第670話 一歩ずつ進む

 気休め代わりに、自分で自分に浄化を試してみた。当然のように光らない。浄化する対象があれば、光る仕様だからね、この術式。


 つまり、浄化は空振り。


「何だかなー」


 効果はないかもと思いつつ、何かあるんじゃないかと思っていたから、空振りはちょっと不満。何か出なさいよ。




 その日の夕食後、宿から船へ場所を移して、情報共有を行った。ちなみに、アンドン陛下と王女殿下は宿に残している。


 二人の護衛の為に、オケアニスを二人、宿に配置しておいた、


 まずは私から、今回向こうで聞いてきた話と合わせて、失踪事件との関わりを推測という形で話す。


「……という訳で、こっちで起こっている失踪事件、うちのご先祖様が関わってるかも」


 リラと私以外、驚いていた。特に今回、うちの事情を初めて聞くコーニー達は大分驚いているようだ。


「お母様達がレラに家を継がせた裏には、そんな理由があったの?」

「うん、まあ」

「……それを、兄様は知ってたのよねえ?」

「父上達から聞いたからな」

「ずるいわよ!」


 ええええええ?


「レラもレラだわ! どうして私に話してくれなかったの? 大体、リラも知っていたのよね?」

「ええと、私に関してはちょっと別の理由がありまして……」

「別の理由? じゃあ、それも今話してちょうだい」


 コーニーに詰め寄られたリラが困って、私を見てくる。うん、これも我が家の恥……みたいなもの?


「それに関しては私から。私も聞くまで知らなかったんだけど、どうやらリラと私、同じデュバルの血を引いてるらしいのよ」


 あれ? 室内がしんと静まりかえっちゃった。


 一拍おいた後、コーニーが悲鳴のような声を上げる。


「どういう事!? 二人が同じ血を引いてるなんて……まさか、あの男!」


 何を考えたわかるけれど、それは違うから。


「何でも、数代前の先祖の婚外子の子孫が、リラなんですって」

「え? 数代前? じゃあ、レラの父親が関係しているんじゃ……」

「ある意味関係はしてるけど、原因じゃないから」

「そう」


 渋々と言った様子で、納得したらしい。実父はとことん、信用ないね。ダーニルの件があるから、仕方ない。


「ともかく、そういう訳で失踪者の方に関わりがあるかもしれないんです。なので、失踪者は私の方で調べようかと」

「そうか」


 私の申し出に、ヴィル様が理解を示してくれた。


「他に、遺跡の件なんだが」

「何か、わかりましたか?」

「いや、聞こえてくる話が耳に入る程度ではあるが、遺跡に関する話は誰もしていなかった」

「私も、聞かなかったわ」

「俺も」

「私も、耳にしていない」


 遺跡に関する情報は空振りか。考えてみれば、道行く人が遺跡を話題にする確率って、低いよね。


「せめて場所だけでもわかればと思ったんですが」


 そっちも、カストルに頼むかな。どうせ国中にドローンを飛ばすんだろうし、ついでって事で。


『承りました』


 さて、遺跡には今のところ二種類あるのがわかっている。銃が出土した遺跡と、魔法関連の何かが出土した遺跡。


 ユントリードに遺跡があるかはまだわかっていないけれど、隣国ザレアギーとダシアイッドには遺跡がある。位置的に、この国にもあるんじゃないかなーと思うんだよね。


 それに、この国ってベクルーザ商会発祥の地でもある。だったら、銃はまだしも魔法関連の遺跡はあってもよくね?


 まあ、全てはただの憶測ですけどー。




 翌日には、カストルからいくつか報告がきた。場所はキビルシローア号の一室。起き抜け、朝食の前の報告会だ。


 まず、オーゼリアから売られた人身売買の被害者達。彼女達は無事、保護出来たという。


「現在は占有した島に作った別荘で静養させています。医療特化のネレイデス達を同行させておりますが、念の為ニエール様にもご助力いただいてよろしいでしょうか?」


 ニエールを同行させるって事は、魔法治療が必要って事だな。確かに、劣悪な環境にいたんだから、精神が疲弊しているだろう。嫌な思い、たくさんしただろうしね。


「ニエールに関しては、カストルの判断で動いて。本人が文句を言うようなら、私に言って」

「承知いたしました。それと、実行犯に関しては既に捕縛し、現在尋問中です」

「そう」


 カストル達も自白魔法が使えるので、聞き出せない情報はない。これで指示を出した奴らまで辿り着ければいいな。


「次に失踪事件に関してですが」

「何か進展はあった?」

「今のところ、ユントリード全体に監視網を広げた程度ですが、一部におかしな動きがあります」


 いや、監視網って。もうちょっとオブラートに包もうよ。それよりも、気になる事が。


「おかしな動きって?」

「ユントリードの西側、ザレアギー、ダシアイッドと三国の国境が集まる辺りに、不審な馬車列がありました」

「馬車列……商人の馬車って訳じゃなくて?」

「だとしても、人気のない国境付近に行く意味がわかりません」


 カストルによると、商人が行き交う街道は別にあって、普通ならそちらを使うそうだ。


 不審な馬車列は、舗装もろくにされていない旧街道を進んでいるという。


「……馬車の中身、わかる?」

「調べればわかります」

「じゃあ、調べて。もし失踪した人達だったら、その場で運んでいる連中ごと捕縛、自白魔法で背後関係を調べてちょうだい」

「承知いたしました」


 さて、何が出てくるかなあ。


 船から宿に移動陣で戻り、朝食を食堂でいただく。


「いやあ、ここ、うちが目指す都市にはうってつけだな」


 アンドン陛下は朝からご機嫌だ。どうやら、ガルノバンで新しく建設する都市のモデルにするつもりらしい。


「よかったですねえ」

「何だよ、お前さん達にも関係あるんだぞ?」

「はい?」


 何で余所の国が新しく作る都市に、私達が関係あるのさ。変な事を言うおっさんだなあ、本当に。


 胡散臭い思いでアンドン陛下を見たのがバレたのか、むくれられてしまった。


「国境になってる山脈の裾に、物流拠点として作る街なんだよ! そっちとは、鉄道の関係で関わるだろうが」 

「ああ、そういう事ですか」


 つまり、うちの領都のような位置づけの街を作るのか。で、そこのモデルに、ユントリードの首都であるここ、カマムヴァンを採用する訳だね。


「確かに関係はあるかもしれませんが、あくまで都市を造るのはガルノバンですしねえ」

「いやいやいや、そこにデュバルの出先機関、作らねえ? ほら、温泉とかクルーズとか南の街関連の」


 つまり、旅行代理店を置けと? 別にいいけれど、それなら空き店舗を借りるからいいんだけどなあ。


 それを言ったら、アンドン陛下が溜息を吐いた。


「わかってねえなあ」

「ああ?」

「持ち家……じゃねえ、持ちビル……でもないか。とにかく、自分達で土地から建物から所有していた方が、箔が付くってもんだろ?」

「いや、そういうのはいらないんで」

「何でだよー」


 どうしてそんなに土地建物にこだわるのやら。私、そういうのは興味ないんですけど。


『主様、私が交渉をしてもよろしいでしょうか?』


 カストル? 何、ガルノバンに土地が欲しいの?


『あの国は、まだまだ観光資源が眠っているように感じます。ここは一つ、新しい街を橋頭堡とし、ガルノバン国内の観光資源を開発していきたく』


 橋頭堡って。戦争している訳じゃないし、する気もないんですが?


『この場合は、足がかり的な意味と捉えてください』


 あ、そうなんだ。まあ、カストルがやるのなら、いいか。


『ありがとうございます』


 ガルノバンで観光資源が開発されれば、私も行けるだろうし。近くに観光地があるのはいい事だよね。隣国だけど。

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