第707話 地下工場で見たものは
カストルの移動魔法で、地下工場へ。到着してすぐ、カストルが照明の魔法で辺りを照らした。
「埃はあるけれど、前の工場のような荒れたところはないね」
完全密閉の結界なので、本来なら音声が通らないんだけれど、そこはカストルとヘレネが力を合わせた。
強制換気する為の経路を使い、空気の振動そのものを全員の結界に送り込んでいるんだ。
そして、今回の結界は体にフィットするように設計されている。
私の隣では、ニエールが飛び上がって喜んでいた。
「レラ! 早く先に進もうよ」
「あー、はいはい」
やっぱりおとなしくなんて出来なかったな。
最初に移動した場所は、工場のエントランスだったらしい。そこから進むと、事務室、資料室などを経て、組み立てのラインがある部屋へ出た。
「随分と広いのね……」
三階層吹き抜けの巨大空間を見上げて、リラが呟く。確かにね。これは大きい。
工場には、作りかけの魔道具らしきものも残っている。ここ、どういう理由で放棄されたんだろう。
戦争していた場所からは、それなりに距離があるはずなのに。ユントリードで見つけた遺跡のように、全員毒殺されていたならこの状況はまだわかるんだけれど。
「あ、なにこれ面白い! こっちも! ねえねえ、完成品はないのかな? あと、ここの部品、持ち帰りたい!」
ニエールはやっぱりニエールだ。
「この魔道具、何に使うものかわかる?」
「んー……回路自体はそんなに変わっていないみたいだから、しっかり調べればわかるかも」
「そう。なら、調査用に持って帰っていいよ」
「やったー! ロティ、あっちからこっちまで全部持って帰るよ!」
「わかりました」
「工場空っぽにする気か!」
いくらもう使う人がいない場所だからって、やり過ぎんな!
巨大空間にニエールとロティを残し、私達は更に奥へと向かう。
「ここはただの製造工場?」
「奥に、研究施設がありました」
研究施設……ねえ。ろくでもないものでないといいんだけど。
カストルが事前調査をしているから、ヤバいものはないと信じておこう。
工場は、エントランス側から見て、手前が工場、奥が研究施設で完全に分けられていた。
しかも、研究所の入り口には、それなりのセキュリティ。
「ここ、最初から地下だったんだよね?」
「そうですね。ですが、こういった場所には企業スパイも潜り込むものですし」
おうふ。そういう事か。じゃあ、このセキュリティは外部の人間を弾くと共に、内部のスパイを弾く為のものって訳ね。
魔法によるセキュリティは、カストルが簡単に解除してくれた。
「壊してもいいのですが、崩落をされても困りますし」
そーですね。
解錠された扉の向こうには、長い廊下。カストル曰く、ここにはトラップが仕掛けれていたという。
「待って。ここって、研究施設なんだよね?」
何でトラップ? しかも、致死率高いとかどうなってんの?
「ここは、民間の工場ではなく、軍の工場のようです」
あー、それでか。
どうやら、工場の方で作っていたのは兵器で、奥の研究所で研究されていたのも兵器。
工場で作っているものを、より効率良くする為の研究だそうな。
「慌てて放棄された様子から、軍の秘密工場だった可能性が高いですね。おそらく、終戦の後その存在が知られて、軍と関わりがある証拠のみ持ち出したか廃棄して、工場そのものは捨てたのでしょう」
見てきたように語るなあ。とはいえ、こっちが戦争していた頃、もうカストルは存在してんだっけ?
ともかく、この工場よりはカストルの方が長生きのはず。
それにしても、地下……ね。
「……魔の森の中央も、地下研究所だったな」
思い出したように、ユーインが呟く。そうなんだよね。あそこも、地下だった。
「地下利用を思いついたのは、前の主達ですから当然かと」
「そうなの!?」
「その利用料などで一財産築き、デワドラ大陸に移り住んだのですよ」
なるほど……地下利用の権利で金儲けして、奴隷を買い込み未開の土地だったデワドラ大陸に移住した……と。
もっとも、ご先祖様とそのお友達が移住した頃は、まだ今の形じゃなかったっていうけどねー。
ご先祖様達が、色々と手を入れたんだってさ。本当、うちのご先祖様ってどんだけよ。
トラップが仕込まれていた廊下は、今では沈黙を保っている。先回りしたカストルが、トラップそのものを全て破壊したそうだ。
殺す気満々の罠なんて、危なっかしいもんな。
侵入者を阻む為の長い廊下を抜けると、今度は広い広い空間に出る。こちらは二層吹き抜けだ。
地下なのに窓があるのは、魔の森中央の研究所のように、窓に外の景色を投影していたからかな。
研究所なら、機密保持の為にも人の出入りは少ない方がいいだろう。もしかしたら、研究者達はここに入ったらしばらく外には出られなかったんじゃなかろうか。
吹き抜けのここは、ラウンジのようにくつろげる空間のように思える。今は見る影もないけど。
「研究室は奥です」
カストルの案内で、先に進む。
吹き抜けのラウンジらしき場所から奥へと向かう廊下は一本のみで、しばらく進むと両脇に扉が現れた。
ここが、研究室?
「両脇の扉に向こうに、研究室があります。数は全部で六。それぞれ、違ったやり方で同じ魔道具を改良しようとしていたようですね」
「そんなに? 別々の魔道具じゃなくて?」
「よほど、工場にあった魔道具に執着していたようです」
確かにね。普通は、改良といってもこんなに分けないんじゃないのかな。
少なくとも、ペイロンの研究所ではやらない。作った人間が更なる改良を求めて研究する事はあっても、並行して六つも同じものを研究する事はないから。
もっとも、あそこの連中って基本自分の研究にしか興味ないんだよねー。その点、ニエールは人の研究でも面白そうなら首を突っ込む。
魔法に関して、ニエールに手を出してはならないものって存在しないのかも。
六つの研究室も覗いてみたけれど、あまり成果はなかった。ただ、あの魔道具の使い方はわかったけれど。
あれ、移動型の地雷だ。単体で敵の中に突っ込み、自爆する。攻撃されても自爆するし、時間でも自爆するらしい。
火薬は積んでいない。爆発術式を採用しているらしい。ローコストでより多くの敵を殺す為に作り出された兵器。
「主様、少し」
研究室を手分けして探っている時に、カストルに呼ばれた。部屋の端で話を聞く。
「ここの工場にあったものとほぼ同じ品が、発掘品としてヒーテシェンの研究所にあります」
「げ」
この自走地雷、素材に魔力を貯め込む性質があるものを使っていて、その魔力で移動、爆発させるらしい。
研究所が発掘したものは、爆発しなかった品。つまり、不発弾のようなもの。何かのエラーで、本来の動作をしなかったものだ。
とはいえ、何かの拍子で爆発する危険性がある。カストルによれば、素材に充填されている魔力は、爆発するのに十分だそうだ。
「いかがなさいますか?」
「うーん……研究している連中って、魔法回路の事は知らないんだよね?」
「ええ。ただの模様だと思っているようです」
おうふ。そうだとしたら、永遠に謎は解けないんじゃないかなあ。
……よし。
「カストル、不発弾に手を加える事は出来る?」
「出来ますが、何をなさるおつもりで?」
「爆発術式を書き換えてほしいの」
要は、何かの拍子で爆発したり、兵器として使えると思われなければいいのだ。
爆発術式を書き換え、素材に溜め込んだ魔力を使い切る形で、その場で光るだけの物体に変えてしまおう。
「出来る?」
「お任せを。工場の方の品は、どうしますか?」
「あっちはニエールが確保しているから、問題ないでしょう。爆発させるにも、結界で覆うくらいはするだろうし」
もしやらなかったら、きっついお仕置きをくれてやるだけです。
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