第630話 世界共通

 西の大陸でのあれこれは終わった。まだ行ける場所はあるんだけど、一度帰国する事になっている。


 ブラテラダ、ゲンエッダ、タリオイン帝国だけでも、色々と交易出来そうだからいっか。まあ、帝国はもうちょっと頑張ってくれとは思うけれど。


「そういえば、帝国の南側は港として整備するの?」

「するよ。何があるかわからないから」


 グラナダ島の執務室でリラに聞かれたので、答える。タリオイン帝国の南には、山に囲まれた猫の額ほどの土地があるんだよねえ。


 それだけだと港にするのは厳しいから、海水を真水に変えるプラントを建設するのに合わせ、埋め立てをして港を建設中だ。


 うちの大型船が入れるくらいには、でかい港を造るぞー。


「それ、帝国には許可取ってるのよね?」

「一応、書面でね」


 許可を認める書面に、帝国皇帝の直筆サインが入っている。あの新皇帝には、出来るだけ長生きしてほしいね。


 いっその事、毒殺暗殺を回避出来るよう、オケアニスを派遣しよっか。


「オケアニスでしたら、既に送り込んでおります」

「え? そうなの?」

「タリオイン帝国皇宮は、デュバルにとっても大事な場所になりますから」


 さすが有能執事、仕事が早い。


「何二人だけで通じる話をしてるのよ。こっちにも説明して」


 リラが怒ってる。


「だから、念話が出来るように設定するってカストルが言ってるのにー」

「それは嫌」


 もー、我が儘だなあ。




 帝国の南に作る港は、運河クルーズの起点に考えている。後は運河網を使って、帝国内から物資を集める集積所。


 少なくとも、綿花はこの流れで運んでもいいと思ってる。ネレイデスやオケアニスがいるから、移動陣を敷いてもいいんだけどね。


 南の港から船に乗せられた綿花は、どのみちグラナダ島に集められ、そこから移動陣でオーゼリアに送られるんだから。


 綿花栽培に関しては、レネートにお任せだ。ついでに土地の運用とか、周辺での特産品とかを探す仕事も任せている。やる事多いね。頑張れ。


 運河工事の総監督も務めるんだっけ。大変だなあ。


「あ、レネートにリッダベール大公領の運河も増えた事、伝えておかなきゃ」

「え。あそこの運河建設の総監督も、レネートにやらせるの?」


 私の発言に、リラが驚く。いや、運河建設の総監督なんだから、そりゃ国をまたいでも任せるでしょうよ。


「現場監督はまた別で用意するし、全ての進捗を管理するお仕事だから」

「レネート……生きて……」


 縁起でもない事言わないの。




 完全にゲンエッダから引き上げる日が迫ってきた。


「陛下から、送り出しの為の夜会を開きたいと言われているんだけれど」


 サンド様の口から、そんな言葉が飛び出してきた。現在、グラナダ島の陽光館にて、夕食の真っ最中です。


「今迎賓館に残っている人達で出席すればいいんじゃないですかねえ?」

「フェイド陛下からは、レラにも出席してほしいと言われているよ」

「えー? 私、正式な使節団の一員じゃありませんからー」


 何せ、途中まで身分を隠して動いていたからね。それに、そういう面倒そうな場には出たくないでーす。


 私の主張は、無事通った。フェイド陛下の方も、出来れば程度だったらしいよ。


「何せレラは一番の戦功を挙げた者だからね。陛下としても、招待したかったんだろう」

「あー。あれは、半分自分の為にやったようなものですしー」


 旧ゼマスアンドの兵士を前線で眠らせて、片っ端から捕虜にしたんだっけ。戦争が始まるのは仕方ない事とはいえ、人死にが出るのが嫌だったから。


 とはいえ、捕虜になった人間もそれなり苦労はしたようだけど。特に犯罪者から兵士になった連中。


 今頃は他の者達と一緒に、健全な地下工事現場で汗を流している事でしょう。これからまたお仲間も増えるし、頑張ってもらおうか。




 サンド様とシーラ様始め、迎賓館に残った人達で夜会に参加してもらい、これにてゲンエッダとは一旦おさらばだ。また交易関連の人達がこちらに来たり、お互いに大使館を開いたりするだろうけど、その時はまたその時。


 ……オーゼリアの陛下から、大陸間移動用の船を造れとか言われそうだけどね。その場合は、対価をふっかけておこうかな。


 その場合、もちろん土地以外で! これ以上飛び地はいらん。管理大変。


 ……その割に、国外に色々と手に入れた場所があるけれどー。


 そういえば、リューバギーズでも離宮を手に入れたね。


「あちらは、現在結界で覆った後、中身の改修を行っている最中です。今少し、お時間を頂戴いたしたく」

「……いきなり話を振るのはやめようか、カストル。とりあえず、離宮の方も手を入れているのならいいや。特に、あの庭園の様式はしっかり習得するように」

「心得てございます」


 今は執務室にリラがいなくてよかったよ。


 本日、リラはコーニーと一緒にシモダへお出かけ。前回のリッダベール大公ご一行様を招待した話を聞いたら、コーニーが行きたいって言い出したから。


 同行者はヴィル様とイエル卿の旦那連中。ホテルの料理長は総料理長から交代しているけれど、彼女もまた総料理長から合格をもらった料理人だ。


 そう、シモダのホテルの料理長は、女性である。てか、総料理長の下についてる弟子の料理人達、半数は女性だよ。


 貴族の邸で料理人として働いていたのに、様々な理由で紹介状なしの解雇を食らった人達らしい。


 総料理長の課した試験に合格している人達だし、何より総料理長の修業についてこられる人達なので、性別は問題なし。


 私としては当然なんだけど、この考えはかなり珍しいらしいね。でも、デュバルって当主からして女の私だし、その配下も女性が多い。


 なので、女性が働きやすい環境が整ってます。逆に、男性はやりづらい人が多いかもしれないけれど。


 そこも役割分担とか、割り切れる人達に来てもらってるから。女性上司に文句言うような心得違いな奴は採用しません。




 ヘレネが海賊狩りを終え、大陸間の海に平和が訪れた……らしい。


「まさか、本当に根絶するとは」

「まあ、あまり巨大組織になっていたところはありませんからねえ」


 大陸にへばりつくようにして、沖の小島とかに隠れ住んでいた海賊達は、アジトも潰され、帰る場所をなくし、今では地下工事現場で健全なお仕事に就いているそうだ。


「アジトにお宝とか、あった?」

「あるところもありました。大半は金貨ですね」

「よし、それはこれからの領地及び飛び地その他の開発費に回して」

「承知いたしました」


 臨時収入が入ったから、頑張ってあちこち開発しなくちゃ。




 ヘレネが海賊討伐を終えたという事は、そろそろオーゼリアに船が戻るという事。


 これは、サンド様にもご報告しておかないとね。


「という訳で、いつでも船はブルカーノ島に戻れます」

「そうか。いや、今回の西行きは長かったねえ」

「ですねえ」


 サンド様がいるのは、陽光館の客間の一つ。本日、シーラ様は月光館にて行われる奥様方のお茶会に招かれているらしい。


 奥様方も、そろそろ帰国する時期だと思っているようで、最後に同じ使節団内で、女性同士の結束を固めようという腹づもりのようだ。


 とはいえ、ここまで同じ苦労を越えてきた仲。他よりも絆は強く深いんじゃないかなあ。


「ともかく、帰国時期が決まったのなら、王宮に報せておかないとならないね」

「そうですね。という訳で、サンド様、よろしくお願いします」

「レラは相変わらずだなあ」


 人間、そんな簡単に変わりませんって。




 明日、船がブルカーノ島に到着するというタイミングで、月光館やその他島の別荘に点在していた使節団の方々を一度グラナダ島に集め、昼食会を開く。


 主宰者はサンド様。なので、挨拶もサンド様。よろしくお願いします。


「皆さん、長きに渡る西大陸での行動も、これが最後となります。この後、船に戻り一夜明ければ懐かしき故国です。今夜はこれまでの苦労をお互いに労いつつ、楽しく過ごしましょう」


 拍手が起こって、昼食会開始。料理を作ったのは、当然うちの総料理長だ。


 しかも、シモダで腕を振るった際に魚介の面白さに目覚めたらしく、グラナダ島の近海の魚介を強請られてしまいましたとも。


 でも、それでおいしい食事が食べられるのなら、お安いご用さ。


 カストルにお願いして、魚に貝にエビなどを用意してもらい。それで料理を作ってもらった。


 場所が違えば、同じ魚や貝、エビでも大分変わるもんだね。でも、総じておいしいのでいい。


 美味しいは、世界共通の正義なのだ。

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