第572話 元凶の国へ
帝都からグラナダ島へ戻り、諸々を留守番組に報告。
「レラ……」
「あんたはまた……」
あれ? 何でコーニーとリラが頭を抱えてるの?
「レラはあれよね。やりたい事が見つかると、他が見えなくなるのよね」
「その結果、自分で自分の首を絞めるんだから、自業自得というか」
あれー?
「まあいいわ。私達は、このままここで待機でいいのかしら?」
「うん、国境の封鎖が解除されるまで、三日くらいかかるっていうから」
「ああ、通達が行くまで、それくらい掛かるのね。本当、こういう時は各国に通信機があればいいのにって思うわ」
まあねえ。でもあれ、旧型でも結構なお値段するし。
「代わりと言っては何だけど、カード型のお報せくんを置いてきた」
「ああ、あれ? 子供のおもちゃじゃない」
「その前に、ネーミングセンス……」
うるさいよ、リラ。わかりやすくていいじゃない。
「子供のおもちゃでも、距離に依存しないから使えると思って」
「確かに。でもあれ、相手側のカードを折った事がわかる程度じゃなかった?」
「うん、だから国境封鎖解除がわかった時点で折ってもらう手筈になってる」
「なるほど」
あのカード、子供達は色々工夫して使ってるんだよね。集団でのかくれんぼとか、鬼ごっことかで。
あれ、使い方と数によっては暗号に使えるんじゃないかなーと常々思ってるんだけど。
ただ、オーゼリア国内だと、あれを使う利点が少ないんだ。魔法を使った伝達方法がたくさんある国だから。
ただ、こっちの国だとどうかな。それに気付く人が出て来たら、大量に欲しがられるかもね。
カード型のお報せくんは、国境への伝達を請け負った者が持たされたらしい。三日と半日後、カードが折れた。
「国境封鎖、解除されたようです」
「よし。では、行くか」
いよいよブラテラダかあ。……あれ? 何か忘れているような。
「そういえば、帝都にもらう邸って、いつ受け渡しするの?」
「それだ!」
リラの質問に、忘れていた事を思い出す。もー、新帝陛下ももうちょっと考えてよねー。
「どうしよう。さすがにオケアニス単体で皇宮へ行かせる訳にもいかないし」
「では、私が行って調整してまいります」
カストルだけで、大丈夫かね? 移動陣ではなく、移動魔法であっという間に皇宮に飛んだけど。
約三十分後、カストルが戻ってきた。
「邸の用意にはまだ時間を要するようです」
「そう。ところで、皇宮にはすんなり入れた?」
「ええ、問題ございません。新帝陛下がお一人でご休憩中に、こっそり忍び寄りましたから」
いや、それ駄目じゃん。相手を驚かせてどうするのよ?
「ですが、驚いたのは一瞬のご様子でしたよ? それと、邸の用意が調いました際の連絡用に、もう一枚お報せくんを渡してきました。事後報告となりますが、よろしかったでしょうか?」
「それはいいけれど……今度からは、コッソリ近寄るのはやめるように」
「承知いたしました」
でないと、新帝陛下がびっくりしすぎて倒れかねない。
帝都の邸だけど、カストルが聞いてきた限りでは、先帝や皇太子、第二皇子が帝都内に持っていた邸のいずれかをくれるつもりらしい。
ただ、過剰な装飾などがあるそうなので、それらを取っ払ったり、内部の清掃をする必要があるので、時間が欲しいそうな。
「そういうのは、こっちでやるんだけどなあ」
「私もそう申し上げましたが、何やら見られたくないものもあるようで」
今更見られたくないものって、何だろうね? 先帝達の自撮りならぬ自画像とか? あ、描くのは画家が描くのか。絵の内容が卑猥すぎるとかかね?
「確認して参りましょうか?」
「んー……やめとく。後悔しそうだし」
どうせろくでもない装飾をしていたんだろう。あの先帝達の事だもん。
まあ、向こうがやるって言ってるんだから、ここはおとなしくお任せしておこうか。
仕度が調い、ブラテラダへの出発の時間がきた。ネレイデス達との入れ替わり地点は、国境付近の森の中。人目に付かない場所があるらしい。
「全員、揃ったな?」
ヴィル様のかけ声に、それぞれで応じる。揃ってなくても、後でどうとでも出来るからいいんだけどねー。
私とコーニー、リラは馬車。男性陣は全員人形馬に乗っている。ミロス殿下の顔色が、若干悪いな。寝不足?
「……この状況に、ついていけてないんだと思うわ」
私の呟きを拾ったリラが、遠い目になりながら返してきた。
「ついてこられなくても、ついてきてもらうしかないわよ。ねえ? レラ」
「だよねー。別に、こちらがついてきてほしいって頼んだ訳じゃないんだし」
どっちかっていったら、ゲンエッダ側から押しつけられた人だもん。サンド様を通しているから同行しているのであって、そうじゃなかったら、途中で置いていったかも。
悪い人じゃないんだけどねー。
全員でカストルの移動魔法により、ネレイデス達が待つ森へと移動する。
ここで入れ替わって、国境を越えるのだ。国境の向こうはもうブラテラダ。そのせいか、ここまで瘴気が漂ってきている。
「濃いなー……」
「何が?」
「瘴気。ちょっと、周囲に結界を張っておくよ」
ここから浄化してもいいんだけど、それが元で敵に見つかると、ちょっとね。中途半端にやるよりは、一気に終わらせようと思ってるから。
なるべく、その時まで敵に見つかりたくないんだー。
ただ、国境までこれだけ瘴気が駄々漏れてきてるって事は、これから進む先はもっと酷いって事。
帝国からブラテラダへ抜ける人達はそれなりにいるけれど、彼等の健康被害がちょっと心配。
『長く瘴気の中にいなければ、回復も早いでしょう』
そっか。でも、そうなるとブラテラダで長く瘴気にまみれていた人達って……
『そこまでは、主様が考える必要のない事です』
そう……かな。もっと早く動けていれば、結果が違ったと思うんだけど。
『それでも、主様のせいではありませんよ。こちらに来て、初めて知ったのですから』
……そうだね。
国境を越え、ミロス殿下先導で進む街道は、見事に瘴気まみれだった。
「普通の人には見えないだろうけれど……」
それでも、敏感な人には靄がかかったような景色に見えてるはず。ちなみに、同乗しているコーニーにもリラにも、何も見えないそうな。
「道ばたの植物が、枯れているものが多いのが気になるわね」
「そうですね。雑草ですら茶色い……」
雑草が枯れるレベルって事は、農作物にも影響が出ているはず。この国もゲンエッダから食料を輸入しているはずだけど、だからといって畑で何も作っていないって事はないでしょ。
あー、早く浄化してしまいたい。
ブラテラダでは、なるべく街には寄らずに進むと決めている。
「あの島を知ってしまったら、下手な宿屋には泊まれないだろうよ……」
何故かミロス殿下が疲れた様子で言っていた。気持ちよく過ごせる環境があるのは、いい事だと思うんだけど!
「大体、あの国は瘴気まみれだから、どの街でも長居したくないですよ」
「そうなのか!?」
そこ、驚くところ? ここが瘴気の大本だって、散々言ったのに。
じとりと睨んだら、こちらの考えが伝わったらしい。ミロス殿下が慌てだした。
「いや、瘴気の親玉がいるってのは聞いたが、国全体に広げているとは思ってなかったし!」
「親玉にとって、親も王家も国も丸ごと恨みの対象なんですよ。それが他国にまで流れ出ちゃってるだけで」
私の言葉に、ミロス殿下がしょげている。
正直、ブラテラダ一国を滅ぼすだけなら、私は最後まで気づけなかったと思う。
親玉が余所の国にまで手を伸ばしたから、瘴気を調べようと思ったんだし、その結果ブラテラダが浮上したってだけ。
親玉の望みは国を滅ぼす事……なんだろうけれど、何か引っかかるものがあるんだよなー。何が引っかかってるのか、自分でもよくわからないんだけど。
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