第560話 楽々道中
グラナダ島での朝は清々しい。
「うーん、今日もいい天気ー」
とはいえ、帝国の方もいい天気かどうかはわからない。カストルが監視してるはずだから、そっちに聞けばいいのか。
『珍しいくらいの曇天ですね』
あ、そうなんだ。そういや、帝国では雨が少ないって言ってたっけ。
『冬場には雪が降りますが、それ以外の季節ではほぼ雨は降りません』
フロトマーロとはまた違う意味で、乾燥地帯なんだとか。海が近ければ、色々とやりようはあったんだけどねー。フロトマーロみたいに。
『その他の報告も、今してしまってよろしいですか?』
何かあった?
『ゲンエッダの第三王子ですが、刺客に襲われそうになりました』
マジで?
『主様に言われてはいませんが、一応こちらで監視していましたので、襲撃者が確定した時点で捕縛しました。全部で十人です』
多いね。
『第三王子は武人としても有名です。それに、帝国を放浪していた時期、あちこちでならず者を捕まえた実績がありますから』
何その水戸黄門。
『いえ、実力で賞金首を捕まえたんです。金稼ぎが目的ですね』
賞金稼ぎかよー。本当に王族なの? あの人。
『間違いありません。現在王族として存在する者の中には、王の血筋ではない者も含まれていますが、彼は王の実子です』
待って。怖い情報が聞こえたんですが。それって、托卵って事?
『側室の一人が、密通をしたようですね。相手は実家に仕えている護衛騎士のようです』
おうふ。これ、サンド様に教えた方がいいかなあ。
『では、側室と王の子ではないのに王子、王女と名乗っている者達の名を記載した手紙を、アスプザット侯爵閣下の枕元に置いておきましょう』
いや、普通に本人に手渡しなよ。何で枕元に置くのさ。
『……その方が、いいかと思いまして』
その間は何だその間は。
『それと、テントの方にも襲撃者が来ました』
もう、帝国って襲撃者しかいないのかな……
『総勢二十人です』
襲撃者にしちゃあ、結構な大所帯じゃない? 普通、二、三人、多くても五、六人だと思うんだけど。
『もしかしたら、殺すのが目的ではなく、第三王子に対する人質の意味があったのかもしれません』
大人数で一挙に制圧するつもりだった訳か。自白魔法は?
『これからです』
んじゃ、尋問よろしく。目的がわかったら、その時点で教えて。
『承知いたしました』
朝っぱらから、重い話を聞いちゃったなあ……
朝食の席で、カストルからの情報を共有する。
「王家に、他者の血が入っているだと?」
「ええ。この事は、カストルがサンド様にお報せするそうです」
「そうか……」
ヴィル様にとっても、他人事には思えないようだ。今は離れているけれど、ヴィル様って陛下の側近中の側近だからね。
もっとも、オーゼリアには側室制度はない。ロア様も、ご出身が王家の血を引く公爵家だからか、王家に嫁ぐという意味をご存知だ。
大体、あの夫婦は仲がいいから、他者が入り込む隙なんてないしね。
「ゲンエッダの王家やその周辺に関しては、父上達にお任せしておけば問題ない。我々は目の前の事を着実にこなしていこう」
そうですね。私だけでなく、その場の全員が頷く。
「ローサ氏を狙った連中も、レラのところで捕縛しているのか?」
「そのようです。一応、自白魔法で洗いざらい喋らせる予定ですけれど」
「あれか。なら、問題はないな。結果はこちらにも知らせてくれ」
「了解です」
情報共有、大事。でないと、またリラに怒られる。
仕度を調えて、全員で帝国へ戻る。テントの周囲は、何もない。カストルが全部綺麗に掃除しておいてくれたようだ。
「テントを回収して、馬車と馬を出してくれ」
「はーい」
収納魔法を使っているのは、基本私。一番魔力が多いからねー。個別で動く時には、それぞれ持つようにしてるけれど、基本は私が持つ。
テントを収納し、馬車と人形馬を出す。馬車を引くのが二頭、後はそれぞれ乗るように四頭。
「コーニーも馬車でいいの?」
「いいわ。この国、何だか埃っぽいんだもの」
そうだね。乾燥してるからかも。
それぞれ馬車や馬に乗り、街へ向かう。入り口の門付近で、第三王子と待ち合わせだ。あ、いた。
「おおい! ここだここ!」
門の辺りは、もう人でごった返している。そことは別に、脇の方にも人が集まってるね。何だろう?
「あの人だかりは何だ?」
「ああ、あれが昨日言った日雇いの仕事をもらえる場所だよ。街中で受けた仕事を、ああやって割り振ってるんだ」
下請けから孫請けに仕事を出すようなものかね。手数料、中抜きしてるんだな? どこも世知辛いのう。
再び第三王子先導で帝国を行く。右手に山脈、左手に荒野。何とももの悲しい光景だなあ。
「目に優しくないわね」
コーニーもそうそうに飽きたらしい。何なら、移動中は島にでも行ってる?
「一人じゃ嫌だわ」
「じゃあリラも付けるよ」
「ちょっと!」
拒否は認めません。コーニーにストレス溜められる方が面倒だわ。
私の提案に、コーニーがいい笑顔で返してきた。
「どうせなら、三人で行きましょうよ」
「そうなると、馬車が空っぽになるんだけど」
「いいんじゃない?」
いいのか? ……いっか。
馬車の中から、直接カストルにグラナダ島に送ってもらった。おお、日差しが眩しい。
「ああ、いい天気。やっぱり日差しがあるのはいいわねえ」
帝国は曇天だったからなあ。天気が悪いと、気も滅入る。
グラナダ島はカストルが気合いを入れて改造した結果、もの凄く広くなった。
今私達がいる領主館周辺も広いけれど、商業区画や倉庫街なども離れた場所にあり、そちらも広く作ってあるらしい。
そういや、金貸しに狙われていた女の子をここに連れてきてるはずだけど、その後どうなったんだろう?
『現在は、元の家で家族と共に過ごしています』
あ、そうなの? 魔力持ちじゃなかったっけ?
『こちらで簡易検査を行ったのですが、エヴリラ様と似た体質のようです』
つまり、術式を展開出来ないって事?
『はい。ですので、ここに留め置くよりは、家族の元へ戻した方がいいと判断しました』
そっか。いい判断だよ。
『恐れ入ります』
にしても、リラのような体質の子が、他にもいたなんて。
『顕在化していないだけで、探せばいるのかもしれません』
オーゼリア国内なら、そういう人向けの魔道具を作るのも、手かもね。今売ってる魔道具って、魔力結晶付きだからそれなりのお値段になるし。
もし自分の魔力を動力源に使えるのなら、その分安く出来るんじゃないかな。
『その辺りは、分室と相談が必要になります』
今度戻ったら、ニエールに相談してみようっと。それはそうと、浄化の魔道具の方は出来上がったの?
『狭い範囲専用でしたら、既に出来上がっていて量産に入っております』
そっか。
『ニエール様は、その後も広範囲用のものを研究なさっておいでです』
まあ、ニエールだしね。一旦手を付けた以上、納得いくまでやるでしょうよ。
グラナダ島で思い思いに過ごした私達は、休憩に入る馬車の中へ戻った。これでまた走り出したら、グラナダ島へ戻る。行ったり来たりだなあ。
休憩地は、どこかの村の近くらしい。
「あの村で水をもらってくるか」
小さな村を見て、通りすがりの第三王子が呟く。それを聞いていたヴィル様が、馬車の後方を見た。
「水なら手持ちのものがあるが?」
「え? 大丈夫か?」
「……何がだ?」
「いや、この先ブラテラダに入るまで、長いぞ?」
「問題ないだろう?」
馬車に積んである水が入った樽は、ただの見せかけ。本当は収納魔法の中に、水が入った容器を入れてあるんだよね。
それを気取られないように出しているので、水が足りなくなる事はない。しかも、毎日グラナダ島で補充してるし。
ただ、これをここで言ってしまっていいものかどうか。色々、オーゼリアの魔法技術が関わってるからさー。
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