第677話 選んでもらおうか

 浜辺の一件以来、王女殿下はすっかりコーニーに心酔している。コーニーも、妹が出来たみたいで嬉しいらしい。


 そういや彼女、末っ子だったな。年下の存在が嬉しいんだろう。


 それ以来、王女殿下の世話はコーニーが一手に引き受けてくれた。助かるー。


「確かに助かるんだが……影響受けてないか?」

「何か問題でも?」

「問題……うん、問題……」


 アンドン陛下は、何やらぶつくさ言ってるよ。文句あるなら、自分で姪の面倒見てよね。




 尻尾を隠すのがうまい黒幕は、なかなかその姿を見せない。島でのバカンスも、とうとう二十日目に突入しちゃったよ。


 その間、ユントリードで失踪扱いになっている誘拐された人達は、こことは違う島で一旦過ごしてもらっている。


 ユントリード国内の誘拐組織が壊滅したとはいえ、代わりの存在がいつ出てくるとも限らない。


 黒幕を潰さないと、また彼等彼女等が誘拐される危険性がある。


「あっちの方はどう?」

「問題ありません。未成年もそうですが、成人した者もろくな仕事に就けてなかったようで、島での生活に不満はないようです」


 それもどうなんだ?


 カストルの調べにより、今回の誘拐被害者の中でうち縁の人は半数以上。どうもね、昔からおいたをしていた男達がいたらしい。


 自分の身の上を知った上で、余所の子供を作るという浅はかさ。いや、それを言えばそんな体質……呪い状態? にしてしまった、うちのご先祖様とそのお友達が悪いんだが。


 まさか、何代も後にこんな問題が起こるとは、思いもしなかったんだろうなあ。


 縁の人には、ちゃんと隷属魔法を解除しておいた。主なしの隷属魔法とはいえ、あると邪魔だろうし。


「というか、隷属魔法も主なし状態って、出来るんだね」

「出来はしますが、あまりいい事ではありません。何かの拍子にとんでもない相手を主として発動してしまいかねませんから」


 そう考えると、外部に出た血筋の人達が今まで無事だったのは、幸運以外の何ものでもなかったのかな。


 まあ、今回とうとうこんな事件に巻き込まれた訳ですが。




 オーゼリアから連れてこられた一団は、やっと会話が可能なくらいに回復したらしい。


 成人済みの人達も、未成年の子達も、心身共に大分疲弊していたから。


 そんなところ、申し訳ないが、彼女達にはこれからの事を決めてもらわなくてはならない。


 大半は、国内で救出された被害者同様、帰る家がない状態だ。それでも、国には帰りたいだろう。


 だから、ここに残るか、国に帰るか。国に帰った後は、王宮が支援する場所で働くか、デュバルで働くか。


 もちろん、未成年の子達はうちで面倒見る予定。まだ判断付かないと見なされるから。


 でも、成人してる人達はなあ。




「まず、残るを選択する人はいないでしょうね」


 ですよねー。


 現在、カストルから報告を受けた後のお茶の時間。リラと一緒に一休み中。


 ええ、先ほどまで書類仕事をしていましたが何か?


 コーニーは王女殿下と一緒に、グラナダ島に行っている。王女殿下のリクエストらしい。あの島、気に入ったのかな。


 お茶の時間は女子だけなので、たまにこうして執務の延長の話をする事がある。


 人身売買の被害者受け入れは、仕事の範疇だから。


「未成年の受け入れに関しては、既に本領の方で体制が整っているわ。まずは教育から始まるけれど」

「だよねー。未成年のうち、家で教育を受けていた子、半数にも満たなかったよ」


 最初から売り飛ばすつもりの子だったんだろうか。悲しいのは、子供を売らなきゃ食べていけないほどの貧困にある家庭ではないってとこ。


 どこも、普通の家庭だったってさ。もっとも、子供を売り飛ばした以上、親は罪に問われて収監中だけど。


「今回救出した子達、全員下位とはいえ一応貴族の家の子達ばかりだから、やっぱり読み書き計算すら出来ていないのは、おかしいのよね……」


 いくら最低の騎士爵家であっても、十三歳になれば貴族学院に入る。まあ、経済事情により入れない子達もいるにはいるけれど。リラもそうだったし。


 ただ、それでも体面があるから、子供には最低限の教育は施す。それすらないって事は、最初からいらない子扱いだったって事?


 その辺りも含めて、ちょっと調べておこうかな。

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