第712話 面談

 今回の非合法娼館の女性達との面談は、かなり大変になりそう。なので、一応ヘレネを同行させる。


 何故カストルやネスティでないのかといえば、男性でなく、かつ肝が据わっているのはヘレネだから。


 ネスティも優秀なんだけど、彼女は色々と繊細なところがあるから。


「主様、それでは私は繊細ではないと聞こえてしまうのですけれど」


 当のヘレネからクレームが入った。あんたも、カストル同様人の考えを読む子だね。


 そんな君への答えはこれだ。


「その通りだけれど?」

「えええええええ」


 いや、笑顔で海賊を殲滅するとか言うような子は、繊細とは呼びません。




 面談場所は、色々手に入れた島の一つ。ここなら、逃げられる事も襲撃される事もないから。


 島には突貫工事で作った別荘があり、大抵の島の別荘は広い平屋造りだ。何故平屋かと言えば、土地があるからとしか答えられない。


 いや、私が指示した結果じゃないからさー。カストルが指示したようだ。


 その平屋作りの別荘……しかも、いくつかの建屋を渡り廊下で結ぶ、和風な感じの別荘で、面談は始まった。


 ちなみに、何とか一家の地下から救出した子達も、一時的にここにいる。医療用ネレイデスに診させておいたから、必要なら魔法治療を使っている事だろう。


 面談トップバッターは、あの娼館でも一番年嵩な女性。見た目じゃないよ、カストルが産出した結果だ。


「どうぞ、こちらに」

「あ、ああ」


 オケアニスに先導されてきた女性……サロアからだ。


 見た目は和風な別荘だけれど、中は板張りの洋風。なので、置いてある調度品も見た目和風なテイストを取り入れてはいるけれど、椅子とテーブルだったりする。


「さて、少し話は聞いていると思うけれど、あなた達の今後についての話し合いです」

「は、はい」


 ビクつかれてるなあ。まあ、いきなり目が覚めたら今までとはまったく違う場所にいて、ここから出られませんって言われたらそりゃビビるわ。


「あなた、帰る家はある?」

「……あるとは思う……あ、いえ、思います」

「普段通りに話して。その方が楽でしょ。緊張しなくていいわ」


 ここはオーゼリア国内じゃないし、私の身分もここでは関係ない……とはならないけれど、まあ私自身がいいって言ってるんだから、いいんだよ。


 いつも通りでいいと言われたサロアは、目に見えてほっとしている。


「それで、話が戻るけれど、帰る家、もしくは場所はある?」

「……ないわね。私が攫われたのは十年以上前だし、親は私が攫われる時に殺されたから」


 あいつら……工事現場は最下層に指定しておかなきゃ。


『すぐに手続きいたします』


 よろしく。


「では、帰る場所はない……と。どこか、身を寄せる先はある?」

「それもないわ。私の故郷は山間の狭い村で、連中に半分以上を焼かれたの。親族もその村に固まっていたから……」


 本当、ろくでもないな。


「では、国内で何か仕事をして、生きる手立てを見つける?」

「それも……どうだろう? 私達の客って、政府の高官とか、富裕層が多かったのよ。ああいう連中って、外には出せないヤバい趣味を持ってる連中が多くてさ。私らが娼館の外に出たって知ったら、多分始末しようとするんじゃないかな」


 口封じかよ。もう、本当にろくでもない国だな! ヒーテシェン。


「では、もう一つの選択肢の話をしましょうか」

「せんたくし?」

「ええ。故郷を捨てる事になるけれど、誰もあなた達を知らない場所で、やり直すのはどう?」

「え……」

「無理強いはしないわ。行く当てがあるならそちらを優先していいし、故国を捨てられないっていうのなら、あの国で生きていけるよう出来る限りの事はする。考えてみてね」


 サロアは、言葉が出ないようだ。俯き、何かを考え、やがて顔を上げた。


「あんた、一体誰なんだい? どうして、私達にそこまで――」

「私、星空の天使なの」

「はあ?」


 今日一番、彼女が驚いた顔だったと思う。




 他にも全員と面談したけれど、ギュンバイ一家に攫われたばかりの子達は、さすがに家に帰る事を選んだ。彼女達も地方で攫われたそうだけど、親や住んでいた街や村までは襲撃されていないらしい。


 ただ、娼館にいた女性達は全員、移住を決意している。やはり、口封じを恐れる部分が大きいらしい。


 そんな中、サロアから話があると連絡がきた。


 船で書類仕事をしていた時だったので、一も二もなく飛びついて別荘に来たら、何やら深刻そうな顔をしている。


 しかも、サロア一人ではない。娼館にいた女性がもう三人程、彼女を支えるように一緒にいる。


「どうかした?」

「あの……こんな事、私らが頼むのはおかしいってわかってるんだけど、あんたくらい力がある人なら、出来るかと思って……」


 何か頼み事をしたいと。ほほう? 私への依頼は高いよ?


 冗談でそう言おうとしたら、先にサロアが口を開いた。


「私らみたいな子達が、他にもいるんだ! お願いだよ! 彼女達も助けてやって!!」

「その話、詳しく」


 私の返答が意外だったのか、サロア達は目を丸くしている。君達が頼んできたんでしょうが。




 サロア達によると、非合法娼館は他にもあって、そちらは完全にアンダーグランドな存在らしい。


「繁華街の裏に入り口があって、音が外に漏れない作りになってるんだ。そこに、娼婦がおそらく十人くらい。そんな場所が、三箇所ある」


 おいおい、随分と手広くやってたんだな、非合法娼館。


 全て同じ人間がオーナーで、「用途」に応じて建物や女性の配置を考えていたらしい。


「ちなみに、そのオーナーって?」

「この国で一番の旅館を持っている家の当主だよ」


 マジかー。そんな奴なら、いくらでも「場所」を提供出来るだろうよ。


 顧客は大きな商会の会頭やら、議員やらその秘書やら。中には、国外から来る客もいるという。


「それと、一番酷い場所の子達は、その……」

「何かあるの?」

「酷く、痛めつけられているんだよ……」


 ノルイン男爵が作った、人身売買組織を思い出す。あちらは売り先が個人だったけれど、こちらは手元で客を取らせていたというだけの違いか。


 しかも、国外からの客? カストル、その客が誰か、調べられる?


『これからその娼館に出向いて、顧客情報を取ってきましょう』


 いや、行くなら私達が襲撃するのに合わせて。


『承知いたしました』


 国外の客はこれでよし。国内の客は……まあ、顧客情報が手に入れば、自ずと知れるでしょう。

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