第706話 お邪魔しまーす

 ガルノバンを無事出立し、一路オーゼリア……ではなく東、カイルナ大陸に戻る。


「途中、ショートカットするとは……」


 行きにしっかり航路を航海したのは、アンドン陛下達の手前と、海賊殲滅の為だったってさ。殲滅って。


 ヘレネが主にやった事とはいえ、裏にはカストルがいる。どうやら、そろそろ労働力の入れ替えを狙っていたらしい。


 新しい人材を入れて、古い人材は……どうするのかは、聞かない。嫌な事を耳にしそうだから。おー、怖い怖い。




 船ごとカイルナ大陸付近に手に入れた島へと移動魔法を使う。ヴィル様とイエル卿が渋い顔をしていたけれど、お小言はなかった。


 まあ、移動陣がある以上、こういう使い方もあるよねって話だ。


 とはいえ、何も言わないという事もなかった。


「レラ……船ごと移動出来るというのは、決して陛下に知られる事がないようにな」

「もちろんですよ。いくら国王陛下でも、便利に使われては困ります」

「ならいい……」


 当然じゃないですか。嫌ですねえ、ヴィル様ったら。




 二度目のカイルナ大陸行き。今回は、ヒーテシェンを中心に遺跡を回る。


「この遺跡巡りは非公式です」


 一応、参加者の八人全員に、前もって説明しておく。場所は船のラウンジだ。


「許可を受けないという事か?」


 ヴィル様からの質問が飛んできた。まあ、そうなるよね。


「その通りです。許可を得ていたら、こちらが知りたい事を隠される可能性もありますし」

「そういう事か」


 そういう事です。


 今回の遺跡では、確実に魔道具を見つけ出す必要がある。それも、今でも使えるものを。


 どういう動作をするかまではわからないけれど、おそらく、兵器として使えるものではないか。


 そうでなければ、非合法な手を使ってまで、魔力持ちを集める必要はないんじゃないか。


 といっても、こちらの大陸でも、もう魔力持ちはあまりいないそうだけど。ランザさん達の一派が、最後の魔力持ちかもしれないそうだ。


 もしかしたら、この世界そのものから、魔力や魔法といった存在が消えていくのかもしれないね。ニエールには絶対に言わないけれど。


 あいつに言ったら、うちのご先祖様が使った隷属魔法を復活させるとか、やりかねない。


 既に解除魔法はあるからいいけれど、改変されて解除魔法が効かないとかになったら大変だ。


 ニエールなら、それくらいやりかねない。もう、悪い方での信頼は山程あるからなー、あいつ。


「ともかく、ヒーテシェンに入ったら目立たず、こっそり遺跡に入って調べたいと思います。もちろん、既に発掘されたものも」


 今現在、発掘品としてどこかにある品も、探して調べておかないといけない。


 まかり間違って兵器使用が出来て、しかも魔力持ちがいらなかったら。こっちの大陸でまた戦争が起こるかもしれないし。


 それだけなら、こちらが口を出す必要はないかもしれないけれど、デワドラ大陸まで飛び火したら厄介だもん。


 まあ、こっちに攻め入ってきたら容赦なく叩き潰しますが。




 ヒーテシェン国内の遺跡に関しては、カストルに頼んで事前調査済み。もちろん、発掘品も。


 うちの各種ドローンがいい仕事をしてくれた。


 報告は全員で聞く事にしたので、またしてもラウンジに集合している。


「発掘品で、いくつか危険性の高いものがあります。ですが、そちらは現在、研究中のようですね」

「研究?」


 どういう事? 私の疑問に、カストルがゆっくりと頷いた。


「どうやら、使えない状態なので、何とかして使えるようにする、のが目的のようですよ」

「へー」

「その発掘品、見られない!?」


 食いついたのは、やはりニエール。興奮しすぎて鼻息が荒いよ。


 そんな彼女に、カストルがばっさり。


「侵入すれば見られますが……ニエール様は無理かと」

「えええええええ?」

「声を上げず、静かに行動。出来ますか?」

「無理」


 そういうところだよ!


「現在発掘済みの品に関しても、こちらで調査は続けておきます。危険性が高いものに関しては、廃棄その他をしておくべきかと」

「捨てるくらいなら盗んじゃえ! んで私にください!」

「ニーエル、この場でおとなしくしていられないなら、どこかの島に放り込むよ?」

「わかった。黙ってる」


 船の部屋でないのは、鍵くらい簡単に開けて外に出てしまうから。さすがに単独でこの船に魔法で移動は出来ないからね。


 移動陣を使えば楽勝だけど、私やカストルがいる以上、ニエールが隠して陣を敷いていても確実に見つけて処分するから。




 ヒーテシェン国内にある遺跡は、わかっているだけで八十箇所以上。それら全てに事前調査の手を入れている。


「問題は、見つかっていない遺跡ですね」

「探すのが大変なの?」


 リラの質問に、カストルは大きく頷いた。


「遺跡の多くは地中に埋まっています。それを探すとなると、派遣するドローンが大きくなりすぎるんです」


 地中に何があるか、調べる術式はある。でも、それを広範囲に調べようとすると、どうしても小さいものでちまちまやるのは効率的ではない。


 カストルの悩みは、その辺りにあるらしい。


 あれ? 何かそんなのを調べる方法、あったはず。……あ。


「グリッド調査だ」

「主様、詳しく教えてください」

「ええと」


 確か、調べる場所に仮想の方眼を掛ける方法だっけ。詳しいやり方は知らないんだけど。


 困っていたら、リラが助け船を出してくれた。


「遺跡って、小さくないわよね? なら一辺三から五メートル四方の方眼を仮想で掛けて、四角の一箇所のみ調べればいいでしょう。何か出てきたグリッドだけ、精査すれば手間は省けるわ」


 あ、そうそう、そんな感じ。


 カストルも納得したようだ。


「なるほど、そのような手法が。それでしたら、空中からヒーテシェン全土を調査してみましょう。もしかしたら、未発見の遺跡が見つかるかもしれません」


 正直、ヤベーもんが見つからない事を祈ってるよ。


「見つかったら、ぜひ入りたい!!」


 ニエール、ブレないなあ。




 未発見の遺跡はともかく、現在発掘中もしくは発掘済みの遺跡に関して、潜り込めるよう色々と調べてもらう。


 やはり、夜間の方が警備が手薄になるようだ。


「遺跡から出てくるのは、考古学的には価値があっても、金銭的な価値には繋がらないと、周辺の人間が知ってるからでしょうね」


 リラがぼやく、つまり、日中は一応警備しておくけれど、こんな遺跡に泥棒が入るとも思えないしーってところか。


 泥棒じゃないけれど、侵入しようとしている人間はいるけれどねー。


 カストルはこれまでの経験から、発掘済みであっても更なる地下遺跡がある場合を考え、ありとあらゆる方法で調べている。


 その中で、引っかかった遺跡が今のところ三箇所。これ以上増えるのか、それともここだけで終わるのか。


 ともかく、三箇所の遺跡は行ってみよう。




 夜更けの遺跡は、真っ暗だ。


「まあ、すぐそこに住宅街があるしねー」


 下手にライトとか付けてたら、苦情が来るんだろう。


 ちなみに、暗い中警備していた警備員達は、眠らせて脇に転がしている。ちゃんと体の下にマットを敷いておいたから、明日体が痛くなる事はないと思うよ。


 まず遺跡の入り口全体に遮光結界を張り、遺跡そのものを魔法で照らす。


「へー、こうなってるんだー」


 入り口を確かめていたら、気の急いたニエールが飛び込んでいった。


「お、お待ちくださいニエール様!」


 うん、ごめんねロティ。そいつの手綱は任せた。


 掘り進んだ穴に掛けられた、鉄製の階段を下りる。下りた先は、掘り尽くされたような場所。


 こんなの、ユントリードでもよく見たね。


「この下に、魔道具の生産工場があります」


 なるほど。今回も下か。


 ロティがニエールを押さえている間に、カストルが簡易型の移動陣を敷く。


 既に下の工場には、移動陣が敷かれているらしい。カストルが行ったの?


「はい。先に向かいまして、色々と探っておきました。それと、主様。あちらは長く封じられていた場所です。結界をお忘れなく」


 おっと、そうだった。カストルが調べているので、毒やウイルスの類いはないはずなんだけど、何があるかわからない。


 完全密封型の結界を張り、万一に備える。これ、腕輪型で全員に装着してもらっている。


 こっそりカストルの移動魔法を応用して、船と一部で繋げて強制換気をするから、完全密閉でも窒息しない優れものなのだ。


 さて、地下の工場の魔道具とは、どんなものなのやら。

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