第711話 星空の天使は正義の味方!

 ギュンバイ一家の根城をもぬけの殻にした翌々日。セボンドではちょっとした騒動になったらしい。


 一応、表向きは雑貨商を偽っていたからかなあ。それとも、ヒーテシェン上層部にいる「お友達」が焦ったのかなあ?


 何せ、根城にあった仲良しこよしの証拠書類、全部こっちの手元にあるからねえ。


「これ、ユントリードの新聞社を通して公表したら、面白いかもー」

「そんな面倒な手を使わずとも、全員潰してしまえばいいじゃない」


 コーニーが過激。いや、いつもの事……か?


「コーニー、潰す為に新聞に流すんだよ」

「……ああ、社会的に抹殺するって事?」

「そう。でないと、いなくなっただけじゃ、お友達やギュンバイ一家が何をしていたか、周知されないじゃない?」


 知らしめるの、大事。




 今回のギュンバイ一家、捕まえた一味はそのまま地下工事現場へご案内。


「今回は、政府の了承得なかったのね」


 船の執務室で、あのばっちい連中に関する書類を整理していたら、リラに言われた。


「この先、ヒーテシェンと付き合っていくのなら、必要だろうね」

「つまり、付き合うつもりはない……と?」

「うん。だって旨味、ある?」


 裏で犯罪者と手を組み、私腹を肥やすタイプの政治家が蔓延る国。しかも美味しい特産品がある訳じゃない。


 ない事もないけれど、うちだったり西のイエルカ大陸にあったり、そっちの方が味がよかったりするんだよねー。それは駄目でしょ。


 事細かに説明したら、リラも納得してくれた。


「それで、次は本当に非合法の娼館を潰すの?」

「その予定。コーニーがやる気になってるからさー」

「あんた的には、やりたいとは思わない?」

「うーん。被害者はいるし、救出くらいならするけれど、組織壊滅しても後から後から似たようなのが出てくるからねー」


 オーゼリアもそう。掃除しても掃除しても、後から後から湧いて出てくる。何なら、元は白かった人達がいつの間にか黒くなってたりするからね。油断出来ないわー。


 それはともかく。今はリラとの話の途中だった。


「違法な娼館を潰すなら、ヒーテシェンの司法がやるべきだ。違う?」

「違わないわね。私達は、ここでは通りすがりの客だもの」


 客は客でも、招かれざる客だけどなー。


「でも、今回は潰すんでしょ?」

「見て見ぬ振りはちょっとね。乗りかかった船だし。それに何より、コーニーがやる気満々だから」

「ああ……それは止められないわね」


 リラでも無理かー。相手、コーニーだもんねー。




 ヒーテシェンの遺跡のうち、一箇所は自走地雷の工場だった。もう三つ程、怪しい箇所があるんだが。


「まずは非合法の娼館を潰さないと!」


 コーニーが息巻いているので、そっちが先かもー。ニエールは、持ち帰った自走地雷の分解その他が楽しいらしく、まだこちらに何も言ってこない。


 確かに、今が攻め時かもなー。


「でも、悪党一味の根城を潰したから、娼館が逃げ出している可能性もあるよ?」

「レラって、あれだけ悪党を捕らえているのに、奴らの行動をまったく読めてないわね」

「えー?」


 コーニーは読めているというのかね?


「ああいった連中はね、手を組んでいた仲間が潰れても『次は自分達だ』なんて思わないものよ。どちらかといったら『へましたな』くらいにしか、思ってないんじゃないかしら? 『自分達なら、もっとうまくやる』とか」

「コーニー……」


 出てくる言葉に唖然としてしまうよ。本当、いつのまにそんな犯罪者心理に詳しくなったの。


 いやこれ、犯罪者心理って言うのか?


「だから、非合法の娼館主達は、いつも通りに商売をしていると思うわよ」

「な、なるほど」


 思わず納得しちゃった。さすがコーニー、色々強い。




 娼館は、基本夜営業だ。まあ、昼間から開けてる店もあるのかもしれないけれど、少ないよね。


 という訳で、今回は昼間に乗り込む。非合法な娼館は、見た目普通の旅館っぽく装っているよ。しかも高級風。


 カストル調べによると、客を選ぶ店らしく、紹介されないと入れない仕組みになっているらしい。


 旅館なのに、一見さんお断りってか? それでよくクレーム来ないなと思ったら、予約客のみ受け入れ、しかも三年先まで予約で一杯、その予約も紹介状がなければ受けないという強気な経営だってさ。


「まあ、裏で娼館やってるんだから、強気にもなるわな」

「なら、その強気をへし折ってしまいましょ」


 今回も、メインで動くのは私とコーニー。ただし、背後には保護者が三人、いるけれど。


 ユーイン、イエル卿の旦那勢に加えて、ヴィル様も参加だ。


「真っ昼間からこんな格好をさせられるとは……」

「兄様、嫌なら来なければよかったでしょ?」

「お前達は目を離すとろくでもない事しかしないからな」

「失礼ね!」


 まったくだ。世の為人の為になる事しかしてないよ!


 本日、昼間から私とコーニーは星空の天使衣装。旦那ズ+ヴィル様も、以前作った衣装で登場だ。


 こんな格好で高級旅館の真ん前にいる。でも、誰にも何も言われない。それも当然、現在、遮光遮音結界で周囲から見えないようにしているからね。


 さて、では建物全体にも結界を張って、誰も逃げ出せないようにしておこうか。声も、届かないよー。




 まずは女性と男性従業員を分ける。女性達は疲れて寝ているところをごめんなさいねー。


 男性従業員は、表向きと裏向きの二種類。表向きは、一応高級旅館に見えるようみなりは調えている。


 裏向きは、見るからに危険そうな筋骨隆々の連中だ。


「あれ、私の獲物ですからね!」


 言うが早いか、コーニーが飛び出して裏向き従業員を殴りつけていく。あ、ヴィル様の溜息が聞こえた。


「レラ、もう建物周辺に結界を張っているんだろう? こっちは不要だ」

「了解でーす。あと、この格好の時はその名前、呼ばないようにしてくださいねー」


 返事がない。溜息だけが返ってきたようだ。そんなに溜息ばかり吐いていると、幸せが逃げちゃいますよ? ヴィル様。


 いきなり姿を現した私達に、旅館の中は大騒動だった。


「何やってる!? どうしてこんな連中が奥まで入り込んでいるんだ!?」

「わ、わかりませ……ぐふ!」

「よそ見するとはいい度胸ねえ? ……死にたいの?」


 コーニーがノリノリである。今日も彼女の手には、燦然と輝くメリケンサックが。


 私は基本、コーニーが殴り倒した連中を眠らせて、魔法で縛り上げる係。


 イエル卿はコーニーの死角から襲いかかろうとしてくる敵を吹き飛ばす係。


 ユーインは私の手伝いで、ヴィル様は寄ってくる敵を剣の鞘ごとぶん殴ってます。手加減していないところを見ると、あれでストレス発散してるんじゃないかな。さすが兄妹。似てるわ。


「てめえら! どこの手の者だ!?」

「星空の天使!」


 腰に手を当て、もう片方の手の人差し指を上に向けて宣言する。相手は一瞬ぽかんとした顔をしたけれど、みるみるうちに真っ赤になっていった。


「ふざけんな!」


 ふざけてなんか、ないのにね。その証拠に、こっちに気を取られていたあのおっさん、コーニーに吹っ飛ばされましたよ。


「お前ら! これを見ろ!」

「ひ!」


 奥から出てきたちょびひげ男が、女性を抱えてナイフを突きつけている。


「これ以上暴れやがると、この女がどうなるか、わかってんだろうな!?」

「た、助けてええええええ!」


 あれー? 捕らえられた女性達は、全員結界で保護しているはずなんだけど?


『あれは店主とその情婦です。下手な芝居ですね』


 なーんだ。なら、二人まとめて眠らせちゃおう。


「食らえ! 催眠光線!」

「うご」

「ふぎ」


 変な声を上げながら、男女は仲良く床に倒れた。悪党なので、ニエールのように魔法で受け止めてあげる事はしない。


 一応、仲間内にはちゃんと説明しておいたよ? 悪い連中だって。


 さて、これで一応ここは終わりかな? ここでも眠らせた連中は地下工事現場へご案内。


 残るは女性達か。まずは面談からかな。

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