第696話 再びの

 魔力持ちが地下にいると、今の探索方法だと見つけにくいらしい。


『地下には、魔力が強い地層があって、そこに紛れ込まれちゃうんだよねー』


 珍しく、ポルックスが疲れている。あ、そういえば前にもあったな。


『ありますよ! 僕は繊細なんだから! すっごーく疲れるんですよ!』


 うん、まあ仕方ない。頑張れ。


『主様が酷すぎるー』


 日頃の行いって、大事よね。




 何はともあれ、問題は一応消し飛んだので、遺跡に入る事になった。子供達を見つけた日に移動宿泊施設を出して一泊しているので、すぐに入れる。


「またあの村の連中が来るんじゃないの?」

「コーニー、それはフラグです」

「ふらぐ……って、何?」

「言うと本当になるよって事」


 実際は違うけれど。でも、言ってると本当に来そうじゃない? あの連中。もっとも、来たらまた寝かすけど。


 前回同様、あの狭い縦穴がある場所までは魔法で移動。このスライダー、覚えちゃうと楽でいいよね。


 縦穴はカストルが広げたけれど、やっぱりこのまま入るにはまだ狭い。あの時は、子供達を引っ張り出すのに緊急で広げたから。


「もうすこし、広げますか?」

「そうね。周囲に影響はない?」

「……問題はないかと」


 言いよどんだのは、何なんだ?


「いよいよ下に行けるのね。今度は何が出てくるんだろう」


 ニエールがわっくわく状態です。ロティ、しっかり手綱を握っていてね。




 子供達がいた場所までは、実はあまり離れていなかった。縦穴部分を下ると、横にまたしても狭い穴が開いている。


 ここを、あの子達が掘っていたのか。


「ニエール、この奥に何かありそう?」

「んー……もっと下かな」

「そのようですね。少なくとも、魔力を含んだ地層があります」


 ニエールとカストルが言うのなら、そうなんだろう。


 この遺跡はそれなりの期間発掘されていて、有用なものもいくつか出たそうだ。だからこそ、近隣の村人に金を出してまで、発掘作業が進められた訳だけど。


 発掘品の多くは、金属。しかも、今のこちらの技術では作れないものらしい。


 作れないものを、加工は出来るのかと言えば、ある程度の熱を加えると加工しやすくなるんだそう。そこも、優れた品とされた理由らしい。


 前回の事を考えると、金属が出てきたんだから、この下にあるのは金属加工か製鉄関係の施設かな?


 下までは、まずカストルが細い穴を掘って、何かないか周辺を探索する事になった。おもちゃ工場の時と一緒だね。


 ゆっくり掘り進みながら、ついでに周囲に何か埋まってないかを探索する。ソナーみたいな感じ? あれは水中だけど。


 待っている間、私達は一度地上に戻ってきた。探索にどれだけ時間が掛かるか、わからなかったから。ニエールだけは下に残っている。


 地上に戻ったら、いたよ、村人。


「あいつらだ!」

「おい! ここを入れるようにしろよ!!」

「ここは俺達のだぞ!」


 いや、お前らの土地じゃないだろうが。その辺りは、カストルがしっかり調べているよ。


 ここは、元は個人所有の土地だったけれど、遺跡が見つかったので国が買い取った場所。


 元の持ち主もちょっと離れた街に住む地主だし、間違ってもこいつらの土地ではない。当然、遺跡もそうだ。


 ちなみに、遺跡の周辺には立ち入れないように結界を張っておいた。


「おい、あんたら、中に子供がいなかったか?」


 村人の中から、ちょっと厳つい感じの初老の男性が出てきた。


「いないが……こんな場所に、子供を入れたのか?」


 交渉担当はヴィル様です。こういう時、矢面に立ってくれるのはやっぱり長男だよなあ。


「うちの子達だ。どこにやった?」

「いないと言っただろう。聞こえなかったのか?」

「子供を返せ!!」


 初老の男性が言った途端、村人が一斉に「返せ」「返せ」と叫びだした。うるさいなあ。


「遮音結界、張りました」

「ご苦労」


 これ以上の交渉は無用と、ヴィル様も判断したようだ。私が遮音結界を張った事に、反対されなかった。


「ついでに、遮光結界も張っちゃえば?」

「それもそーですね」


 イエル卿からのアドバイスに従って、遮光結界も追加。乳白色の壁に遮られ、結界の外の様子が一切わからなくなった。あー、すっきり。


「じゃあ、中でお茶でも飲んで待ちましょうか」


 コーニーの提案に、否やを唱える人はいなかった。




「それにしても、子供を返せと言われるとはねえ」


 自分達で厄介もの扱いしていたくせに、いざいなくなるとなると惜しくなったのかな?


「多分、自分達の罪が外に出るのが嫌なんじゃない? 村の中で完結するなら、外には出ないもの」


 リラの意見に、なるほどと思う。子供達が心配とかではなく、あの子達が村の外に出る事で、自分達の罪が余所に知られるのが怖いのか。


『主様、子供達を虐げていた大人達が襲撃してきたそうですね。捕縛しますか?』


 この声はヘレネか。いや、彼等には何もしないって決めたから。


『ですが、現状主様に迷惑を掛けております。許せません』


 迷惑とか思わないから。鬱陶しいとは思うけれど。


『やはり、一掃してしまいましょう』

「待ちなさい!」

「何? 急に」

「あ」


 しまった。今は、宿泊施設でお茶を用意している最中だった。いや、用意しているのはオケアニスなんだけど。


 心配そうなコーニーとは対照的に、リラは呆れた目でこちらを見ている。


「大方、カストルかポルックスと念話で会話していたんでしょうよ」

「近いけど惜しい。相手はヘレネだ」

「ヘレネ? 船で何かあったの? まさか、子供達に何か?」


 リラ、落ち着いて。どーどー。


「ヘレネが、ちょっと暴走しかけていて」

「暴走?」


 コーニーと王女殿下がハモった。ちょっと可愛い。


「ヘレネがね、外の村人を一掃したいと言い出しまして」

「あら」

「まあ」


 またしても、二人が同じタイミングで口元を手で覆う。


「あの子達は本当に、あんたに関しては過保護が過ぎるし、過激になるわよね……」

「本当にね。一応押さえるように言ったんだけど。まだ一掃の許可を求めてきてるよ」

「……その念話、ここで全員が聞こえるように出来る?」

「どうだろう?」

『出来ますよ』


 うお! いきなりヘレネの声が施設全体に響いた。そういえば、カストルもこんな事、やったな。


「ヘレネ。こちらの声も聞こえてるわね?」

『はい、エヴリラ様』

「なら、外の村人に対して、一切の手出しは無用です」


 おお、リラがすぱっと言い切った。でも、ヘレネは不満そうだ。


『ですが』

「これは命令です。いいわね?」

『……わかりました』


 その後、ヘレネからの要請はなくなった。えー、リラってば凄ーい。


 なのに、その当人は冷たい目でこちらを見ている。


「ヘレネもヘレネだけれど、きっぱり言い切らないあんたも悪い」

「えええええ」


 とばっちりだああ。


 とりあえず、ヘレネがこれ以上文句を言ってこないよう、結界の外の連中はとっとと眠らせておこう。


 外で寝て風邪を引いたらどうするって? 知らんがな。

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