第708話 これもテンプレ

 合流したニエールは、ほくほくの笑顔だ。隣のロティの疲れた様子と比べると、落差が凄い。


「あ、レラー! 見て見て! こんなに集めたよー!」

「ははは」


 ニエールの足元には、山盛りの自走地雷。あれ、全部爆発するなんて事、ないよね?


『起爆スイッチは最後に取り付けるものだったようです。あれらは地雷の一歩手前の品ですね』


 よかった。


 とはいえ、持ち帰って全部地雷だってわかったら、ニエールががっかりするかもね。


 彼女は魔法が大好きだけれど、苦手とする術式もある。それが攻撃に使うものだ。


 人を傷つけるのが嫌い……とかではなく、単純に「面白くない」んだとか。どうせ作るなら、もっと面白い事に使う。それがニエールの信条だ。


 ニエールが好きなのは、まだ自分が知らない術式。そして、自分が作り出す新しい術式。


 自走地雷も、彼女が作り出す新しい術式の糧になるといいね。


 それはそれとして、持ち帰った地雷を実験するつもりなら、安全にはしっかり配慮するように。


 しなかったら……わかっているよね?




 最初の遺跡からヤベーもんが出てきた訳ですが、他の二箇所も似たようなものなのかねえ?


 夜も遅いから、船に戻って休む事に。明日の朝、警備担当者が寝ているところを見つかって、上の人間から叱られるだろうけど考えない。


 私は部屋に戻る前、少し飲み物をもらおうとラウンジに来た。背後にはカストル。


「とりあえず、あの地下工場は完全に消したいんだけど。出来る?」

「造作もございません」


 どんな手段を使うかは知らないけれど、あの工場は後世に残すべきものではないと思うんだ。


 もしそういった兵器が必要になったのなら、自力で開発したまえ。




 翌日、持ち帰ったあれこれを調べるのにニエールが夢中になっているので、遺跡探索はお休み。


 私達だけで行ったと知ったら、後でうるさいから。


「なら、ヒーテシェンの街を少し歩いてみましょうよ」


 買い物をしたいコーニーの発案で、六人一緒に外出する事に。


 まずはヒーテシェンの王都へ。


「おお、そこそこ大きい」


 街の大きさとしては、ユントリードの王都の方が大きかったら、こちらは街並みが複雑だ。


 おそらく、古い街を再開発しつつ利用しているのだろう。そう考えると、王都が手狭なのも頷ける。


「こうしてみると、ユントリードの王都って整頓された街だったねえ」


 ヒーテシェンの王都を眺めながら呟いたら、リラから返答が来た。


「あっち、五十年くらい前に一から街を作り直したんですって」

「そうなの?」


 知らなかった。ああ、だから綺麗な街並みだったんだね。それに、都市計画に沿って作られていたのなら、整理されていると感じたのは間違いじゃないんだ。


 そういや、アンドン陛下も新しく作る街の参考にするような事、言ってたっけね。




 古い街並みを改築して使っているせいか、狭い路地がいくつもあるようだ。これは楽しい。


「路地探索楽しー」


 こういうのは大好きー。でも、コーニー的には面白くないらしい。


「店はないじゃない」

「いいんだよ。店以外に面白いものがあるかもしれないんだし」


 ただ、裏路地のような場所って、それなり治安が悪いところもある。目の前から、柄と頭の悪そうな男達が六人、固まってやってきた。


 ちなみに、私達の髪色や瞳の色は元に戻している。いや、ユントリードでは西大陸で使った髪色だったから。


 ヒーテシェンの諜報員がユントリードに入り込んでいるのは確実だし、そこで私達の事を見られていないとも限らない。念には念を入れたのだ。


 今回の街歩き、当然ながらユーイン達は帯剣していない。


「おー? なかなか美人がこんな裏に来るなんてよー」

「後ろの男共はいらねーや。とっとと帰んな」

「女達は、これから楽しー事しよーなー?」


 テンプレって、大陸が変わっても存在するんだ。


 とっとと眠らせてしまおうかと思ったら、コーニーが一歩前に出る。


「あら、楽しませてくれるの? いいじゃない」


 あああああ。コーニーがやる気だ。相手の男達はわかっていないから、口笛吹いてはしゃいでいる。


「いいねえ! そうこなくっちゃ!」

「んじゃ、ゆっくり出来るとこへ行こうかー」

「もちろん、俺等全員でお相手してやるよ」

「へえ、そう」


 男達の言葉に、コーニがゆっくりと彼等に近づく。今日は、彼女も剣は持っていないはず。


 でも、私と違って体術も使えるし、何よりコーニーは魔法も得意なんだ。しかも、攻撃系が。


 火炎系も使いこなすし、水系もいける。土は……周囲の石壁や足元の石畳を変形させるかも。


『この場を復旧させられるよう、データを取っておきます』


 そんな事出来るんだ? ありがとう、よろしくカストル。


「ねえ、あれ、止めなくていいの?」


 動かない私達に、リラが不安そうに聞いてくる。


「コーニーなら、止めても無駄だよ。逆に、こっちが敵と見なされちゃう」


 大体、旦那のイエル卿自身、動いてないじゃん。そういう事だよ。




 決着は、あっという間に付いた。


「な……なななな」

「大した事ないわねえ。ちょっと、どこをどうすれば、私が楽しめるのよ。もう少し鍛えてから出直してらっしゃい」


 路地に転がる男達。半数は顔面が潰されて血が出ているし、もう半分は肩や膝がおかしな方向へ曲がっている。


 腰を抜かした状態で後ずさっているのは、早々に顔面に一発くらった男だな。


「お、俺等を誰だと思ってやがる! このセボンドでも知らねえ者はいねえギュンバイ一家だぞ!?」

「なあに? それ。もしかして、悪い連中? だったら、手加減はいらなかったわね」

「ひいいいいいい!」


 腰が抜けていたにも関わらず、男は這うように路地の奥へと逃げていった。


 残されたのは、倒れている五人の男と私達だけ。


「この連中、このまま放置していていいのかしら?」


 振り返って聞いてくるコーニーは綺麗です。奴らを殴る時にも、きちんと結界を張ってからやったから、返り血とかで汚れる事がない。


「いいんじゃない? そのうち、何とか一家ってのが拾いに来るでしょ」

「そうよね。でも……あの連中、また来ると思う?」


 コーニー、目がぎらついてますよ。


「来る前に、こっちから押しかけるのも手だよ?」

「そうね……それもいいかも」

「お前達、いい加減にしろ。ここはオーゼリアじゃないんだぞ」


 コーニーと二人で悪巧みをしていたら、ヴィル様に叱られました。ちぇー。


「でもさあ、コーニーじゃないけれど、ああいう連中ってメンツが大事じゃない? 俺等の事探して、報復行動に出るんじゃないかなー?」


 イエル卿、わかってるう。でも、ヴィル様はあくまで動く事をよしとしないらしい。


「なら、しばらく船から出なければいい」

「なら、兄様はそうしていればいいわ。レラ、私達だけでいきましょうか」

「おー」

「おい!」


 ヴィル様、コーニーの性格はよくわかっているでしょうに。こういう時は、下手に止めるよりも一緒に行動して、その場で最小限の被害になるよう、誘導するのがベストですよ。




 その後も兄妹で言い合っていたけれど、コーニーが勝った。


「相手は犯罪者集団じゃない! だったら、叩きのめすのはこの国の人々の為でもあるわ! それに、そういう連中が上の者達と繋がっているかもしれないじゃない。泣き寝入りを強要されている人達もいるかもしれないでしょ? そんな人達を、放っておくっていうの!?」


 ヴィル様、何も言い返せず。


 ところで、あの何とか一家、本当に政治家辺りとつるんでるとか、ないよね?


『現在進行形で調べていますが、ちょうど先程、ヒーテシェンの議員の秘書が、ギュンバイ一家の拠点に入っていったようです。表向きは雑貨商を営んでいるようですね。ですが、品は雑貨ではなく、武器と人です』


 また人身売買かよー。それに加えて武器密売? ろくでもないな!

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