第718話 波乱が来そう
意外にも、帰国挨拶する先がそれなりにあって、ちょっと疲れた……
「王都にいると、あちこちに呼び出されて面倒……」
王都邸の居間でぐったりしていたら、リラに聞かれていたらしい。
「なら、本領に帰る? もう帰国の挨拶が必要な先はあらかた回ったから」
「んー」
そういえば、ヤールシオールが本領に戻ったら視察に行ってくれって言ってたっけ。
「本領に戻っても、書類の山が追いかけてくるのからは逃げられないんだよなあ……」
「それは自業自得。でも、ズーインのおかげで大分減ってるはずよね」
リラの言うとおり。ズーインはやっぱり優秀で、書類仕事の半分くらいは請け負ってくれている。研修終わってすぐから、全力で仕事してくれてるわ。
彼もワーカホリックの気があるので、周囲には注意して見ておいてもらおう。
つか、何故私の周囲はワーカホリックばかりなのか。仕事は程々に、余暇を楽しみましょう。
初夏の王都を後に、本領に戻る。来月には、私のバースデーパーティーもあるしね。
その準備もあるから、本領に戻ってきたのだよ。決して王都の社交が面倒だからではない。
領都ネオポリスは、相変わらず美しく活気に満ちた街だ。領民もこの街の「使い方」を覚えたらしく、地下交通網は評判だという。
「使い慣れない人が迷子になってたのも、いい思い出かー」
「いい思い出として片付けないように。パニックになるところだったんだから」
本日は領都の視察。という名の、散策だね。
領主館前から伸びる大通り、その歩道をゆっくりと歩く。大通りの両脇に軒を連ねるのは、ロエナ商会関連の店と、私と直接関係がある店が殆ど。
最近は、この場所を狙って余所の領の商会も進出してきているんだとか。
「ヤールシオール様がしっかり目を光らせているから、下手な商会は入り込めないようになってるようよ」
「まあ、うちはカストル達の監視網もあるしねえ」
基本的に、ロエナ商会関連、シャーティの店関連、マダムの店関連以外の店は、全て最初の三年はがっつり監視が付く。
それで問題がなければ、その後はランダムに抜き打ちで監視が入るそうだ。悪い事は出来ないよー。
今のところ、その監視網に引っかかるような馬鹿はいないそうだけど。
「……デュバルの怖さは、王国中に轟いているもの」
「怖さって」
リラは、たまに言い過ぎる時があるよなー。笑い話だと思って笑ったら、真顔で返された。
「あんたはもうすこし自覚を持て」
「自覚」
「散々あちこちの家を潰したり、盗賊を捕まえて報償金を得たりしたから、社交界のみならず、今じゃ裏社会でも『デュバルには関わるな』って言われているそうよ」
マジで?
オーゼリア国内には、まだ裏社会なるものが残っているそうな。
「というか、なくすとそれはそれで余所から犯罪者が入り込む土壌を作る事になるから、裏は裏で連中にしっかり見張らせておいた方がいいんですって」
「そうなの?」
リラからの意外な情報に、思わず声が出る。
「必要悪のようなものらしいわ」
「あー」
そう言われると、何となく納得。
「で、私はそこからも嫌われている……と?」
「嫌われているんじゃなくて、恐怖の対象になってるって言ってんの」
「ええええええ」
理不尽。私が奴らに何をしたっていうんだ。
ブーブー文句を言っていたら、リラから呆れられた。
「あんた……何をしたって、盗賊団をいくつも潰したでしょうが。彼等も、裏社会の人間よ。つまり、今生き残っている裏社会の者達にとっては、仲間……というか、同業者を潰しまくったのがあんたなの。明日は我が身と恐れられても、当然じゃない」
うぬう。納得いかん。とはいえ、裏社会の連中ならいくらでも捕縛していいもんな。
「賞金首ならなおよし」
ぐっと拳を握ったら、リラから冷たい声が響いた。
「……そういうところだよ」
どういうところだよ。
書類仕事の合間に、バースデーパーティーの準備と狩猟祭の準備、それと領内視察の予定を決めていく。
「領内って、こんなに広がってたんだ……」
「王家から飛び地をたくさんもらったのや、フロトマーロで買い求めた土地、それに西のイエルカ大陸に行く途中で見つけた島々、東のカイルナ大陸に行く途中で手に入れた島々、他にも帝国の領地やグラナダ島、それにリューバギーズでもらった離宮があるわね」
「リューバギーズかー……あそこ、離宮内に直接行けるんだよね?」
「移動陣を敷いてあるから、出来るでしょ。なくてもカストル達の誰かがいれば、行けるんだし」
あいつらの移動魔法は反則みたいなものだもんな。
「離宮に関しては、かなり手を入れないと使えないわね」
手元の資料を見ながら、リラがこぼす。確かに、長年放置されていたせいで、荒れ放題だったっけ。
「結界張って、人形遣いを送って、土台から作り替えちゃおうか?」
「面影くらいは残しておきなさいよ。リューバギーズの建築様式って、こっちとは違ってるから」
そうか。そういう面もあるのか。んじゃ、一度図面引いてもらわないとなー。
その為にも、職人連れていかないと。
いずれにしても、視察は狩猟祭が終わってからだ。バースデーパーティーも、狩猟祭も準備が大変。
主に、ドレスやアクセサリーの用意で。
「毎年の事だから、マダムには先んじて注文を出してあるの。ただ、あんたのサイズが変わってないかのチェックが必要なのよね」
「……」
リラの言葉に、思わずウエストを手で触る。ふ、増えてはない……はず。その上は、増えてもいいのだが。ちっとも増えない。
「リラの分も、しっかり仕立ててもらってよ」
「抜かりはないわよ」
リラも、成長したなあ。私が用意した新品のドレスに青い顔をしていた頃が懐かしい。
そのリラは、手元の書類をまくりながら、あれこれ口頭で確認してくる。
「招待状は既に発送済みだし、臨時列車の手配も終わってるわ。料理の方も、総料理長が動いてるから問題なし。あとは……」
「何かあるの?」
「……国外からの、来客がありそうなの」
国外とな?
「……まさか、アンドン陛下が『来ちゃった』するんじゃ……」
「予定がある以上、『来ちゃった』はないわよ。ただ、確かにガルノバンからの打診なのよね……」
「マジかー……」
アンドン陛下、カイルナ大陸に一緒にいったばっかじゃん!
「それと、意外なところからも打診が来てるわ」
「どこ?」
「ギンゼール」
マジですか?
ガルノバンとギンゼールから、私のバースデーパーティーに参加したいという打診が来ているという。
アンドン陛下は、その後の狩猟祭にも参加したいという話。ただ、これは王宮と既に折衝済みで、近々ペイロンに通達が行くそうな。
アンドン陛下……やれば出来るんだから、毎回こういうルートを通してきてよね。お忍びとか、こっちが困るんだから。
ブツブツ言っていたら、リラがにやりと笑う。
「正妃様を味方に付けられたのは、大きいわね」
「そ、そうね」
どうしよう。リラがどんどん怖い存在になっていく。でも、その怖さが発揮されるのは、今のところアンドン陛下に対してのみだから、いっか。
それよりも、確認しておかなきゃいけない事がある。
「ギンゼールからは、誰が来る予定なの?」
「それが……王妃陛下が訪問を望んでいらっしゃるって、書いてあるわ」
「はい?」
姉君様? 育児で忙しいんじゃなかったの? つか、来るのって私のバースデーパーティーよね? 一国の王妃陛下が来るようなイベントか?
首を傾げていたら、リラがとても言いづらそうに続けた。
「それと、ガルノバンなんだけど」
「うん?」
「王女殿下と一緒に、シェーヘアン公爵夫妻が訪問予定ですって」
何ですとー!?
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