第694話 美味しいは正義だから勝てないのだ
遺跡の奥に隠れていた子供達。その子達から話を聞こうと思ってたんだけど、お腹がいっぱいになったら、途端に眠気がきたらしい。
三人の中で、一番小さい子は二、三歳程度。そりゃ昼寝も必要か。
「という訳で、子供達はしばらくお昼寝です」
「小さい子には必要よね」
私の言葉に同意するリラの隣で、コーニーとニエールが何やら話している。
「レラは、お昼寝嫌がって逃げ回ったわよね?」
「私は夏しか知らないけれど、確かにあちこち隠れてたね。よく毎回隠れる場所を見つけるものだって、伯爵様が感心してたけれど」
「伯父様ったら。感心するところではないでしょうに」
「でも、最後にはシービスさんに見つかって、強制的に寝かしつけられてたよね」
「今のあなたみたいにね」
「うぐ」
そこ。人の過去を勝手にバラさない。ユーインも、こっそり聞き耳を立てないように。
つかニエール、思わぬ方向からの攻撃を食らったね。人の過去を笑いものにするからだ。
あれ? 笑いもの? 違うか? でも、変な話題にしていたのは確かだから、いいや。
子供達には、オケアニスをつけておき、先に大人達から尋問しようという話に。
まったく、被害者かと思ったら加害者とか。人間って複雑ー。
「尋問はカストルにやらせますか?」
自白魔法を使うとはいえ、聞き出す内容を考えると女子は立ち会わないようにした方がよさそう。どんな地獄が飛び出てくるかわからないし。
アンドン陛下も、今回は除外。一国の王様に、尋問させるのはちょっと。本人にも了承を得た。
で、残るはユーイン、ヴィル様、イエル卿、カストルな訳ですが。この面子の中で尋問作業を行えるのって、多分カストルとヴィル様だけかと。
ユーインはそういった事には不向きだし、イエル卿は未知数。という訳で、確認はヴィル様にしたんだけど。
「いや、私がやる」
宣言されてしまいましたー。ただ、カストルも手伝いとして残す事に。
尋問に参加しない面子は、移動宿泊施設に残る事になった。
あ、尋問は大人達を寝かしているテントで行う。周囲に人はいないとはいえ、念の為に遮音結界を張って行うらしい。
「さて、何が出てくるのか」
「ろくな事じゃないでしょうよ」
私の独り言に、リラが吐き捨てるように返す。彼女も、親のせいで子供の頃から苦労したようだから、あの子達に同情的なのかも。
その割には、突き放すような言い方をしてたけれどねー。
でも、自分で「助けて」と言えないのは、よくない。言う気力もない子達なら勝手に手を出すけれど、あの子達はまだそこまで堕ちてなかった。
気力を感じたからこそ、リラもああ言ったのだろう。
移動宿泊施設で、女子中心におしゃべりに興じていたら尋問が終わったらしい。まずは大人組の言い分から。
「どうやら、あの三人は村の厄介もの扱いだったようだ」
「厄介もの」
「男児二人は親から捨てられ、女児は流れ者が産んだ後、親が亡くなったらしい。それと、三人共通して魔力があり、子供の頃から周囲でおかしな事がよく起こったそうだ」
それが原因で、親に捨てられたり、そもそもが余所者の生んだ子で厄介もの扱いされていた子……かあ。
「おかしな事って、もしかして物が浮くとか、そういう現象ですか? ウィンヴィル様」
「詳しくはわからん。実際に見た者は、ここにはいないらしい」
ニエールからの質問に、ヴィル様が答える。どうやら、親は見たらしいけれど、他の村人は実際には見ていないらしい。
でも、そこは狭いコミュニティ。あいつが言っていたんならそうなんだろうと、頭から信じたらしい。
「もうすこし疑ってかかれよ」
「でもレラ、あの子達なら、魔力の軽い暴走で物くらいは浮かせたと思うよ? それが、人に当たったりしたら、さらに恐怖心を煽ったんじゃない? こっちには魔力を押さえる道具なんてないだろうし」
「あー」
ニエールの言葉に、思い当たる節がある。魔力持ちの子供は、制御出来ないうちは魔力を暴走させやすい。
大抵は魔力量が少ないので大した事故にはならない。それでも、オーゼリア国内では子供のうちは魔力を押さえ込む腕輪を付ける。
「私もあれ、付けられたっけなあ」
「付ける端から溶かしていったけれどねー」
「やかましい」
ニエールを睨むも、どこ吹く風だ。
「話を戻すぞ。村の厄介ものだったあの子達は、その能力故にしばしば大人に使われていたらしい。この遺跡で使われるようになったのは、ここ数ヶ月の話だそうだ」
「あの縦穴を掘った頃ですか? ウィンヴィル様」
「よくわかったな、ニエール」
「縦穴がある場所までは大人が掘って、そこで打ち止めになったんじゃないかと思ったんです。でも、何かの折りにあの子達があそこまで入り、下に何かあると感じ取ったんでしょう。だから、縦穴を掘らせた。違いますか?」
「いや、合っている」
あの子達は、自分で自分の首を絞めたようなものなのか。いや、その前から厄介ものとして村でも虐げられていたようだから、変わらないのかも。
どんよりした空気の中、子供達が目を覚ました。旺盛な食欲の彼等は、また空腹を訴えているという。
「これまで、ろくな食事を与えられなかったんじゃない?」
「ああ、あの飢餓状態なら、納得だわ」
リラの言葉に、子供達に回復魔法を使った時の事を思う。
「レラが回復したから、体が栄養を欲しているのかも」
ニエールにしては、まともな事を言う。
子供達には、まずおやつとしてフルーツとミルクを与えるように指示した。リンゴとバナナ、それにオレンジ。オケアニスが器用に剥いている。
話は、食べ終わってからだな。既に大人組から事情は聞いたので、その補完のようなものか。
オレンジの汁で口の周りをベタベタにした子供達が、オケアニスに口元を拭かれている。
「そろそろ、話を聞かせてもらえるかな?」
子供達の相手をするのは、私とリラ。場所は子供達がおやつを食べていたダイニングでそのまま行う。
他の人達には、リビングへ移動してもらった。
目の前には、横一列に子供達。真ん中の、一番年嵩の子は、相変わらずこちらを睨み付けている。
隣のリラが溜息を吐いた。
「睨んでいても、何にもならないわよ。話すの? 話さないの?」
「……話って、何を話すんだよ?」
「あんた達の事について。親は? 他に兄弟は? あんた達のような子は、他にもいる? あんた達がいなくなったとして、誰かあんた達を探す人はいる?」
「俺とこいつ……ダターの親はいる。村で畑仕事をしてるよ。でも、俺達の事はいらない子だって言ってた。サージルは親はいない。流れ者が母親で、うちの村でサージルを生んで、十日もしないで亡くなったって聞いた。俺達みたいな子って、村の厄介もの扱いの子は、俺達だけ。いなくなったところで、誰も探しやしない」
一番年嵩の子、随分頭のいい子だな。きちんと教育を受けさせれば、いい人材に育つかも。
「……頼むから、期待ダダ漏れの目はやめて」
「え?」
つい前のめりになったら、リラから呆れた声が聞こえてきた。いやだって、いい人材はほしいじゃない?
「……まったく。真ん中の君、名前は?」
「……ディーレ」
「家名はないの?」
「ねえよ。お偉いさんの家じゃあるまいし」
どうやら、こちらの国では家名を持つのが特権階級の証のようだ。通常は生まれ育った村や街の名を家名代わりに使うらしい。
「ではディーレ。食べる前に私が言った言葉、覚えているわね?」
「ああ」
「じゃあ、どうする?」
「……」
ディーレ少年は、まだ迷っているらしい。そりゃそうだ。いきなり会ったばかりの相手を信用しろと言われて、すぐ信じるようならそっちの方が問題だ。
でも、彼の隣、紅一点のサージルは違うらしい。
「ディーレ、私、この人達と一緒にいたい」
「サージル!?」
「だって、この人達、美味しいご飯をくれたもの。一緒にいたら、あのご飯、またくれる?」
「うん、もちろん。ただ、味はもうちょっと落ちちゃうかもしれないけれど、それでもおいしいご飯、お腹いっぱい食べられるよ」
「なら、私行く! 村には帰らない!!」
「サージル! ちょっと待て!」
ディーレ少年の引き留めも虚しく、サージルちゃんは私達と一緒に来る事を選んだ。
まあ、そうなったら残りの二人も一緒に来るよねー。
という訳で、将来有望そうな人材を三人、ゲットしましたー。
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