第536話 見逃さないでしょ
リラは有言実行の人。早速ツイーニア嬢とロイド兄ちゃんの「相談の席」を設けたそうな。
「後は玉砕するなり盛大に振られるなりすればいいと思うわ」
「どっちも駄目って事じゃん」
「ストーカーなぞ、『いいお友達でいましょう』と言われてくずおれればいいのよ」
本当に、応援しているのか追い詰めているのか、どっちなんだろう。
とはいえ、二人の事は二人に任せておく以外にない。ロイド兄ちゃんが暴走しないよう、一応の監視の目は置いておくけどね。
言っとくけど、覗き根性じゃないよ? 余所様から預かっている、大事なお嬢さんだからさ。万が一があったら困るじゃない?
ただでさえ、ツイーニア嬢はそっち方面で嫌な思いをしたんだから。
とりあえず、ロイド兄ちゃんが暴走しなければいいだけの話。
ちゃんと自重しなよ? ロイド兄ちゃん。
「自重しない人ナンバーワンが言う事じゃないわね」
「リラが酷い!」
「酷くない。事実です」
えー? 私達のやり取りを見ていたコーニーが笑う。
「本当、エヴリラが側にいてくれて、レラはよかったわね」
「ソーデスネ」
どうして誰も私の味方をしてくれないんだろう。グレちゃうぞ。
「ともかく、ロイドの件はもうあなた達の手を離れたと思っていいのよね?」
「元々、二人の問題……というか、ロイド様個人の問題ですから」
そうなんだよねー。色恋沙汰なんて、第三者がどうこう言うもんじゃないんだよ、本来。
今回はロイド兄ちゃんがへたれなせいで、ストーカー化していたからお膳立てしただけであって。
「まったく、うちの兄だってちゃんとプロポーズしたっていうのに」
「そういえば、そうだったわね。でもあれ、ルミラ夫人とあんたにお尻を叩かれてようやくじゃなかった?」
リラの言いたい事はよくわかるんだけど、へたれ具合という意味では、ロイド兄ちゃんの方が酷いと思いまーす。
「まあ、確かにロイドのへたれ具合は酷いものね。色々言いたくなる気持ちもわかるわ。どうもペイロンの男共は、本気の相手にはへたれる傾向があるから」
えー、それはルイ兄の事を言ってるのかなー?
「兄様達の事もよ」
「ロクス様は、へたれじゃないじゃん。ちゃんとチェリを射止めたし」
「あれだって、チェリに選ばれただけでしょう? そりゃそれなりアプローチはしたでしょうけれど。そもそもが集団お見合いみたいなものだし」
あー、うん、確かに。でも、あのロクス様だからなあ。
「ヴィル兄様は結局自分で結婚相手を見つけられなかったし」
「それは……リラを推薦した私にも責任があるかもー」
「ないわよ。本当なら、学院在学時に相手を見つけていなければいけなかったんだもの。大方、家を継ぐんだから結婚相手は両親が見繕う、とか思って手を抜いていたんでしょ」
妹は兄に対して辛辣だなあ。あれ? って事は、私もそうだって事?
……ちょっと、兄にはもう少し優しく接しようかな。
デュバルでの日々は、西のそれとは違って慣れがあるからちょっとダレる。
「とはいえ、日々領地も変化していってるんだなあ」
報告書には、色々と現れていた。顕著なのは、魔物素材の加工現場。今まで領内の人間にしか技術を教えてはいけなかったのが、領外から来た人にも教えていい事になったから、人手が増えてより多くの素材を加工出来るようになったそうな。
それだけじゃなく、現場では技術の切磋琢磨が続いていて、そろそろ新しい加工方法が定まるんじゃないかって話。
その新技術には、領外から持ち込まれた技術が生かされているそうな。
それと、相変わらず余所で大変な目に遭った人が、うちに流れてくるパターンが続いている。
「今度は園丁かー」
「王都の某伯爵邸で園丁を務めていたそうだけど、そこの奥さんに惚れ込まれて、迫られたけれど逃げたんですって。で、怒った当主にクビを言い渡されたらしいの。しかも、当主が紹介状を出さず、園丁の悪い噂を吹聴したものだから、どこにも再就職先の宛てがなかったそうよ」
「うわー。悲惨」
領地で最後まで頑張ってくれていた庭師の親子が、彼のセンスや技術に惚れ込んだらしく、大プッシュしてきたって。
「ヌオーヴォ館の庭園も広大だけど、ヴェッキオ館の庭もあるし、それにネオポリスには大きな公園があるからね」
リラの言うように、領都であるネオポリスには計画的に公園を造っている。
その維持管理をするスタッフが、必要なんだよねー。単純作業は素人でも出来るけれど、専門的な事はやっぱり本職に任せないと。
庭師親子が絶賛しているから、多分大丈夫でしょう。美しい緑がある公園は、近隣住民の癒やしだからねえ。
「あ、他の街でも公園作らなきゃ」
「なら、雇い入れる園丁の数、増やす?」
「よろしく!」
新区や飛び地にも、出来る限り公園、造りたいから。誰もが安心して憩える場所。大事大事。
「後、園丁以外だとメイドや家政婦、料理人辺りは前から入ってきてるけど、珍しいところでは馬丁かしら」
「馬丁も追い出されるご時世かあ」
今回の馬丁、何でも勤めていたお屋敷の坊ちゃんがやらかした盗みの罪を押しつけられて不当解雇されたそうな。
「そういうの、取り締まれないもんかねえ?」
「そのうち王宮に意見としてあげておけば?」
そうする。とはいえ、どうしても身分差がある国だと、上の身分の人間が有利になるんだよなあ。
「あ、冤罪押しつけた家の評判を落とすとか」
「それなら、特に動く必要はないわよ」
「何で?」
「余所を追い出された使用人を、デュバルが雇い入れる。もうそんな噂があちこちに広まってるらしいの。それとワンセットで、追い出した方の家に問題があるらしいってのがくっついてるそうよ」
おおう。って事は、うちで「新しく園丁と馬丁を雇ったんですう」とか言おうものなら、彼等の前の職場まで探し出され、あっという間に社交界の噂の餌食になるという事か。
……おいだした家は自業自得ってなもんですが、改めて、社交界って怖い。
コーニーが待っている茶葉が届いたのは、デュバルに戻って五日後の事。
「こちらが、コーネシア様がご所望になられた茶葉にございます」
カストルがわざわざ届けに来たってさ。
「ありがとう。あら、素敵な入れ物ね。これ、デュバルの陶器?」
「ええ。茶葉用に、特別に開発させたものです」
え? そうなの?
カストルの手の中にあるのは、確かに見慣れた陶器。白地に青で絵柄と文字が入っている。ころんとしたフォルムが可愛い。
「蓋の部分に魔物由来のパッキンが仕込まれていまして、外の空気が入りにくくなっています。入れ物のお手入れに関しては、パッキンを外してしまえば普通の陶器同様手洗い出来ます」
「それも含めて、お友達に渡すわね」
嬉しそうなコーニーは、早速王都へ向かうらしく着替えに部屋へ向かった。
「あんなの、いつの間に作ってたの?」
「今回の件を受けて、別件の為に試作していた器を流用いたしました。事後報告になります」
「そうなんだ。まあ、陶器の入れ物はいいんじゃないかな。これから、ロエナ商会でも茶葉を多く扱うかもしれないし」
あの茶葉を知って、ヤールシオールが動かない訳がない。
「では、陶器の器は大量発注して構いませんか?」
「いいよ。ところで、この本体に書かれている文字……」
「ああ、雰囲気を出そうと思いまして、日本語にしてみました」
「やっぱり!」
私とリラの声が重なった。崩し気味だけど、漢字と平仮名だよ。
「これ、読めたらお仲間って事でいいのかしら……」
「確実に、お隣の王様は読めると思うけど」
「いや、あの人以外で」
アンドン陛下、以外でって言われちゃってるよ。
とはいえ、こちらの大陸だけでも私、リラ、アンドン陛下、それにガルノバンであれこれやらかしてくれた侯爵令嬢と、少なくとも四人は転生者がいるってわかっている。
これ、他の大陸にも広げていったら……怖くなりそうだから、考えるのやめておこうっと。
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