第557話 コーニー怖い
野営地を無事出立し、ただいま馬車の中。
「酷い目に遭った……」
私が回復魔法を使えるからいいけれど、これで使えなかったら大変だったんだからね!
じろりとコーニーを見るも、本人は不満を隠していない。
「レラが悪いのよ」
「何でさ!」
「騒動から逃げるんだもの。あそこは、テントを襲撃しようとした連中を眠らせたって、ちゃんと言うべきところでしょ!」
いや、そんな事していたら、今頃まだ野営地を出立出来なかったよ。
「何弱い子ぶっちゃてるのよ。心得違いをした連中は、ギッチギチに締め上げるべきだわ!」
「自分が騒動に飢えてるからって、私を矢面に立たすなあああああ!」
本当にね。そんなにフラストレーション溜まってるなら、イエル卿と一緒に馬に乗ってきなさいよ。体動かせば違うから。
そう言っても、コーニーは口をとんがらかすだけ。
「だって、ここ寒いんだもの」
そういや、コーニーは寒いの嫌いだったね。
催眠光線で眠らされた襲撃者達は、三日後くらいに目を覚ます予定だ。それまでは、仲間が荷馬車に放り込んで運ぶらしいよ。
目覚まし用の魔法を使えば簡単に起こせるけれど、催眠光線を使われた理由が理由だからなー。
連中、コーニー目当てにテントに侵入しようとしたらしい。連れ出して、野営地の外で……これ以上はカストルから聞かなかった。
あのままひねり潰したい衝動に駆られたけれど、カストルが一足先にちょっとした仕掛けをしたと聞いたのでやめた。
何でも、今後似たような事をしようとする度に、とある箇所が痛むらしいよ。それも、かなりの激痛が走るんだって。
ああいった連中は動物と一緒だから、同じ場面で痛みがあれば条件反射として体が覚えるからだって。
まあ、他人の尊厳を踏みにじろうとする輩だ。動物扱いされてカストルの実験台になるのも、いいでしょうよ。
馬車はまた外を見渡せるようにした。少しはコーニーの鬱屈も消えるといいんだけど。でないと、また私の肋骨が悲鳴を上げる羽目に!
山道はまだまだ上り状態で、通り過ぎる景色はまだ緑が多い。常緑樹かな? ここから見える山の頂上付近は白いから、万年雪があるのかも。
山道では、三箇所の野営地で野営する。一箇所は三人の襲撃者がいたところで、二箇所目は山頂付近だ。つまり、とても寒い。
「冷え込むなあ……」
一人用のテントを設営している通りすがりの第三王子が、ぼやいているのが聞こえる。
こんなところで凍え死んでも困るから、第三王子のテント周辺にも結界を張って、気温の低下を防いでおこう。
一応、彼は防寒着だの何だのは持ってきてるようだけど。
「ところで、そっちは大分薄着だけれど、夜は大丈夫なのか?」
「問題ない。小型の暖房器具を持ってきている」
通りすがりの第三王子に聞かれたので、ヴィル様が答えた。嘘だけど。
テントの中にはネレイデスのみが残り、私達は過ごしやすいグラナダ島で夜明かしするからね。
テント自体、結界で覆って冷気が入り込まないようにするし、ネレイデスは体温調節の魔法が使えるそうだ。
戦闘能力はないけれど、有能なのは間違いないのだよ。
テントの設営が終わって中に入る。今回の野営地、使うのは私達だけらしい。
「先の野営地で見たからわかっていると思うが、こちらのテントには近づかないように。でないと、真夜中に外で寝る事になって、凍死するぞ」
「おお、怖。絶対近寄らねえよ」
そうしてくれたまえ。私も、間接的にゲンエッダの王族を死なせたくないし。
グラナダ島では、コーニーが鬱憤晴らしにヴィル様に剣で挑んでいた。
「兄様! 勝負よ!」
場所は邸の中庭。石敷で、何もない広々としたスペースがあるんだ。ここ、何の為に造ったんだろう?
コーニーに挑まれたヴィル様は、愛用の剣をすらりと抜く。
「いいだろう。負けたらおとなしく馬車に乗ってるんだぞ?」
「最初から負けるって決めつけないでよ、ね!」
あっという間に剣同士がぶつかり合う音が、辺りに響き渡った。
コーニーは早くてトリッキーな剣。ヴィル様は重くて硬い剣。どっちがより強いかはわからないけれど、力押しならヴィル様が勝つかなあ。
ともかく、これで少しはコーニーの鬱憤が晴れるといいんだけど。
そのまま中庭に二人を残して、私はリラと一緒にその場を後にした。
「まずはお風呂ー」
「そうね。あそこ、寒かったから」
リラは足下が寒いらしい。グラナダ島は比較的暖かい場所だけれど、山道で冷えたからね。
デュバルの別荘には、全て大浴場が完備されている。大きな浴槽に、肌にいい薬草を入れたお湯や、ジェットバスや冷浴用の浴槽も完備。
疲労回復も魔法で簡単に出来るから、いらないっちゃいらないんだけどね。でもお風呂は心も癒やしてくれるから。
座りっぱなしで凝り固まった腰や足を、ジェットバスでもみほぐす。あー、極楽極楽。
そういや、うちの温泉街にはマッサージを得意とするネレイデスもいたっけ。今度出張でこっちに来てもらおうかなー。
「あー、負けた負けたー」
のんびり長湯をしていたら、コーニーがやってきた。本人も言っているように、ヴィル様に負けたらしい。
「コーニー、お疲れー」
「うん。まあ、いつもの事よね」
そうなんだよねえ。ヴィル様、子供の頃から勝負事には手を抜かない人なのだ。
たとえ相手が弟妹であっても、絶対勝ちを譲ったりしない。「勝つなら実力で勝て」というのが、ヴィル様の言。
「ヴィル様は長男だから、妹には負けられないってのもあるんじゃない?」
「そうかも。私だって、兄様に譲ってもらった勝ちなんて、いらないもの」
こういうところ、コーニーもペイロンの血筋だよなあ。
お風呂上がりに冷たいコーヒー牛乳を飲んで、美味しい夕食を食べて、しっかり眠る。翌日には、疲れは微塵も残っていない。
グラナダ島の邸で朝食を食べてから、山道のテントへと移動。いやあ、快適快適。
快適でないのは、通りすがりの第三王子だけだな。
「……あんたらは、何でそんな元気なんだ?」
「さあな」
答え。よく食べよく飲みよく眠るからでーす。後、お風呂も大事だよ。
さすがに野営二日目でちょっとくたびれモードに見えたので、いよいよとなったらヴィル様に許可をもらってから回復魔法を使うかな。
それにしても、山の上は寒いし風も強いね。コーニーがまたしても不機嫌だ。とっとと馬車に乗って出発しよう。
先ほどまでいた場所が頂上付近だったらしく、そこを越えると今度は下り坂が続く。道は相変わらず蛇行していて、気を抜くと酔いそう。
意識して遠くを見るようにしておかないと。
『主様、不審な存在が背後から付いてきてきます』
えー? マジでー? どこからー?
『どうやら、最初の野営地からずっとですね』
って事は、あの隊商全部敵?
『全部……ではありませんが、現在主様方を追いかけているのは、帝国の者達です』
ふうん。
「コーニー、帝国の奴らが後ろからついて来てるって」
「本当? じゃあ、どこかで待ち伏せしてやっちゃう?」
凄い嬉しそうだなあ。リラが青い顔をしているので、もうちょっと押さえてあげて。
「その辺りは、ヴィル様の許可をもらってからね」
「えー? だって、付いてきてるのなら敵でしょう? いいじゃない、さっくりやっちゃえば」
昨日の剣だけでは、色々発散仕切れなかったのかあ……
「とりあえず、休憩で止まったら許可もらおう」
休憩中に襲撃してくるかもしれないし。そうなったら問答無用で叩きのめすだけだな。
今回は、催眠光線を使わないようにしよう。でないと、またコーニーに肋骨をミシミシ言うまで締め上げられそうだもん。
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