第703話 お出迎えー

 ちょっとガルノバン王都行きの列車の中で、アンドン陛下にお説教。


「あれだけ車を作っているのに、道路整備が追いついていないとか、あり得ませんよ!」

「いや、俺もやりたかったんだよ? でも、貴族の連中が反対してさあ」

「そこをねじ伏せてこそのアンドン陛下でしょう!?」

「えええええ? 俺、独裁者扱い?」


 だって、車は自分が欲しいからって推し進めたんでしょうが。港のガントリークレーンだって、そうだよね?


 突っ込んだら目線を逸らしたので、自覚ありだな。


「ともかく! ガルノバン国内の道路事情が悪いのであれば、新規ツアー先も考え直さないといけません」

「ちょちょちょ! それはないだろ!? 観光客が多くなれば、国が潤うのに」


 何言ってんだ。


「魅力的な観光地があっても、駅からのアクセスが悪かったらどうにもならないでしょうが」

「う……」


 反論しないって事は、アンドン陛下もわかってるんでしょうに。多分、反対派の貴族を説き伏せるのが面倒とか思ってるな?


 まあ、面倒だよね。うちは……そういえば、鉄道を領地内に引き入れたくない人のところは、放置してるか。


 鉄道網さえ出来てしまえば、ハブられて困るのは向こうだからねー。


「ともかく、新規ツアーを開拓するには、まず道路事情を改善してください」

「おおう……うち、そっちと違って全部人間がやるんだぞー?」

「その分、大型重機がありますよね? 頑張ってください」


 誤魔化しはきかないっての。


「何でしたら、我が家で工事を請け負いますよー?」

「本当か!?」

「ただし、高くつきますが」

「だよなー……」


 当たり前です。ただ働きなんて、絶対にやらないからね。




 ガルノバン国内の道路改善の仕事を、デュバルに発注するかどうかは、決断を先延ばしにされた。


 まあいいですよ。しっかり悩んで考えてから結論を出してください。うちからガルノバンに攻め入る事は多分ないとは思うけれど、国同士の関係って絶対はないから。


 まあ、本当にやる事になっても、何かを仕掛けたりとかはしないけどー。面倒な事はやらない主義だ。


 鉄道は高架線にしてあるので、見晴らしがいい。


「いっそ高速道路でも作ればいいんじゃないですかねえ?」

「もうわかったから」


 アンドン陛下が情けない声を出している。こんな情けない姿を見せて、姪っ子に呆れられるんじゃないかねえ。


 王女殿下は、こちらに意識を向けていないみたいだけど。窓から見える景色が楽しいようで、コーニーと二人でキャッキャとはしゃいでいる。ぐぬ。


「コーニーを取られた気分……」

「いや、それ俺が言うべき言葉なんですけど?」


 あれ? いたの? イエル卿。


「コーニーが楽しそうだから、文句は言わないけどさあ」


 苦笑しつつ言う姿に、コーニーはこういうところに惚れたんだろうなと思う。相手を尊重するって、言うのは簡単だけど、実践するとなると難しいよね。




 線路は王都のすぐ側まで延びていて、駅もそこにある。駅名に王都は入っていても、実際にはすぐ側にあるってだけ。


「さて、ここからは車ですかねえ?」

「だな。船から連絡を入れておいたから、迎えが来てるはず」


 ほう、迎えとな。


 駅から出ると、そこにはずらりと並ぶ黒塗りの車。と、満面の笑みの正妃様と、宰相様。


「あれ? な、なんでかみさんと宰相が……」

「お帰りないませ、皆様。お帰りをお待ちしておりました」


 うん、正妃様、笑顔なんだけど目が笑ってない。宰相様も。


 さすがに地位のある人達だから、ここで今すぐ何かをする訳じゃない。でも、これはアンドン陛下も逃げられないわ。


 現に、青い顔で正妃様と対峙してる。


「え、ええと、か、かみさん?」

「まあ陛下。どうかなさいまして? そんなに汗をおかきになって。暑かったかしら?」

「いや、その、な?」

「あらあら、こんなところで立ち話だなんて。お疲れでしょう? さ、車へ。陛下が揃えようとなさっていた車種でしてよ」

「あ、はい」


 うはー。見てるこっちが怖いわー。


「ああ、ゾーセノット伯爵夫人、感謝しますわ。色々と、本当に、助かっております」

「恐れ入ります」

「夫人には、後で色々と……ね。さあ、では王宮へ帰りましょう」


 リラ、この惨状、あんたの仕業か?




 私達が一人一台に乗ってもまだ余る台数の車で、一路王都へ。いやあ、高級車の列って、ガルノバン国民から見ても異様なものなんだね。


 道行く人が何事? と見ていくよ。窓ガラスがスモーク状態でよかった。


「で? 実際のところ、何やったの?」


 私が乗っている車には、当然のようにリラも一緒。ユーインとヴィル様もいるけれど、二人は口を開かない。


 私の質問に、目の前の席に座るリラはしれっと答えた。


「何って、通信を使って今日ガルノバンに到着する事を伝えただけよ? 正妃様に、直接。ああ、分室から携帯通信機を買ったのは、正妃様ご自身の予算からですって」

「いつの間に……」

「アンドン陛下が、何度か無断でオーゼリアに来た事があるでしょ? 国として送り返す際に、王妃様にお願いして正妃様に手紙を書いていただいたの。その中に、携帯通信機の販売と、私が持つ端末の番号を書いたメモを紛れ込ませてもらったの」


 うわー。私も知らなかったよ。本当、いつの間に?


「国を空ける事に関しては、私は何も言わないわよ? ちゃんと許可を得ていれば……ね。でも、度々お忍びで来られては、こっちがたまらないわ。あの人、自分の立場を何だと思ってるのかしら」


 おっと、最後の方は人に聞かせられないわ。慌てて周辺に遮音結界を張っておく。


「今回の事は、携帯で正妃様と直接やり取りしていたって事?」

「そう。カイルナ大陸に向かった頃からね」


 そこからなんだ。これは正妃様が怖いと言うべきか、リラが怖いと言うべきか。両方かな。




 何とも言えない空気のまま、車は王宮へと入っていった。車だと、駅からあっという間だなー。


 いっそ駅の前をロータリーにして、王都の各所までバスか路面電車でも走らせればいいんじゃね?


 ガルノバンの道路って、幅だけは広めに取ってあるから。


「また、悪い事を考えてるわね?」

「え!? いや、そんな事は」

「あんたはわかりやすいんだから、嘘を吐くのはやめておいた方がいいわよ」


 そ……そんなにわかりやすいかな。


 王宮で車を降り、案内されるまま客間へ。時間はまだ午前の早い時間。港に到着したのが、朝食を終えた頃になるよう計算したからね。


 面倒な謁見等はなく、国王夫妻の私的な客扱いだという。それは助かる。


 少し休んでから、正妃さまからはぜひ一緒にお茶をと招かれた。招待されたのは女性だけで、リラ、コーニー、王女殿下、そして私。


 ニエールとロティに関しては、船から下りてすらいない。


 船から降ろした荷物の中には、一式使えるだけのドレスやら何やらがあるので、茶会だろうが昼食会だろうがどんとこいだ。

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