第678話 見つかった
国内の事は、国内で調べてもらう。一旦ネスティが本領に戻り、国内での人身売買のその後の調査をしてくれている。
王宮でも継続して秘密裏に調べているらしく、あちこちでそれらしい人間を見るそうな。それらしいって、どういう人?
「こっそり調べている者達……でしょうか?」
それを、うちのドローンがさらにこっそり見ているのか……
ともかく、王宮としても我が子を売り飛ばす親は監視対象になっているようだ。
ノルイン男爵が捕まった時は、まだ証拠不十分で罪に問えなかったからね。
でも、その辺りはやりようといいますか。
オーゼリアもそうなんだけど、この世界、情報伝達手段がまだ限られているからか、口コミって凄く強いんだよ。
どっかから広まった「噂」は、火消しまでに結構な時間と手間が掛かったりするからねえ。
貴族の場合、噂は武器になる。ただし、下手に使うと相手に反撃を食らうけれど。
いかに反撃を食らわず、噂で相手を滅ぼすか。その辺りは、社交界での手腕とも言われているらしい。
やだわー。貴族ってこわーい。
それはともかく、ノルイン男爵に我が子を「売った」連中の中には、下位貴族も多く含まれていたというから、この手が使えるのではないかなー。
それを説明すると、リラがげんなりした顔を、カストルが生き生きとした笑顔になった。
「では、さっそく王宮の方と連携して、計画を進めましょう」
「よろしくー」
「それにしても、あんたもなかなかエグい手を考えつくわね」
「えー? そーかなー?」
反撃したければ、してもいいのよ? 倍どころか十倍返しをするだけですが。
勝手に動いてはいるけれど、人身売買の被害者が「家に帰りたい」と言ったらどうしようね?
帰るべき家、現在進行形でうちと王宮が手に手を取って潰しに掛かってまーす。
とりあえず、その事は話さず、被害者と面会をする事になった。場所は彼女達が保護されている島。
そういえば、ここは手に入れてまだ間がないから、名前は付けていない。
「付けますか?」
「後でね」
今度は間違えようがないように、番号で付けようと思う。一番島とか二番島とか。
何となく、カストルの悲しそうな視線を感じたけれど、気にしない。
名もなき島にも、うちの別荘が建っているのは何だか不思議。そこから少し離れたところに、カストルの移動魔法で移動する。
「別荘の中に、移動陣を敷いてないの?」
「念の為です」
何だそれ。
「防犯の為ですよ」
「移動陣なんて、普通の人は滅多に使えるものじゃないのに」
そんな事が出来るのは、私くらいなもんでしょ。カストル達は、単体で移動魔法が使えるけれど。
そんな存在が敵に付いていたら、今頃ここは焼け野原になってるんじゃね?
別荘に保護されている女性は、全員で八名。国外に散った人数より少ないのは……そういう事なんだろうな。
国内でも、救出が間に合わなかった人達もいる。救いになるかはわからないけれど、「買った」側は全員処罰された。
八人とは、一人ずつ面接する事にした。
「今回、一番年下はいくつだっけ?」
「十二歳ですね。こちらに売られた時は、十一歳だったそうです」
て事は、被害者達は一年以上軟禁されていたという訳か……
彼女達は、医療特化のネレイデス達の診察を受けて、全員健康を回復した事が確認されている。
面接は、最年長者から行う事にした。名前は、セアミナ嬢。キプシアック騎士爵家の娘で、父親の手でノルイン男爵に売られたらしい。
彼女の記録を見るに、容姿が整っていた事と、魔力持ちだった事で他国への売り先が決定したそうだ。
そこから先は……推して知るべし。
面接用の部屋にやってきたセアミナ嬢は、確かに美人だ。綺麗な栗色の髪にアーモンド型の瞳。瞳の色はヘイゼルだね。
俯き加減なのも、また憂いを帯びていて美しく見える。こりゃ、苦労したろうな。
「初めまして。オーゼリアのデュバル侯爵家当主、ローレル・レラです」
「こ、侯爵様!? し、失礼いたしました!!」
一応、身分を明かしておいた方がいいかと思って言ったんだけど、恐縮されてしまったよー。
何とか宥めようと思ったんだけど、どうにも恐怖の方が先立つようだ。仕方ないので、カストルに頼んでリラックス出来るよう、魔法を使ってもらう。
「気分は落ち着いた?」
「は……い……」
……これ、本当にただのリラックス? じろりとカストルを睨むも、いい笑顔を返された。
仕方ない。パニックになられるよりはいい。
「いきなりで悪いのだけれど、これからの事を話し合おうと思って」
「これからの……事……」
本当に大丈夫なのかな。正常な考えが出来ない状態で色々聞いても、駄目なんじゃないの?
「問題ありません。むしろ、この状態の方がしがらみなく、心からの願いを口に出来るでしょう」
それも、どうなの? ……まあいいか。
「まず、国に帰るか、こちらの大陸に残るか――」
「残るのは嫌!」
激しい拒絶の意思だ。先ほどまでの、どこか夢見心地だった様子はすっかり消えて、恐怖に震え出している。
「落ち着いて。残りたくなければ残らなくていいの。大丈夫よ。国に、帰りましょうね」
私の声に、段々と恐怖が引いていくのがわかる。その代わり、綺麗な目に大粒の涙が。
「家に帰るのも、嫌」
キプシアック騎士爵家って、今どうなってるんだっけ?
『人身売買に関しては、証拠不十分で捕縛までは至っていません。表向き、ノルイン男爵家に奉公に出した事になっていますから。ですが、王宮の監視対象です』
って事は、王宮も黒よりのグレーと思ってる訳か。なら、こそっと自白魔法で人前で自白させちゃうのはどうだろう?
『さすがに、越権行為と取られますよ?』
うーん。でも、目の前でこんなに辛そうなお嬢さんを見ると……ね。
『では、ポルックスに誘導させて、デュバルに難癖をつけさせましょう』
なぬ?
『セアミナ嬢が国に帰ってきたと、噂を流します。もちろん、キプシアック家の周囲にのみです。一度売った娘を、もう一度売るチャンスがあると思わせれば』
欲深な親は、商品と思っている娘を取り戻しに来る。
『通常でしたら、騎士爵家が侯爵家に楯突く事など思いつきません。ですから、そこは裏から手を回して』
証拠、残さないようにね。
『承知いたしました』
さて、キプシアック家の事は決まった。次は目の前にいるセアミナ嬢だ。
「家に帰りたくないなら、デュバルに来る?」
「え?」
「もちろん、あなたの出来る範囲で働いてもらうけれど、男性が側にいるのが嫌なら、女性のみの職場もあります。望めば、教育もある程度受けられるわよ? どうする?」
「私が……働く……」
先ほどまでの激高はどこへやら、また夢見心地の状態に戻ってしまったセアミナ嬢は、ほんの少しの間を置いて、こちらに聞いてきた。
「私が、働いてもいいのでしょうか?」
「悪い道理がないわ」
彼女は犯罪者じゃない。犯罪の被害者だ。それを伝えると、彼女の目から涙がこぼれる。ああああ、せっかく泣くのをやめたのにいいいい。
「私……汚れて……」
「いいえ、綺麗なままよ」
「でも、異国で色々な人に」
「大丈夫。要らない記憶なら、消してしまいましょう」
「消してしまう……」
「怖くないし、痛くもないわ。大丈夫。安心して」
「私……生きていていいの?」
「もちろんよ。周囲には、優しい人がいっぱいいるから、安心して」
「はい」
……何だろう。ちょっと罪悪感。
いや、彼女に言った事は全部本当なんだけど、何となく、丸め込んだような気がするんだよね。
いや、気のせい気のせい。さて、次の人、どうぞー。
結果、全員うちに来る事が決定しました。そして、全員の実家が私に潰される未来も決定しましたー。
何かね。本当に「食うに困って娘を売った」訳じゃないのよ。ノルイン男爵を足がかりに、上の爵位の人に取り入って美味い汁を吸おうとか、娘を売った金で息子の為にいい家庭教師を探そうとか、娘を売った金で贅沢三昧をするとか、そんなのばっかり。
しかも、正妻の娘を売って、妾とその子を家に引き入れた奴もいる。残念ながら、当主は入り婿ではないので、お家乗っ取りを指摘する訳にもいかない状態。子リスちゃんちのようにはいかなかったわー。
その分、うちに家ごと潰されますが。まあ、表立ってどうこうはしないよ? ちゃんと貴族らしく、裏から手を回すから。
その辺りは、カストルとポルックスがやる気満々です。
「あの二人に任せていいの? それこそ、ぺんぺん草の一本も生えない荒れ野になるわよ?」
「いいんじゃない? その後の管理は王宮に押しつけるから」
騎士爵家って、領地を持たない家が殆どだから。爵位が王家に戻れば、また新たに叙爵すればいいだけだしねー。
面接やら何やらやっている間に、ダシアイッドでは動きがあった。とうとう、あの十二人が黒幕と会ったらしい。
「相当な警戒ぶりでしたが、相手の顔と骨格は把握しましたので、街中でも見つけられます」
「おお! 凄い!」
やっと辿り着いたか黒幕!
「黒幕は三人。それぞれに監視ドローンを複数付けています。どうやら、相手は遺跡から発掘された魔道具を使用しているようですが、こちらのドローンの方が性能は上です」
カストル、ドヤ顔です。
「そちらからの位置情報によりますと、やはり黒幕はダシアイッドに残る旧ヒーテシェン貴族のようです」
「なるほどね」
「彼等の目的が今ひとつはっきりしませんので、引き続き調査を行います」
「うん、お願い」
さて、黒幕は見つかった。彼等の目的がわかれば、それを潰していく。
先に本人達でなく、目的を潰すのは、絶望してほしいから。罪のない、善良な女子に絶望を味わわせたのだから、連中もじっくり味わうべきでしょう。
それが終わったら、健全な労働現場での健全な労働が待っている。二度と陰謀に手を染めようなんて思わなくなるくらい、更生してもらわないとね。
島での生活は穏やかなんだけど、一人不満な人がいる。アンドン陛下だ。
「なーなー、いつになったら遺跡を見に行くんだよー?」
「ユントリードと周辺国で起こった拉致誘拐事件に方が付いたら……ですね」
「いつになったら方が付くんだよもう……」
そんなの、こっちが聞きたいわ。
「陛下はあれですよ。これを機会に王女殿下ともうすこし交流を持つべきでは?」
「でも、女の子の扱いとか、よくわからんし。俺んとこ、娘はいないから」
「妻が二人もいてこれとか」
「いやいや、花妃に関しては、俺が望んだんじゃないからね!? おれはかみさん一人でよかったんだから!」
「いや、聞いてないし。聞く気ないし」
「たまにはおじさんの愚痴も聞いてくれよおおおお」
やだよ。そんな愚痴は自分の臣下にでもぶちまけてくれ。
だというのに。
「花妃の実家から無理矢理押しつけられてさー。いや、妃自体はいい子なんだけど、父親に抑圧されて育ったせいか、人に逆らうって事をしない子でさ」
「へー」
「あの家も、無下に扱う訳にいかない家でさー。もっとも、その後じわじわ力は削ったから、今じゃ見る影もないけどな!」
「ほー」
「それはいいんだが、彼女が生んだ息子がまた馬鹿でなあ。ほら、うちに来た時に、侯爵を伯爵令嬢と見間違えて、盛大にやらかした奴、いただろう?」
「ふー……そういえば、いましたね」
ガルノバンの貴族であるジェファード伯爵家。そこの娘さんであるタシェミナ嬢は、ここにいるおっさんの息子の婚約者だった。
ただ、相性が悪かったらしく、関係は冷え切っていたみたい。で、私らがガルノバンに向かった際に開かれた歓迎会で、おっさんの馬鹿息子はやらかした。
私をタシェミナ嬢と見間違えて、その場で婚約破棄を宣言してきたのだ。
「そういえば、あの馬鹿、その後どうなりました?」
「ん? 王位継承権を取り上げて、母親の実家に押しつけた」
「えー……」
丸投げー。いや、人の事は言えんけど。
「……あれ? でも、花妃の実家って、力を削いだって言ってませんでした?」
「おお、言った言った。没落間近の家の、次期当主として放り込んでおいたんだ。これであいつもちったあ考えてくれりゃあいいんだがなあ」
割とスパルタだな。でもまあ、あんな馬鹿な事をやらかす以上、王族として王宮に置いておくのは危険だもんね。
いやあ、うちの王族は出来のいい人ばかりでよか……ないな。いたわ、一人。
子供が生まれたって話は聞いたけれど、その後どう過ごしているのやら。
「うちから婿入りした三男坊、元気ですかねえ?」
「ん? シイニールか? 滅多に人前に顔は出さないが、子供も生まれたし、元気にやってんじゃね? 嫁さんの方は、出産が終わってから精力的に社交に精を出してるぜ」
無事尻に敷かれている模様。うん、頑張れ、三男坊。
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