第713話 潜入……?
ヒーテシェン国内に、ギュンバイ一家が関わった非合法娼館が後三箇所ある。
ギュンバイ一家含め、全ての娼館の元締めは、ヒーテシェンでも一、二を争う旅館の経営者……の息子。
とはいえ、どうも父親である経営者も知っていてやらせているっぽい。
まったく……
面談終了後、船に戻って色々やっているところに、コーニーがやってきた。
「向こうの話は終わったんでしょ? お茶にしない?」
時計を見れば、確かにおやつの時間だ。美味しいコーヒーとケーキで、コーヒーブレイクといこうじゃないの。
今日のコーヒーはアイスラテ。ケーキはガトーショコラ。リラも誘って三人でのプチ女子会だ。
とはいえ、話題は潰したばかりの娼館の話になるんだが。
「じゃあ、その三箇所も潰すのね?」
コーニーからの確認に、頷く。
「そうなるね」
乗りかかった船だ。
「本人達ではないけれど、お仲間からの救助依頼って事で、引き受けた」
「ああ」
リラが何やら納得いったという顔で頷いている。シズナニルとキーセアから、何か聞いてるのかな?
基本、無償で人を助ける事はしない主義だからね。そんなのやっていたら、手がいくつあっても足りない。
ただし、本人から「助けて」と頼まれたなら、救助もする。そんな事くらいで? と思われるかもしれないけれど、これが大きな差なのだよ。
それに、ここはオーゼリアではない。国が違うどころか、大陸すら違うんだから。ここで私の身分は役に立たないのだ。
その代わり、闇に紛れてやりたい放題ですがー。だって、こっちに魔法が使える人、ほとんどいないもん。
娼館出身者の割り振りを考えたり、これからの襲撃計画を立てたり、結構忙しい。船の執務室で、メモを前に悩む。
本当は三箇所同時に押さえたいんだけど、人数がなあ。
「あ、コーニーにはイエル卿とヴィル様に同行してもらえばいいのか」
私はユーインと、もう一箇所はカストルに単独で動いてもらおうかな。
『主様、私では駄目ですか?』
ヘレネからの念話だ。君達、主である私の考えを勝手に読むなと言われているよね?
『それに関しては、お詫び申し上げます。ですが、襲撃参加をご検討いただきたく』
謝罪すると言いつつ、自分の意見はしっかり通そうとする。本当、有能だけど困った連中だよ。
「主様、ヘレネの申し出を叶えてはいただけませんか?」
「カストル、あんた、いつの間にそこにいたのよ」
「追加の書類を持って参りました」
「うげ」
見れば、彼の手には確かに書類の束が。どこから持ってきたんだ、それ。
「こちらは急ぎですので、ヒーテシェン関連のものは先送りにしてください。それと、娼館から移住する者達の割り振りは、私の方でやっておきます」
いい笑顔で言われては、駄目とも言いづらい。面倒な割り振りを肩代わりするとも言ってるし。
「……わかった。ヘレネ、敵は決して殺さないように」
「もちろんですわ! 主様!」
ヘレネ! あんたも! いきなり目の前に現れるのはよしなさい!
一箇所はコーニーを中心に、イエル卿とヴィル様。一箇所は、私とユーイン。そして最後の一箇所はヘレネが一人で行く。
「オケアニスでも連れて行けば?」
「あの子達を連れていきますと、私が出る幕がなくなります」
そんな悲しそうな顔で言う事じゃないよね? ヘレネって、いつの間にこんな性格になったの?
まあ、海賊殲滅なんてやってたくらいだから、最初からか……
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい、コーニー。イエル卿もヴィル様も、気を付けて」
「もちろん」
「とりあえず、コーニーがやり過ぎないように気を付けておく」
旦那と兄だと、反応が違うねえ。
三人は、ポルックスの移動魔法で直接非合法娼館へ飛ぶ。ポルックスは三人に同行して、女性達や従業員を運ぶ役目も負っていた。
ポルックスにしては、静かだなあと思ったら、何やら顔がおかしな感じになっている。噴き出すのを耐えているような……
「ポルックスでしたら、お気になさらず。まだ、主様の前で話す事を禁じている最中ですので」
え? まだ?
ポルックス、前のやらかしで受けた罰から、まだ解放されてなかった。もういいかとも思うけれど、静かだからまだいいや。
彼等を見送ると、次はヘレネだ。彼女は一人。移動も攻撃も全て出来るからね……
「では、私も行って参ります」
「うん。ヘレネ、くれぐれもやり過ぎないようにね」
「……はい」
その間は何!? 問いただそうにも、既にその姿は消えている。本当にもう。
「レラ、私達も」
「ああ、そうだね。じゃあリラ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。あんたも、やり過ぎには気を付けなさいよ。それと、新しい何かを拾ってこないように!」
そんな、犬猫を拾ってきた訳じゃなし。単純に人を救出してきただけだよ。
私達に移動も、カストルが飛ばしてくれる。ついでに、私達の方には彼も同行するそうだ。
助けた女性達、移動陣で移動させるより、カストルの魔法で一挙に飛ばした方が便利だからね。
さて、じゃあ行きますか。
到着した先は、表通りから大分奥へ入った路地のどん詰まり。ろくに掃除もしていない場所だから、ドブのような臭いが漂っている。
「結界を張りました。臭いの方は、これで問題ありません」
「ありがと、カストル。さて、その扉の先?」
「はい」
どん詰まりの脇には、木製の扉が一つ。上部に、のぞき窓があった。あそこから、来た客を選別しているらしい。
んじゃ、堂々と表から行きましょうか。
「カストル、辺り一帯に遮音結界。中の音声や振動が外に漏れないように」
「お任せ下さい」
私達を取り囲む、臭いを遮断する結界とは別に、辺りに音と振動を逃がさない結界が張られる。
結界内では音声が聞こえるし振動も感じるけれど、結界の外には一切漏れ出ないという代物。
これで、中でどう暴れても、周囲にバレる心配はない訳だ。
「ちなみに、周囲にここと同じ組織の連中はいる?」
「いいえ、おりません。こちらの組織におもねって、ここで何が行われているか知っていても、誰にも流さないようです」
なるほど。同じ穴の狢ばかりって事か。
とりあえず、中に入らないとね。扉を叩いて、人を呼び寄せる。
「……何だ? おめえら。 ここは嬢ちゃんのようなのが来る場所じゃ――」
「星空の天使でーす! ここに捕らえられている人達を、助けに来ましたー」
「ああ? うご!」
どうせ壊す場所だ。扉ごと、応対に出て来た男を吹き飛ばす。お、中は割と広いんだね。
応対に出ていた男は、扉ごと部屋の奥の壁に激突している。しばらくは動けないでしょう。
「主様、あれは先に地下へ運んでおきます」
「お願い」
すぐに、扉ごと男の姿が消えた。
「誰だ!? てめえら!」
「ここをどこだと思ってやがる!?」
広い空間には、それなりの人数の男達がいた。凶悪な面構えを考えると、ここの用心棒といったところかな?
その中の一人、顔に傷がある男がふらりと私の前に来る。
「おい、嬢ちゃん。おかしな格好しやがって、ここは嬢ちゃんが来るような場所じゃねえぞ。とっとと家に帰ってママのおっぱいしゃぶってな」
扉ごと仲間が吹っ飛ばされて、その後すぐ姿を消したってのに、動じないねえ。
「あなた達こそ、その場で跪いてこれまでの罪を悔い改めれば、少しは長生き出来るかもよ?」
よくわかんないけれど。
私の言葉を冗談だとでも思ったのか、ゲタゲタと笑い始めた。それに釣られたのか、周囲の男達も下品に笑い出す。
「頭いかれた女かよ。ならいい、お前も下で商品に――」
男は、最後まで言えずに吹っ飛んだ。私の後ろにいたユーインが、蹴り飛ばしたのだ。足に身体強化入れたね?
「下郎が。近寄るな」
吐き捨てたその一言に、男達が反応した。
「何しやがんだこの野郎!」
「構わねえ! やっちまえ!」
何という、フラグ発言。でもまあ、最初からやる気満々なので、いっか。
「食らえ! 催眠光線!」
何者も、私の催眠光線からは逃れられないのだ。
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