発展してるとは!」
「これらは魔法技術ですよ」
「そうかー……魔法かー……」
いきなりがっくり肩を落とされてしまったわ。
「ガルノバンなら、物理的な技術だけでどうにか出来るんじゃないですか?」
「まだそこまでいってねえんだよ……いいなあ、カメラにスクリーン。映画撮り放題じゃねえか」
まあ、転生者ならそれは思いつくわな。
「映画まではいきませんが、環境ビデオみたいなのなら作りましたよ?」
「え? 何それ見たい!」
「では、後程」
確かに映画は作ろうと思えば作れる技術はあるんだよね。問題は、内容です。あと、監督とかスタッフや役者はどうするんだって話。
役者や演出に関しては、芝居をやっている人達がいるから、そこから生まれるかもね。
狩猟祭最中は芝居小屋もいくつか建つから、そこから選び出してもいい。こういうのは、リラに丸投げしておいた方が無難かも。
私が選ぶと、一般受けしないものばかり選びそうだから。
そのリラは、狩猟祭では割とのんびり過ごせるらしい。
「主催で忙しいのはツーアキャスナ夫人だからね」
なるほど。ルイ兄の奥方になったツーアキャスナ嬢改めツーアキャスナ夫人は、確かに狩猟祭中忙しそうにしていた。
まだ慣れない部分も多いから、シーラ様がそれとなくサポートしているよ。心強い味方がいるから、ツーアキャスナ夫人も安心だね。
私の意見に、リラは微妙な反応だ。
「何で?」
「いや、お義母様が心強い味方というのは確かなんだけど、ツーアキャスナ夫人にとっては姑のようなものでしょ? 結構厳しいかも」
「えー? シーラ様は、嫁いびりするような方ではないでしょうに」
「それでもよ」
よくわかんない。
狩猟祭の裏では、ギンゼール行きのあれこれを詰めてもいる。
「じゃあ、今回の報酬は現金でもらうのね?」
姉君様と話し合った結果は、リラと共有。カストル達は勝手にのぞき見盗み聞きしているから、放ってある。
リラの確認に、先程まで話し合っていた姉君様との交渉を思い出した。
「現金っていうか、まあぶっちゃけ金塊とかかな」
換金しやすいものにしてみましたー。うち、お金には困っていないように見えて、それなり出費の多い家だから。
「権利やら鉱山でなくてよかったわ」
リラがほっとしている。さすがにね。これ以上、飛び地やら何やら増えるのは、管理が大変になるから。
とはいえ、あちこちにある島に関しては、ネレイデスやオケアニス、ヒーローズを派遣して管理していますが。
グラナダ島に関しても、そろそろ交易の中継地点としての役割が正式稼働しそうだしね。
ギンゼールからは、もらった鉱山からダイヤや鉱石やらを輸入……と言うのか? まああちらからこちらに持ち込んではいる。
ダイヤに関しては、ヤールシオールがほくほく顔であちこちに売り込んでいるらしい。商売上手だよな、本当。
鉱石に関しては、一括して分室へ。高圧縮型の魔力結晶の製造技術は安定しているから、量産してもらっている。
あれはいい動力源だからね。領内のあちこちで使っているし、船にも使っているから。
当然、西のカイルナ大陸に作った運河に浮かべる船にも使う。そろそろ、試作第一号の船が運河を航行する頃だったかな?
向こうも安定したら、運河クルーズにいかなきゃ。レネートの事も、きちんとお祝いしてあげたいし。
とはいえ、まずは目の前の狩猟祭を無事終えて、ギンゼールに行って大掃除をしないとね。
狩猟祭は無事終了。今年の勝者は序列中位の家の嫡男。もちろん、優勝冠はツーアキャスナ夫人の手から渡されてた。
私は最後まで狩猟祭に参加し、翌日デュバルへ戻る。デュバルとペイロンには鉄道が通っているから、行き来が楽になったよねー。
そしてもう一つ、何故かペイロンで報告を受ける事に。
「ツイーニア嬢と、友達になった!」
ロイド兄ちゃんである。あんた、去年かそこら、ツイーニア嬢を「友人枠」で狩猟祭に招待してなかったっけ?
「まだ友達じゃなかったんだ……」
「あ、いや、あの時はその、同僚を友達という形で……」
つまり、友達でもなかったのに、友人枠で招待した……と。隣で聞いてるルイ兄も苦笑いだよ。
「ともかく、個人間のやり取りまで文句を言う気はないけれど、ツイーニア嬢を傷つけたりしたら、ロイド兄ちゃん相手でも許さんから覚えておいて」
「当然だ!」
まあ、ペイロンって女性や子供には優しくしろっていうのが、教育としてたたき込まれるからね。自分より弱い者へ強く出たりした日には、本当に強い人達から教育的指導を受けるっていうね。
ちなみに、老人が入ってないのは、あそこ、元気な爺さんで溢れているから。弱い者って括りに、老人は入らんのよ……
婆様達は「女性」の括りに入るから、優しくする対象です。
ともかく、友達からという、大変迂遠なお断り文句である可能性が高いけれど、ツイーニア嬢が男性と向き合う事が出来たのはいい事なんじゃないかな。
とりあえず、超頑張れ、ロイド兄ちゃん。
デュバルに戻って二日、狩猟祭の疲れも取れただろうから、いよいよギンゼールに向かう。
既にデュバルからガルノバン、そしてギンゼールに繋がる路線は出来ているので、今回は直通にして特別列車での行き来だ。
途中、ガルノバンでアンドン陛下夫妻と、シェーヘアン公爵夫妻を下ろす。王女殿下は、姉君様と一緒に一度ギンゼールに帰るのでね。
東のイエルカ大陸での事や、シェーヘアン公爵家での経験などで、王女殿下の中で変化が起こっているらしい。
それがいい結果になるのかどうかは、まだわからない。願わくば、いい方向に行きますように。
それもこれも、全てはギンゼールでの大掃除に掛かってるのかなー。責任重大?
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