第577話 浄化連発
何とか男爵家の三男坊にして、瘴気使いの彼。その力を利用し、周辺諸国へ戦争を仕掛け、混乱に陥れようとした人物がいる。
それは、誰なのか。
「あんたに瘴気を使って目的を達成させようと唆したのは、誰?」
うるさい! どうして、どうして僕の力が通用しないんだ!!
瘴気が通じなくて焦る親玉。いやあ、意思が乗ると魔法と同じように防御出来るってのも面白い。
『瘴気は、魔法より使用者の感情に影響を受けやすい力のようです』
そうなんだ。だから、親玉が私達に攻撃の意思を見せてからの方が、防げているって訳か。
それがわからないから、親玉の方は焦って瘴気を使いまくって……って、それじゃ国民の命を犠牲にしちゃうじゃない!
『緊急ですが、この王宮そのものを結界で囲いました。おそらく、これで外の人間から生気を吸い取る事が出来なくなるはずです』
おお! さすが有能執事。仕事が早い。
『ですが、これですと結界内から瘴気が逃げ出さず、彼は放った瘴気を何度も取り込み、使う事が可能です』
どういう事?
『この結界内にいる限り、あちらは息切れしないと思ってもらって間違いはないかと』
おおう、何て事。外から新たに取り込む事は出来ないけれど、結界内では瘴気も拡散しないので、それを再び取り込んで使いたい放題って事か。
『ですので、結界内の瘴気を片っ端から浄化してしまいましょう』
あ、その手があった。
『いっぺんに浄化してしまうと、敵が瞬殺されてしまいます。加減して少しずつ削っていくのがいいでしょう』
まだ聞き出したい情報があるからね。
私は、カストルとの念話の内容をヴィル様に伝えた。
「加減か……出来るのか? レラ」
う。それが一番問題だよねえ。高出力にするのはいくらでも出来るんだけど、力を絞るのって苦手なんだよな……
「ゾーセノット伯。提案があります」
「何だ?」
カストルが、ヴィル様に何やら提案があるとか。何?
「今回の為に造った浄化の魔道具、あれを使ってはどうでしょう?」
「しかし、あれはオケアニスとかいうメイド達に持たせたと――」
「予備がございます」
そういえば、不具合を起こした時の為にって、多めに作ったってお世話係の人が言ってたっけ。
「こちらでも、万一の時を考えて確保しておきました。お一人様、五本の計算です」
……何だろう? セール会場の「お一人様〇〇個まで!」とかいうのを思い出したんだけど。
「これを使い、順繰りに浄化をしていってはどうでしょう?」
「確か、一定量の浄化が出来る使い捨ての魔道具だったな」
「はい」
まるで、この状況にあつらえたような仕様だ。いや、別にこんな状況が待っていると読んだ訳じゃないけれど。
「それ、俺でも使えるのか?」
半信半疑のミロス殿下に、カストルがいい笑顔で答える。
「使えます。魔法が使えない方でも、簡単に浄化ができる道具ですので」
「じゃあ、私も?」
「もちろんですよ、エヴリラ様」
あ、リラがちょっと嬉しそう。魔力はあるのに魔法が使えない特殊体質だからかな?
「レラ一人に使わせるのも、あれよね。それに、魔道具でも、レラが使ったら高出力になりそうだし」
コーニー、君の中の私像って、どうなってるの?
「コーニーの意見はもっともだな。では、魔道具は我々が使うという事で」
ヴィル様までー!
いじける私を余所に、さくさくとあれこれ決まっていく。
「では、ゾーセノット伯から順に魔道具を起動していってください。起動方法は、お手元のスイッチを押すだけです」
魔道具の説明を終え、私以外の全員が浄化の魔道具……杖を手にした。一人頭五本。あれって、私抜きの数だったんだね……
ヴィル様が杖を構えて、親玉に向け浄化開始。杖がピカッと光って終了。
うううううう……
でも、効いてるらしい。次はリラ。何だかウキウキして見えるのは、気のせい?
両手で杖を親玉に向けて、ピカッと光らせる。
ぐうううう。
次はユーインかと思いきやコーニー。普通に片手で杖を構えてピカッとな。続けてイエル卿も同じポーズでピカッと。
親玉は、声もなくもだえている。でも、浄化を使われる度に、こちらに黒い瘴気をぶつけてくるね。悪あがきだな。
続いてミロス殿下。半信半疑というのがわかる表情で、杖を構えてスイッチを押した。ピカッと光ったのが不思議なのか、杖の先端を覗き込んでいる。
それ、もう使い終わったのでただのガラクタになってますよー。
最後はユーイン。感慨もなく、杖の先端を親玉に向けてスイッチオン。ピカッと光っておしまい。
な、何故……どうして……こんな……
いや、それを言いたいのは、この国の人達だろうよ。何故瘴気なんて訳わからないもので、死んでいかなきゃならないのか。酷いと、瘴気が原因とも知らずに、徐々に弱って意識を失ったかも。
道や王宮で倒れていたのは大人ばかりだったけれど、どこかの家では子供が倒れているかもしれない。いつかの村で見たように。
それを考えたら、親玉が苦しんでいるのは自業自得だ。
同情する部分もあるけれど、だからといって、この結果を引き起こしていいはずがない。
全員が割り当てられた杖を使い切る頃、やっと玉座の間が少し明るくなった。
そして、明るくなった場所で見る親玉は、黒い靄がかかった姿。まだ、自分の周囲に瘴気を纏っているらしい。
彼は瘴気が薄くなると苦しくなるようで、喘鳴がここまで聞こえてくる。
お前……達は、何者だ? 何故、こんな事を……
「何故だと? それは、こちらが聞きたい。何故、瘴気を操り、周辺国に騒動を起こした?」
ヴィル様が淡々と問いただす。
騒……動……
「この国の中央公を、戦争に反対したからと言う理由だけで殺し、その首を呪いを掛ける為にゲンエッダに放置しただろうが!」
ミロス殿下は、自分の国を瘴気で穢されたからか、怒りの感情が言葉に乗っている。
知らない……そんな事……
「嘘を吐くな!」
飛び出しそうなミロス殿下を、魔法で止める。がたいのいい男性を物理的に止める事なんて、か弱い私には出来ないからね。
てか、多分彼は嘘は吐いていない。本当に、戦争だの何だのは知らないんだろう。
「あなたに、瘴気を使って復讐をするように言ったのは、誰?」
高確率で、唆した奴が黒幕だ。
親玉は、私の質問に答えない。なら、ちょーっと強い浄化、いっちゃうよ?
『主様、少しお待ちを』
カストル、何故止める?
『私に案がございます』
何するつもりだろう。
そのまま待ってみたら、カストルは動かないけれど、親玉の周囲で瘴気が渦巻いていく。何あれ。
「また、こちらに攻撃を仕掛けて来る気か!?」
「お待ちを、殿下。あれはこちらからの働きかけで動いているものです」
「何だと?」
え? カストル、いつの間に瘴気を操れるようになったの?
皆と一緒に驚いていると、渦巻く瘴気が親玉を包んでいく。でも不思議な事に、渦の中で親玉が苦しみ出した。
やめろ……嫌だ……!
「……カストル、あれ、何やってるの?」
「瘴気に、こちらの魔力を混ぜて奴に吸収させています」
え? どういう事?
「詳しい説明はまた後で。今は、私が放った魔力を瘴気と共に敵が吸収していると理解してください」
カストルの魔力を親玉が吸収すると、何が起こるんだろう?
疑問に思ったけれど、口には出さずに苦しむ親玉を見ていた。
助けて……ばあや……助けて……スイド様……
スイド? それが、黒幕の名前?
カストルを見るも、冷淡な瞳で親玉を見つめるばかり。
やがて、カストルの口から短い溜息が漏れた。
「おおよその事はわかりました。そろそろ、最後の仕上げをしてもよさそうです」
いや、何がどうなってるんだってば。
こちらが何を聞きたいのかわかっているだろうに、カストルは満面の笑みで私に頼んでくる。
「主様、全力の浄化をお願いしてもよろしいですか?」
「……その前に、少しは説明しようとか思わないの?」
「そうですね……黒幕は、既に命を落としています。瘴気に呑まれたようです」
何だってー!?
「小物でしたが、彼の瘴気を操る能力を見て、夢を見たのでしょう。力が足りず、中途半端になったのもその為です」
お、おう。って事は、後は親玉さえどうにかすれば、この一連の瘴気問題は解決って事でいいのかな?
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