第565話 ワタシ、アナタ、キライ
新たな襲撃者は、どうやら地方派から差し向けられた連中らしい。
「暗殺の為ではなく、拉致の為に差し向けられたようです」
既に自白魔法を使い、命令した相手と命令内容を聞き出しているそうだ。
それによると、五十人は私達を生きたまま捕らえるよう命じられたんだとか。
「私達を拉致ってどうするつもりだったんだろう?」
「調べますか?」
「うん、お願い」
「承知いたしました。少しお待ちください」
カストルはそう言い残すと、その場で姿を消した。
「という訳で、しばらくは馬車だけで先行させた方がよさそうです」
「安全面を考えたら、そうなるな」
ヴィル様達オーゼリア組はすぐに納得してくれたんだけど、ミロス殿下は一人、またしてもぽかんと口を開けている。
間抜けに見えるから、やめた方がいいと思うんだけど。
「いやいやいや! 誰のせいだと思ってる!!」
「えー? ミロス殿下が好きでやってるだけでしょう?」
「そんな訳あるか!!」
もー。だからあんまり怒ると、頭の血管切れて大変な事になるよ?
とりあえず、ミロス殿下には冷静になる時間が必要だという事で、しばらく別室で頭を冷やしてもらう事にした。
別に、水責めにしてる訳じゃないよ? 一人で考える時間をあげただけ。
「でも、殿下の気持ち、わかるわ……」
オーゼリア組だけになったところで、リラがぽつりとこぼす。
「どういう事?」
「あんたのあれこれに驚き過ぎて、ついていけないって状況」
えー? また私ー? 眉尻が思いっきり下がった顔になっていたら、リラから追撃が。
「普通はね? 五十人もの襲撃者があったら、こっちも何かしらの被害を受けるものなのよ。被害ゼロで襲撃者全員生きたまま捕縛なんて、本当に異常だから。それと! 襲撃者の大本を調べるってのも、普通じゃ出来ないわよ! 相手は地方貴族とはいえ帝国貴族。繋がりなんか一個もない相手じゃない。そんな相手を調べるって、そこも既に普通じゃないのよ」
「でも、出来るんだし」
「そうね。出来るわね。あんたはね。でも、普通じゃないって自覚は持てって話よ」
でもさ、自分が出来る事って、普通だって思うよね? 人間って。
「リラ、そういった事はレラに言っても無意味よ」
「コーネシア様……」
「あなたの言っている事に納得出来て実行出来ているなら、今のデュバルの発展はなかったんじゃないかしら? もっと地味で目立たない領地になっていたと思うわよ? あなた、その方がよかった?」
「……」
リラからの返答はない。よくないって思ってるって事だよね?
なら、私が今のままでもいいって事だな!
「レラは、もう少し自重という言葉の意味を覚えなさい」
「あ、はい」
私までコーニーに怒られた。
「やるなとは言わないわ。便利だし必要な事だから。でも、それを誰の前でやるか。そこはきちんと考えた方がいいわ。私達なら慣れているから問題ないけれど、慣れていない人の前でやるから、殿下のような結果になるのよ」
「じゃあ、ミロス殿下の前では何も言わない方がよかったの?」
「全部終わってから、事後報告した方がよかったんじゃない? 方法は伏せておけばいいんだもの」
なるほど。全てを開示する必要はないって訳か。よし、学習した! 次からは大丈夫!
グラナダ島には、運動用にいくつか施設が作られている。温泉街周辺でも好評だったフィールドアスレチック……アドベンチャーパークも作った。
ただし、こちらは全天候型。つまり、建物の中に作ってあるのだ。
「アーアアー!」
声を出しながら、長目のジップラインを楽しむ。これも、コースの中に組み込まれてるんだ。
「レラのあの声、何の真似かしら?」
「えー、大型のサルか何かじゃないですかねー?」
失礼だな! ジャングルの王者の真似だぞ! こういう時には、声を出すのがお約束でしょうが!
ここで少し運動すれば、コーニーのストレスも発散出来るかと思い、一緒に回っているのだ。
無論、私のストレス発散もある。一緒に来てるのは、女子組に加えて旦那組からはユーインとイエル卿。
ヴィル様はミロス殿下とまたしてもお話し合い。今後の事かもね。
カストルには、調査内容を二人に先に報告するように伝えてある。作戦などを立てるのは、ヴィル様の仕事だから。殿下はおまけかな。
一通りコースを回り終わる頃には、結構汗をかいていた。この後、大浴場で汗を流して昼食だ。今日は何が出るかなあ。
身支度を調えて食堂に行くと、ヴィル様とミロス殿下が既にいた。何やら、二人共眉間に皺を寄せている。
「二人して難しい顔をなさって。何かありましたの? 兄様」
「帝国側が、厄介な事を仕掛けてきた」
なぬ? 厄介な事?
話は、昼食を取ってから詳しく!
ヴィル様によると、帝国の二大派閥達も大分しびれを切らしているという。
「その結果が、先日の五十人の襲撃者だったらしい」
「あれが、何か?」
「襲撃者の中に、部隊長として中央貴族の子息が紛れ込んでいたようだ」
「え……」
何それ。あれ? でも、五十人の襲撃者の方は、地方派が送り込んできたはずだよね?
「……中央派が、自分のところの厄介ものを地方派のところへ送っていたそうだ。で、その厄介ものが地方派の足を引っ張るもよし、地方派が暴発して厄介ものを始末してもよし。始末した場合、それを口実に地方派を一網打尽にする予定だったらしい」
わー、権力闘争ー。
「で、地方派はそんな厄介ものを、俺達の襲撃に加えた訳だ」
イエル卿の皮肉な言い方に、ヴィル様がちょっと片眉を上げた。
「そうなる。襲撃者達は、表向き不審者の捕縛に出たという形になっているらしい」
「面倒な奴を俺達に始末させて、地方派と中央派の怒りを集約するつもりだったのかな?」
「もしくは、そう見せかける為か」
面倒くせー。内部でやり合うのは勝手だけど、こっちまで巻き込むなよなー。
「レラ、五十人の襲撃者は今どうしている?」
「一応、孤島の一つに幽閉中です」
とりあえず、衣食住は最低限でも用意してあるから、生きてはいるはず。
「いざとなったら、そいつらを地方貴族に突っ返すか」
「えー? うちの労働力なのにー」
「諦めろ。それと、地方と中央が一時的とはいえ手を組んだ事で、ちょっと厄介な事になっている」
厄介な事って、中央貴族の厄介ものが襲撃者に紛れているって話じゃなかったんだ。
「どうやら、我々を帝国から出さない為に、国境を封鎖したらしい」
何ですとー?
帝国は、何が何でもミロス殿下の身柄を押さえたいらしい。
「それって、ミロス殿下が帝国内を放浪しまくったから?」
「そうではない。殿下は、ゲンエッダ国内で王太子殿下の右腕と目されているんだ」
「えー……」
思わず疑いの目で見たら、殿下が居心地悪そうにしている。そして、私にはヴィル様からのげんこつが。痛いー。
「失礼だろうが。帝国としては、ゲンエッダに攻め込む口実もほしいし、ゲンエッダの弱体化も望ましい。だからこそ、ミロス殿下の身柄を押さえたいんだ」
「王国に対する人質って訳ですか」
「そうなる」
ちらりとミロス殿下を見ると、驚いた顔でこっちを見ている。何で?
ただ、これまでにも驚く事が多かったからか、そろそろ耐性が付いたらしい。すぐに調子を取り戻した。
「帝国の連中は読み間違えているな。王太子殿下は、私一人と国を天秤に掛けるような事はなさらない。王となるべき方なのだから」
「王となるべき方なら、余計に殿下を見捨てては駄目でしょう。もっとも、私達が一緒にいる以上、殿下の身の安全は保証しますけど」
あれ? また殿下が驚いているよ? 何で?
ていうか、そろそろ帝国に対するヘイトがかなり溜まっているんですが。
「ヴィル様、帝国、潰しちゃっていいですか?」
私の申し出に、やっぱりミロス殿下だけが驚いてる。まあ、そうだよねえ。
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