第709話 お邪魔しまーす
草木も眠る丑三つ時……とはこちらでは言わないけれど、まあ深夜だね。
私とコーニーは、ヒーテシェンの王都セボンドの一角にいる。
「それにしても、この衣装、意外と動きやすいのよね」
「いいでしょ?」
私達が着用しているのは、星空の天使衣装。目元を隠すマスクもバッチリだ。
コーニーが青髪、私が緑髪。目はマスクで隠れるからと思って、元の色のまま。
二人してツインテで、コーニーはいつもの縦ロール、私は癖強めのふわふわ。
この髪型で、ピンクにしなかったのはリラが嫌がったから。いや、あんたの偽苺時代の髪型、これじゃなかったんでしょうに。
そう言ったのに、「ピンクは嫌だ」の一点張り。仕方ないので緑にした。
髪の色って、割と印象に残りやすいよね。なので、ド派手な色にして、相手の記憶を攪乱するのだ!
悪党一家のアジトは、寝静まっている。
「悪党のくせに、夜は寝るとか。健康的な生活だなあ」
「そりゃあ悪党とはいえ、寝ない生活なんて出来ないでしょうよ」
「いやいや、昼夜逆転とか、三交代制とか、色々あるでしょ」
「そういのは、レラのところだけじゃない?」
失礼だな! うちは悪党一家じゃないよ!
そんな事を言い合いながら、アジトの中を行く。出会った奴らは、全て催眠光線の餌食だ。
ちなみに、現在遮音結界等は張ってませーん。私達の話し声で起きてきても問題ないから。
「それにしても、レラが全て寝かしつけちゃうから、つまらないわ」
「んじゃ、次に出てきた連中は、コーニーにあげるよ」
「ありがとう!」
笑うコーニーは綺麗で可愛いです。
廊下をおしゃべりしながら歩いても中々敵が出てこないから、扉をぶち破って寝ているところを急襲する事にしましたー。
どうせ相手は悪党なんだから、いいて事で。
「せい!」
「ぐふ!」
起きてきてこちらに襲いかかろうとした……というか、不審者を退けようとした、かな?
ともかく、部屋の主が戦闘態勢に入ったので、コーニーが綺麗な正拳突きをお見舞いして倒しましたー。
これ、多分数時間は起き上がれないんじゃない?
「レラ、倒れたのに関しては興味がないから、全部眠らせちゃってもいいわよ」
「あ、そっすか」
あくまで、相手を殴り倒したいだけなのね。
それにしても、正拳突きまで伝わっているとは。オーゼリアって、一体何人の転生者がいたんだろう?
さてさて、アジトも大分奥まで来たんだが、まだ首領……というか、悪党一家の親玉が見つからない。
どこにいるんだ?
『地下にいます』
カストルー。そこで正解を言っちゃだめー。こういうのは、探すのも楽しみの一つなのー。
『……申し訳ございません』
まあいいや。んじゃ、親玉を倒しに行こうか。
アジトをくまなく探したら、奥の部屋に下に下りる階段発見。いやあ、これを見つけるまでに、結構な壁やら棚やらを壊したわー。
だって、秘密の地下室への入り口なんて、絶対隠してるって思うじゃない? なのに、地下への階段は扉すらないオープンなものだったよ……
「悪党の風上にも置けないな!」
「悪党なんだから、風上も風下もないんじゃない?」
前世的な言い回しは、コーニーには通用しませんでしたー。
階段を下りていくと、何やらうめき声が。これって……
「嫌な感じね」
「まったくで」
私達は、移動速度を上げた。
階段を下りきると、石造りの廊下が伸びている。ひんやりした空気が漂っていた。
「! てめえら! 一体どこから入ってきやがった!?」
「えー? 入り口からちゃんと『お邪魔しまーす』って言って入ってきたよー?」
これは本当。頑丈な扉があったけれど、ちゃんと壊さず飛び越えて入ってきたんだー。
ついでに、門から玄関までの間に放し飼いにされていた犬達は、ちゃんと眠らせてある。犬に罪はない。罪があるのは人間だけだ。
地下の廊下にたまたま出てきたらしきこの男が騒いだせいで、廊下に並ぶ扉から次々に男達が飛び出してきた。全員すっぽんぽんってのが、嫌な感じー。
「おかしな格好をしやがって! てめえらも可愛がってやろうか? ああ?」
「ああん? 可愛がるですって?」
おおう、コーニーに特大の怒りマークが見える。
「出来るものならやってもらおうじゃないの。まさか、そんな粗末なもので私を楽しませようっていうんじゃないでしょうねえ?」
煽ってる煽ってるー。ここにイエル卿やヴィル様がいなくてよかったー。
付いてくると騒いだ三人は、催眠光線で眠らせておきました。もちろん、三人目はユーインだよ!
出てくる時はそれでよかったけれど、後が怖いよね。ヴィル様に関してはコーニーに任せた。
コーニーに煽られた男達は、こめかみに青筋を立てている。
「いい度胸じゃねえか……おめえら! やっちまえ!!」
おうふ。すっぽんぽんのむさ苦しい男達が大挙してやってくる。酷い絵面だな。
でも、コーニーは冷静だ。
「は!」
「ぐふ!」
「せい!」
「うご!」
「やあ!」
「ぐぎ!」
あっという間に三人を伸してしまった。お、すっぽんぽん軍団も怯んでいる。
てかコーニーさん、いつの間に手にメリケンサックなんて付けてんの? え……本当、いつの間にそんなもの手に入れたの?
『ご紹介いたしましたところ、大変気に入られまして、主様の名前でお贈りしておきました』
カストルグッジョブ! じゃなくて、いつの間にそんな事を!
あ、しかも今蹴り上げたブーツも、私のとは仕様が違う!
『ネドン伯爵夫人の分は、かかととつま先に金属で強化を入れてあります』
履く凶器! かかとも強化してあるのは、踏みつける時用かと思ったら、まさかのかかと落としに使ってるよ! あれ、空手の技じゃないよね!?
本当に、どうなってんのこの世界の格闘術って。
廊下にひしめき合っていた男達は、大抵転がされる羽目になった。それを見ていた連中は、既に戦意喪失している。
「な、何なんだこいつら!?」
「あ、悪魔だ……」
「魔女だあああああ!」
失礼な連中だな。まあ、魔女ってのはあながち間違ってはいないけれど。
『主様、ヒーテシェンにおける魔女とは、悪魔と契約した女性の事で、魔法を使う女性の事ではありません』
そうなの? まあ、広い意味での魔女って事にしておく。
「魔女だとわかっているのに、随分な態度よねえ?」
「本当よね。さあ、まだやるのかしら? 私はまだ、楽しめてないわよ?」
コーニーが一歩踏み出したら、奥で固まっていたすっぽんぽん軍団の生き残りが、我先にと一番奥の扉に駆け込んでいった。
「お、お頭あああああああ!」
「魔女、魔女があああああ!」
お前らはママに泣きつく子供か!
「何あれ。情けないったら」
「本当だよ」
威勢がよかったのは、最初だけかよ。
奥に行きたいんだけれど、廊下に転がっている男達が邪魔だなあ。
『回収しますか? そのまま、地下工事現場へ放り込みます』
よろしく。お、一挙に綺麗になった。
「これ、レラ?」
いきなり消えた男達に、コーニーがこちらを見て『あなたがやったの?』と確認してくる。
「ううん、カストル」
私じゃないよ、カストルがやったんだよ。お互い、色々と言葉が足りていない気がするけれど、まーいっかー。
綺麗になった廊下を進み、一番奥の部屋に入る。
「うへえ」
思わず、口を突いて出てしまった。だって、広い部屋の中には、巨大な天蓋付き寝台。
その上に、これまらすっぽんぽんの大黒様みたいな見た目の男と、その周囲に先程駆け込んだ男達。
そして、寝台の上の偽大黒の周囲には、これまたすっぽんぽんの女性が三人。
「想像通りなんだけど、嫌だわ」
本当にね。
「な、何だおめえら! ここをギュンバイ一家の根城と知ってて来てんのか!」
「あー、一応?」
「な!」
私の返答が気に入らないらしい偽大黒、ギュンバイ一家とやらの親玉は、顔を真っ赤にしている。
「どうでもいいけれど、その女性達、同意があっての事かしら? もしそうでないなら……」
「そうでないなら、何だってんだ!?」
親玉はまだコーニーに殴られてないし、目の前で殴られる仲間も見ていない。だから、こんな態度を取れるんだろう。
コーニーは、私の隣の位置から一歩前に出た。
「ちょんぎるわよ?」
この一言で、寝台の周囲にいた男達が、全員揃って股間を手で護ったのには、ちょっと笑いそうになっちゃった。
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