第700話 食らえ!

 遺跡を探索して楽しもうと思っていたのに、不正は見つかるわ虐待児は見つかるわ人身売買もどきは見つかるわ。もうお腹いっぱい。


 ついでに将来有望な人材含め、普通に働ける人員が手に入ったのは、いいんだか悪いんだか。


「いいに決まってるじゃない。地上で働く人も、うちでは不足気味なんだから」


 船の執務室で愚痴をこぼしたら、リラに肯定? された。そうか、いいのか。


 こちらの大陸出身の人達は、言語を学ぶところから始まる、とはいえ、魔法で強制的に言語能力を植え付けてしまうのだが。


 これは、私達が西や東に行く際に使った手口。いやあ、魔法って凄いね。




 トラブルは細々あったけれど、やっと面白そうな遺跡が見つかったらしい。


「ベクルーザ商会の前身が発掘していた遺跡なのですが」

「あいつらか……」


 船の執務室でカストルから報告を受けているのだけれど、嫌な名前が出て来た。


 前身に当たる研究会は、まともな遺跡に関する研究者の集まりだったみたいだけど、その一部が暴走して結果あの商会が出来たという。


 どこをどうすればそんな暴走をする事になるのやら。


「遺跡の場所は、ユントリードの首都カマムヴァンから北西に行ったところです。山脈に近いですね」

「ええ、あの砂漠とこちらを隔ててる」

「はい」


 あの山脈も、その昔の大戦時に魔法で作ったっていうんだから凄い。まあ、デワドラ大陸にも、ご先祖様達が作った山脈があるけどさ。


「すぐに向かわれますか?」

「んー……三日後の朝、出発で。ここからどれくらい掛かる?」

「車でしたら、七時間といったところでしょうか」

「結構掛かるね……」


 それだと、うちの馬車でも倍以上掛かるんじゃないか?


「道が悪いのと、かなり大回りするルートしかないのが原因ですね」

「そっかー」


 いっそ空を行く手段があれば……でも、魔の森の中央に行った時のアレは、五人乗りだしなー。


 多分世界初の飛行機は、飛んでる時間が短いものの、いつか使うかもと思って手元に残している。


 資料は研究所に。なので、あそこの連中ならもう一回同じものが作れるんだけれど、そこは研究者の性、同じものを何度も作るのは苦痛らしい。


 じゃあ売ってる商品は誰が作っているのかと言えば、提携している魔導具師が何人もいて、彼等が作っているんだってさ。


 ただ、移動陣とか強力な魔力封じとか、特殊なものは研究員が扱っている。その辺りは住み分けなのかもね。




 出発日の前日、昼食の時間に船内放送で面白そうな遺跡が見つかった事を伝える。


『出発は明日の早朝五時です。参加希望者は、時間までに船のエントランスへ集まってください』


 支度は必要ないよー。必要なものはこっちで用意するからね。


 後、夜はちゃんと寝てください。早寝してもらう為に、夕食もバラバラに取るようにするから。


 遠くでニエールが歓声を上げたような気がするけれど、気にしない。就寝時間はロティに任せた。


 明日寝不足の目で出て来たら、移動中は全て睡眠に当てさせるからな。




 早めに寝て翌朝四時に起き、軽い食事と身支度を終える。もちろん、ユーインも行くそうだ。


 服は遺跡に入ってもいいように、ペイロンで愛用しているツナギ。これ、汚れにも強いし少々の事では破けたりほつれたりしない優れものだから。


 今回、遺跡に入る人には全員分用意するようカストルに言っておいたので、集合時間の五時には、全員ツナギで登場だ。


「やっぱり皆、行くんだね」

「当然でしょ。見張っていないと、あんたがまた何をしでかすか」


 ちょっとリラ、酷くない? コーニーも、イエル卿と笑ってないで何とか言ってよ!


「ベクルーザ商会発祥の遺跡と聞いては、見過ごす訳にいかないからな」


 ヴィル様はまた、固い考えで。


 ユーインとイエル卿はある意味同じ理由。奥さんと一緒にいたいから。


「やっと行けるのね! もう、今から興奮が押さえられないわ!!」

「落ち着いてください、ニエール様。遺跡は逃げません」


 ありがとう、ロティ。君の存在にとても救われているよ。主に私が。


「まさか、この年でツナギを着る事になるとは思わなかったぜ」


 何故かノリノリのアンドン陛下の隣で、困惑顔の王女殿下。ツナギなんて著るのは初めてだろうから、その思いは理解出来るよ。でも慣れて。


 船を下りて、馬車に乗り込む。こっちで車を出す訳にもいかないので、途中で野営を入れる事を視野に入れての行動だ。


 とはいえ、テントは見せかけ。イエルカ大陸で使った手を、ここでも使うつもり。


 つまり、移動陣で船に戻ってくるやつだ。あ、どうせ移動するなら、どこへ行ってもいいのか。


 なら、グラナダ島や、他の島の別荘でもいいかも。フロトマーロの街だと人目があるから、ちょっとやめておこうか。オーゼリアにも近いし。




 魔法を使った道の簡易舗装と、馬車そのものの性能、それに疲れを知らない人形馬に引かせても、遺跡到着まで二日掛かった。


 まあ、途中物見遊山とばかりにあちこち寄り道したのが原因かもしれないけれど。


 おかげで、未発見の遺跡を三つほど見つけてしまったよ。ただ、全部工場系だったから、ニエールが関心を示さなかった。そこだけは救いかな。


 最初に見つけたおもちゃ工場や、後で見つけた三つの手つかずの遺跡のおかげで、いくつか実用的な魔道具を作れそう。


 まずコピー機。しかも高機能なやつ。単純に複写するだけでなく、反転も分割も出来るし、何よりデカいのでソート機能がある。書類整理には喜ばれるかも。


 今まで書類は手書き、その後はタイプライターを使っての量産をしていただけだからね。


 次に地味だけど面倒なシュレッダー。重要書類は今まで暖炉で燃やしていたんだけど、これで裁断してしまえば、再利用も可能になる。


 オーゼリアには既に植物紙があるんだけど、再使用はまだ広まってないんだよね。


 国中に広まれとは思わないけれど、せめてうちの領だけでも再生紙を作れるようにしたい。魔法技術は使っても、工場で出来るようにしたいな。


 で、コピー機があるのだから、印刷技術があっても不思議はないと思っていたら、あったよプリンター! しかもワープロっぽいものも!


 残念ながらまだパソコンにはなれず、ワープロの域を出ないけれど。でも、これで同じ文章なら何枚でも印刷出来るし、文章保存も出来る。テンプレ文書を使えば、書類作成の手間も省けるんじゃないかな。


 それになにより、工夫すれば手紙を手書きしなくて済む! ……はず。


 あれ、地味に面倒なのよ。招待状とか。最後にサイン入れるだけでいいじゃんと思わなくもないけれど、筆跡を確かめる性格悪いのもいるって聞いたから今までは頑張ってきた。


 でも、タイプライターが出来てからは、王宮からの招待状ですらそれだからね。周囲でも徐々に手書きでなくてもOKにはなっていったんだ。


 でも、あれだって必要な枚数打たないといけない。でも、ワープロ+プリンターなら、一回打ってしまえば、必要箇所を変えるだけでいい!


「これで面倒事を軽減出来る……」

「いや、あんたタイプライターが出てから、招待状だって自分で作ってないでしょうが。そもそも、デュバルは招待状を出す機会、少ない家だし」


 リラが酷い。




 到着した遺跡は、閑散としていた。ここは既に掘り尽くされたとして、保存だけされている遺跡なんだとか。


「ですが、以前の遺跡同様、下にまだあります」


 カストルの言葉に、ニエールが大げさな仕草で遺跡の入り口から中を見る。


「むむむ! 確かに感じる魔力の気配!」


 いや、ここからではわかんないでしょ?


 ともかく、入ってみる事に。


 これまでの遺跡同様、狭い階段が下へと伸びている。


「いつものように、魔法で移動する?」

「う……」

「それは……」


 スピードに慣れないリラと王女殿下が難色を示したけれど、早く下に行きたいニエールが、二人の意見を無視して魔法を発動した。


 下に到着したのは早いけれど、案の定リラと王女殿下が動けなくなっている。絶叫マシンから降りて歩けなくなっているのと同じ感じかな。


「ニエール……あんたはまた!」

「痛たたたたたたたた!」


 悪い子にはお仕置きです! 頭の両側からげんこつでぐりぐりやる。私がやると、ニエールに結界を張らせないし、ちょっとだけ腕の力を魔法でアップさせるので、大分痛い。


 これで少しは懲りてくれるといいんだけど。

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