第669話 繋がる

 謝罪は無事受け入れてもらえ、その後は和やかな歓談となった。


 約一名、ふてくされているのがいるけれど。


「もー、ラーレは相変わらずお子ちゃまだなあ」

「お、お子ちゃま言うな! 大体お前は昔から――」

「ああん? 誰が『お前』だってえ?」

「ふぎゅるう」


 ラーレ青年は、ポルックスのおもちゃ状態だ。いいのかねえ。


「懐かしい相手を連れてきてくださって、本当にありがとう」

「いえ」


 そうか。ポルックスはこちらでずっと彼等と一緒に行動していた。それこそ、目の前のラーレ青年の祖母、ランザさんが生まれる前から。


 なので、ラーレ青年にとってもランザさんにとっても、ポルックスは物心つく前から一緒にいる存在なんだ。


 そりゃ気安い相手のはずだわ。




 彼等はここで生まれ、育ち、生活基盤を持って暮らしている。


「だから、言う程酷い状況ではなかったのよ」


 すっかり打ち解けてくれたランザさん達は、楽しそうに自分達の事を話してくれた。


 聞けば聞くほど、うちの領民達の方が酷い生活だったんだな……


「ただ……」

「ただ?」

「いえ、私達は自分達の血筋をきちんと理解しているから、子供の事は気を付けていたんだけれど」


 ああ、彼等は血筋で魔力と一緒に呪いを受け継ぐ。だからこそ、結婚妊娠出産は、言っちゃなんだけど管理しておかないといけない。


 でないと、彼等が知らないところで呪いが広がって……


 あれ? 何か今、引っかかったぞ?


 混乱する私を余所に、ランザさんの話は続く。


「お恥ずかしい話なのだけれど、既に亡くなった仲間の中に、どこかに自分の子がいるって言っていた者がいてね」

「出来れば、その子達を探してほしいんだ。もしかしたら、まだ隷属術式が残っているかもしれない」


 まあ、そりゃそうなるよね。




 彼等の家を後にし、リラと一緒に宿へ戻る。


 ポルックスは彼等に引き留められたので、置いてきた。旧交を温めるがよい。


 来た道を帰るだけだから問題ないって言ったんだけど、女二人で帰す訳にはいかないってランザさんが言い出した。


「うちの孫を案内役につけるわ。ついでに、護衛役としても」

「え」

「大丈夫だよ、ランザ。うちの主様は、ラーレよりずっとずーっと強いから」


 ポルックス……事実だとしても、ここで言う事か? それ。


『あれは後で締めておきます』


 よろしく、カストル。ポルックスの笑顔が引きつっているけれど、自業自得です。


 結局押し切られ、ラーレ青年と一緒に宿へ戻る事に。私達が別行動をしている間、皆はばらけて首都を巡ってるはず。


 特にユーイン達は、ここでも失踪事件が起こっていないかどうか、街中の声を拾っている最中だ。


 アンドン陛下と王女殿下は……ただの観光かな。別にいいんだよ、彼等はここに来た目的が私達とは違うんだから。それに、二人共王族なんだし。


 無言のまま通りを行く。こちらでも、まだ馬車に頼っているらしい。ただ、首都以外の街でも通りは石で舗装されているし、街道も舗装され、整備が行き届いている。


 こういうところに、国の力は現れるよなあ。


「それにしても、本当にあそこに泊まってるとはな」

「あそこ?」

「あんたらが泊まってる宿だよ。ここでも一、二を争う高級宿じゃねえか」


 ああ、そういう事。


「それは仕方ない。同行者に気を遣う人達がいるので」


 さすがに他国の王族達を、安宿に泊める度胸はないわー。アンドン陛下なら、案外楽しんでくれそうだけど。さすがに王女殿下は読めないね。


 私の言葉に、ラーレ青年は馬鹿にしたような声を上げる。


「はあ? 何だそれ? 王様やお姫様だとか言い出すんじゃねえだろうな?」

「よくわかったね」

「ああ?」


 いや、本当に凄いよ。気を遣う相手って言っただけで、王族と一緒だとわかるなんて。


「君も魔力持ちかな?」

「……だったら、何だよ?」

「もし魔力制御に困る事があったら、声掛けて。いいものがあるから」

「……け!」


 それ以降、ラーレ青年は黙り込んでしまった。といっても、先導してくれた距離は短かったからね。あっという間に宿に着いたし。


「じゃあな」

「ありがとねー」


 返事はない。歩き去る背中を見送って、リラと一緒に宿に戻った。




 宿でベッドに寝転び、今日の話を思い返す。まずは、彼等と同じ血筋の人を探す事。


 その人達は、まだ術式に縛られているかもしれないから。それに、同じ血を引くって事は、魔力持ちだという……事……


「あ!」


 そうだよ! 同じ街でばかり失踪事件があるから、街に問題があるのかと思ったけど、そうじゃない!


 連れ去られた人達に共通項があったんだ! 彼等は、全員ランザさん達同様、うちのご先祖様が関わった術式を継承している人達なのでは!?


 でも、そんな都合のいい話がある? 狭い港街で、全員身寄りがないなんて。


 とはいえ、気になるんだから調べればいい。


「カストル!」

「お側に」


 先ほどまで誰もいなかった部屋の隅に、カストルが立っている。リラは別の部屋だから、驚かせる事もない。


「ランザさんが言っていた、彼女達が把握していない奴隷の血筋、辿れる?」

「今でしたら、何とかなるかと」


 何だ? その含むような言い方は。


「彼等の血筋が散らばっているとわかれば、ドローンを使い、大陸全土に捜索の網を広げます。まだ術式に縛られていれば、さらに探しやすくなるでしょう」


 そういう事か。


「じゃあお願い。後、ネズミを送ったところに、新たな犠牲者が増えていないか、わかる?」

「今のところ何もありません。ただ、ネズミ達を送る前には、虐待行動があったようですね」


 しまった。そっちも急がないと。


「ネズミたちがいい仕事をしています。このまま、実行犯を含め、命令を下した者達を取り押さえますか?」

「……騒動にならない?」

「なるでしょうが、よろしいのではありませんか? 彼等が混乱するのは、ある意味彼等の自業自得です」


 うーん……命令を下した奴らや実行犯に家族がいたとして、いきなり消えたらそりゃ騒動になる。


 でも、そもそも犯罪に手を染めている連中なんだから、それを公表しない代わりに人知れず地下工事現場に放り込んでも、それはそれでありか。


「……この国でも、人身売買に加担した連中は、いるんだよね?」

「オーゼリアではなく、イエルカ大陸のゲンエッダを中心とした国々で加担しようとしていた、が正しいかと」

「結果的にうちが捕縛したから未遂に終わっただけでしょ。同罪同罪」

「そういう事でしたら、後ろを含めて調べ上げ、漏れがないように捕まえてご覧に入れます」


 何だろう? うちの方が悪の組織のような気がしてきたよ?


「気のせいではありませんか?」

「人の考えを読まないの」

「失礼いたしました」


 一礼すると、カストルはその姿を消した。


 これで、人身売買の犠牲者の方は問題ない。後は、失踪事件と遺跡問題か。遺跡は魔法と銃と二つあるから、厄介だね。


 あ、遺跡問題に取りかかる前に、ニエールを呼んでおかないと。あいつ、航海は怠いからやだ、向こうに着いたら移動陣で行くとかぬかしおって。


 まあ、どこまでいってもニエールはニエールだな。


 それに、これから先は彼女がいた方がいい。医療特化のネレイデスもいるけれど、魔法治療に関してはニエールが一番長けている。


 東ではやる事が多いと思ってたけど、まさか追加でこんなにあれこれ出てくるとはなー。


 やっぱり、一度お祓いした方がいいのかしら? でも、自力で浄化、出来るんだけどねえ。

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