第539話 皆で一緒に
ロダチャーダ森林伯当主は、瘴気の影響か呪いで倒れている。そんな仮説を立て、では実際調べてみようという事になったんだけど。
「嫌」
「どうしても?」
「当たり前でしょ!」
リラに怒られてまーす。ちょっと、一緒に星空の天使にならないかい? って誘っただけなのにー。
ちなみに、コーニーはやる気満々。
「あら、でもこの服、裾が短すぎやしない?」
ポルックスが送ってきた新しい衣装を見て、コーニーが聞いてきた。
「その下に短めのズボンをはくから大丈夫!」
ズボンっていうか、ドロワーズだな。ただし、見せても大丈夫な布で作ってあるやつ。それも衣装の一部だってさ。ポルックス……
「でも、足は出るじゃない」
「素足を出したくないなら、タイツをはくといいよ」
「その手があったわね」
学院の制服でも、そうだったからね。何故か制服だけはスカート丈が短かったんだよなあ。それでも膝丈はあったけど。
今回の新規衣装、ふんわりパニエでスカートを膨らませた魔法少女タイプのもの。しっかり三人分。
それぞれ似通ってはいても、所々デザインを違えているという、手の込んだ品。
ポルックスがデザインして、うちの縫製部に特注って形で作らせたらしいんだ。いつの間に……
しかも、布地や仕込んだ飾り部分にこれでもかと術式が詰められていて、多分魔法が使えないリラが着ても、空を駆けるくらいは出来そうな品。
いや本当に、何をやってんだポルックス。今回はグッジョブだけど。
「リラには特別に、ニエール特製のステッキもつけるよ?」
手に持った星形のヘッドを持つ金色のステッキを見せたら、リラがまたしても爆発した。
「ニエール様に何作らせてんのよあんたは!!」
「いや、作らせたのはポルックスで、話を聞いたニエールはノリノリで作ってたっていうよ?」
「ニエールですものね。その光景が目に浮かぶわ」
私とコーニーの言葉に、それ以上何も言えなくなったのか、リラががっくりと肩を落としている。
「リラ、人間、諦めも必要だよ?」
「諦めたくないいいいいいい」
往生際が悪いなあ、もう。
散々嫌がったリラは、ある条件を突きつけてきた。それは、「旦那連中も衣装を着て参加する事」。リラ、あんたって子は……
「あら、いいじゃない。イエルは喜んで参加してくれると思うわよ?」
そーだよねー。イエル卿だもんねー。ユーインは、私が頼めば渋々でもやってくれそう。ただし、衣装のデザイン次第。
問題は……
「やっぱ、ヴィル様かな?」
「ヴィル兄様よね」
コーニーとの共通見解です。
「とりあえず、三人分の衣装をポルックスに発注しておこう」
「そんなすぐに出来るの?」
「あー……それがー……」
悪ノリしたポルックスが、いつか三人に着せようとこっそり作っていた衣装があるっていうんだよね……
見せてもらったら、どこのアニメのキャラかと言いたくなるようなデザインでした。
詰め襟……というか、立て襟? のダブルブレストのジャケットで、ウエストをベルトで締めるデザイン。丈はロング。これに軍服風の帽子を被って白の手袋を付ける。
似合うだろうけどさ。正義の味方っていうより、悪役じゃね?
「ともかく、二人でヴィル様を説得しよう!」
「それしか手はないわね」
早速行動開始。という事で、まずはユーインとイエル卿に衣装を渡してみる。
「何これ?」
「ロダチャーダ森林伯の邸に潜入する際の変装用衣装」
「……必要なの?」
「コーニーも、着ますよ?」
「よしわかった」
ある意味、イエル卿はチョロくて助かる。さっきまで渋っていたのに、今はコーニーが着る衣装の説明を聞いてきゃっきゃしてるよ。
「ユーインにも、着てほしいんだ」
「……どうしても、着なくては駄目か?」
「うん!」
奥さんのお願い、聞いてくれるよね? そんな願いを込めて見つめていたら、軽い溜息の後に了承の言葉がきた。よし!
「んじゃ、後はヴィル様だけだね」
立ち上がって気合いを入れていると、ユーインからの視線が。
「あいつにも着せるのか?」
「やっぱり、ここまで着たら着せないと!」
一人だけ着ないなんて、許しませんよ。
コーニーと二人でヴィル様のところに行き、衣装の説明をするとたった一言。
「却下だ」
「ちょっと、兄様!」
「大体、そんなものを着る意味がどこにある?」
「正体がわかりにくくなります」
どの衣装にも、認識阻害系の術式が組み込まれているからね。見ている時はしっかりとわかるんだけど、ほんの少しでも離れれば途端にどんな姿をしていたか、思い出せなくなるという。
認識阻害っていうか、記憶するのを邪魔するっていうか。
「だったら、結界で十分だろう?」
わー、正論。
だが、頑なな兄に対して妹は強かった!
「何言ってるのよ兄様。『見えない誰か』より『見える誰か』の方が、敵を攪乱しやすいに決まってるでしょう? だからこそ、普段の私達からはかけ離れた格好をするのだから」
「む……」
お、ヴィル様が押されている!
「ちなみに、ユーインもイエル卿も着るのを了承しましたよー」
「う……」
「ここで拒んでいるのは、兄様だけね。我が儘な兄を持つと、妹は苦労するわあ」
「ぐ……」
「いっそ、衣装を着ない人はここに置いて行くって事にしようか?」
「あらいいわね。なら、私とレラ、イエルとユーイン様の四人で行きましょう」
「待て! お前達だけで行ったら、何をしでかすかわからん!」
「なら、兄様も衣装を着て、監視しについてくればいいのではなくて?」
ヴィル様、陥落。さすがコーニー! 頼りになるう。
ヴィル様が渋々ながらも衣装を着る事を了承した事を告げたら、リラがこの世の終わりみたいな顔になった。
「何で……どうして……ウィンヴィル様なら断ってくれると信じてたのに!」
「はっはっは、甘いなリラ。コーニーに掛かれば、この程度朝飯前なのだよ」
「とはいえ、私も途中までは苦戦したわよ。レラの援護がなければ、厳しかったわ」
「本当? コーニーの役に立ててよかった」
私達がきゃっきゃうふふとやっている中、リラは一人涙に暮れるのであった。
とはいえ、落ち込んでばかりもいられないよ!
「早速衣装合わせしないと! サイズが合わなかったらお直ししてもらわないとならないんだし」
「ああ、そうね。なら、男性陣にも一度着てもらいましょう。おかしなところとかないか、確認しないとね」
「ほら、リラも立った立った」
恨みがましい目で見てもダーメ。条件を出したのは君なんだからね?
着てみたところ、サイズに問題はない。まあ、着替えた姿を鏡で見たら、どこのコスプレだとは思ったけれど。
「コスプレ……」
リラも同じ事を考えたらしい。
「こすぷれ……って、何?」
「ええと……物語の登場人物が着ている衣装を身につけて、なりきる事……かな?」
大分解釈が違っていると思うけれど、とりあえずコーニーが納得するならいいや。
いやしかし。着てみて思うのはスカート短いな! これはドロワーズを見せる丈だからいいのかもしれないけれど。
作中でも、見せまくってたからね。とはいえ、このドロワーズは下着ではなく、衣装の一部。だから、見せてもOKっていうのが、公式の見解だったはず。
全体的には、ゴスロリっぽい感じ。……そういや、昔そういうのを好んで着ていた奴がいたね。
ウエスト部分が編み上げのビスチェタイプのミニワンピに、長袖の上着……上着? ボレロより丈が短いそれを着る。
上着の喉元と両袖、編み上げ部分に小さい高圧縮型魔力結晶がビーズのように縫い付けられていて、様々な術式が入っているようだ。
にしても……
「コーニーのは凶悪だな」
「え? 何が?」
もちろん、胸部装甲が、ですよ。また大きくなったんじゃないの? そろそろシーラ様に並びそうだわ。
そして、リラもなかなか。またこの衣装が、胸元を強調するから余計に。
比べて、己の胸部装甲の薄さよ……
ええい、こうなったら男性陣の衣装合わせを見て笑ってやるうう!
と思って、旦那連中が着替えている部屋に突入したんだけど……
くそう。美形は何着ても美形だな! 笑うどころか見とれちゃったよ!
これに全員、揃いのデザインの仮面を付けて、男性は軍帽っぽい帽子、女性は揃いのリボンを付ければ完成。
あ、リラにはステッキを持たせなきゃ。
「あら、それ可愛いわね。私達のはないの?」
「いやあ、必要ないかと思って」
「アクセサリーの一つとして、揃えましょうよ」
なるほど、これも衣装の一部と思えばいいのか。
ポルックスー。私とコーニーの分のステッキも作れるー?
『もうありますよー。カストル経由で送りますねー』
手回しがいいと言うべきか、何というべきか。
ともかく、これで装備は完成だ。後は森林伯の邸に潜り込んで、真実を暴けばいいだけ!
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