第547話 王宮での報告会

 一通りの説明と、サンド様から託された映像記録を見せたら、何故か執務室組の三人が頭を抱えてしまったんだけれど、どういう事?


 でもここで「どうして?」って聞くと、私の身によくない事が起こると思うから、言わない。私は危険を避けられる女だ。


 頭を抱えていた三人が、やっと浮上した頃には、淹れてもらったお茶がすっかり冷めていた。


「……聞きたいのだが」

「何でしょう? 陛下」

「何をどうしたら、無人島を手に入れたり、見知らぬ国の王家が所有する離宮をもらうなんて事になるんだ?」

「えー? それは言ったじゃないですか。リューバギーズの国内に蔓延る瘴気を浄化したのと、国王と王太子……その他数人の呪いを解呪したお礼ですよ。あ、島は途中で見つけて占有しました。だから私のものです」

「島のことはいいとして、普通、そういった事への礼はもう少し即物的なものになると思うのだが?」


 現金とかですよねー。いや、私もそう思ってたんですけどー。


「何故か、王都に邸をくれるって話になって、それが元は王家の離宮でしたってだけですよ」


 ちゃんとそう説明したのになー。何故か陛下もコアド公爵も学院長……元学院長も、揃って深い溜息を吐いてるんだけど。


「侯爵、通常、王家の離宮というものは、庶民に下げ渡すものではない」

「そう……ですね」


 元学院長の言葉は、私も理解出来る。王家所有の物件なんて、そう簡単に個人に渡すもんじゃない。


 民衆に広く開放して、公園にするくらいじゃないかなあ。後は、功績のある臣下に褒美として渡すくらい? それだって、臣下ってくらいだから貴族が中心だよね。


 ……あれ? あの離宮もらったのって、そんなにあり得ない事だった?


「リューバギーズとやらの王家は、侯爵の正体に気付いているのではないか?」

「え!? でも、私はちゃんと庶民の格好してましたよ?」


 量産型のブラウスにスカートだ。装飾も少なく、大変実用的でいい服だよ。


「アスプザット侯爵と、気安く接していたんじゃないかな?」

「だって、それは、サンド様縁の娘って事にしてましたし」


 コアド公爵も、変な事を聞くね。縁があるんだから、そりゃ気安くてもいいでしょうよ。


「これは……ペイロンで育った弊害ですかねえ?」

「ああ、なるほど」

「ルメスの言う通りかもしれんな」


 何で三人だけで通じているような話をしてるんですかねえ?


「お三方とも。問題はそこではないのではありませんか?」


 のんびり横から口を出したのは、じいちゃんだ。一時期は息子や孫があれこれやらかしたのですっかり意気消沈していたけれど、兄が家を継いで一緒に生活するようになってから、大分元気になったって聞いてる。


 元気なのはいい事だよねー。


「ラケラル卿。これも十分問題だと思うのだが?」

「いえいえ、リューバギーズとやらの王家が、孫娘を正しく評価していたのなら、離宮の一つや二つで引き留めようとしても、不思議はありますまい」

「引き留める? この侯爵をか?」


 ちょっと陛下。「この」ってどういう意味ですか「この」って。


「あちらは孫娘がどういう者か、よくわかっていないのでは? いや、儂自身離れて暮らしておりました故、よく知っている訳ではないのですが」


 じいちゃんがしょんぼりしちゃった。じいちゃんが孫の私達を引き取れなかった事を悔いているのが、今の姿からも感じ取れる。それで、陛下達もちょっとじいちゃんに呑まれてる感じ。


「あちらは、浄化や解呪が出来る孫娘を、手元に置いておきたかったのでしょうな。だが、アスプザット侯爵達の手前、置いていけとも言えなかったのでしょう。だから、本当の身分を知らない状態で離宮を贈った」


 ごめん、じいちゃん。いまいち話が見えない。でも、そう思っているのは私だけで、陛下達は何やら納得している。


「あちらでは、瘴気を浄化出来る手段がないのか……」

「あれば、殊更孫娘に執着する事もありますまい。そして、力尽くでどうこうしようとはしない程度の常識は持っている国ですな」

「そんな事をしたら、国が滅ぶぞ」


 陛下ー。さっきからちょいちょい人をディスるの、やめてくださるー?


「この場合、配慮した相手はアスプザット侯爵ではないかと。あちらは孫娘の実力を知りませんし」

「そうか、幸運な事だな」


 そろそろ、暴れていい?




 オーゼリアや近隣諸国で似たような瘴気使いが現れたとしても、聖堂が張り切るだけで害はない。


 でも、西の大陸にはそもそも浄化の技術がないのだ。


「宗教が違うからか?」

「とも、限りますまい。タフェリナや、向こうで魔法もしくは類似の技術を見た事があるかね?」

「……なかった、と、思います」


 あれ? なかったよね?


「こちらの大陸でも、我が国以外にはほとんど魔力を持って生まれてくる者がいないと聞きます」

「それも、不思議な話だな」


 じいちゃんの話を聞いた陛下が、考え込んでいる。


 魔力を持っているかいないかの差に、遺伝子が関係しているのなら、あまり不思議には感じない。


 チェリやアンドン陛下の姉君が珍しいケースなだけで、国をまたいで結婚するという事は、こちらではほぼほぼないんだよね。


 そうなると、オーゼリア……魔力持ちの遺伝子が余所の国に流れる事がない。


 とはいえ、これからガルノバンには魔力持ちの子が生まれるかもね。三男坊が婿に入ったから。


 あ、そういえば三男坊にも子供が出来たって話しだったっけ。まー。そっちはどうでもいっか。私にとっては、兄夫婦のところに生まれる子の方が大事だもん。


「まあ、リューバギーズという国については、これ以上何も出来まい。侯爵、もらったという離宮はどうするんだ?」

「改修して、いつでも使えるようにしようかと」

「……住むのか?」

「いえ、そのうち何かいい用途が見つかれば、使おうかなと思ってます」


 私が住むのは、ヌオーヴォ館か王都邸だよ。そういや、王家からもらった飛び地にも、一つずつ別荘を建てるって、カストルが言っていたっけ。


 誰も出入り出来ない場所にするとか何とか。移動陣を敷いておけば、デュバルからの行き来は楽だもんね。


 それを伝えたら、また三人が頭を抱えちゃったけど。同じ内容を聞いてるはずのじいちゃんは、にこにこと笑っていた。




「それで、今はゲンエッダという国にいるのだったな」

「そうです」


 なかなかおいしい食材を生産している国だ。


「そこにも、瘴気は蔓延っているのか?」

「んー、一部には」

「一部?」

「海洋伯家の当主が呪われていまして、邸には瘴気が蔓延ってましたねえ」


 ただ、海洋伯の領地って海に面しているから、潮風の塩分で簡易浄化がなされるってカストルが言ってたなー。


 確かに、街中には瘴気はなかった。


「また呪いか……それも、例の瘴気使いが原因か?」

「えーと、実際に呪ったのは、多分彼です。でも、依頼したのは海洋伯の息子でして」

「はあ?」

「息子が、父親を殺そうとしたと?」

「そうですね」


 陛下とコアド公爵がお互いに顔を見合わせているけれど、別に珍しい事じゃないよね? 親が我が子を殺そうとする事だってあるし。


 あ、うちも似たようなものかな? 三歳児を早馬という地獄特急便でペイロンに送ったんだから。あれ、よく体力がもったよね……


 おっと、海洋伯家に関しては、補足説明も入れておくか。


「息子にあれこれ吹き込んだのが、悪徳金貸しです。そいつも一緒に恥をかかせたので、社会的に抹殺されたようなものでしょう」

「恥って……何をやったんだ?」

「全裸に剥いて、門のところにくくりつけておいたそうです」

「は?」


 あ、執務室組の声が揃った。てか、表情も揃ってる。さすが親族、こうしてみるとやっぱり似てるんだね。

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