第529話 星空の天使

 デーヒル海洋伯の邸は、外からも浄化をかけておいた。これで、しばらく呪いとは縁のない生活になるでしょ。


 さて、デーヒル海洋伯の駄目息子こと、新領主は現在こちらの邸にはいないそうな。


 ではどこにいるか。


『金貸しの邸です』


 そこで金貸しと一緒にパーリィー中だってよ!


 ふっふっふ、天国から地獄にたたき落としてくれる。




 ヴィル様達は、金貸し達がパーリィー中に、証拠の書類を押収している最中だ。


 そちらに向かう為、海洋伯の邸から急いで移動する。いやあ、魔の森用に作ったこの高速移動術式、使い勝手がいいねえ。


 リューバギーズの王都でも思ったけれど、街中でも使えるのはいい。また、海洋伯の邸から金貸しの邸が近いんだ。


『元は真っ当な商人の邸だったのですが、数年前から金貸しがデーヒル海洋伯の息子に接触、あっという間にのし上がったようです』


 ……その真っ当な商人、生きてる?


『いいえ。強盗に押し入られ、一家惨殺されています。その現場は、これから向かう邸です。不幸があった場所として、金貸しが安く買いたたきました』


 その強盗、まだ生きてる?


『金貸しの手下として、生きています』


 よし、捕縛した後、一番きつい工事現場に送って。待遇は、前デュバル家の使用人達と同等で。


『承知いたしました。すぐに捕縛しますか?』


 そいつら、金貸しと一緒にいる?


『いいえ。金貸しから酒をもらって、自室で寝ています』


 ならいいや。今すぐ捕縛。


『承知いたしました』


 さて、もう邸に到着したな。


「レラ、このまま突き進むのか?」

「んー……ユーイン、悪いんだけど、ここからはヴィル様と一緒に船に戻ってくれる?」

「え……」

「これからやる事は、一人の方がやりやすいんだ。駄目?」

「……わかった」


 ありがとう!




 さて、邸に到着しましたよ。ヴィル様、コーニー、イエル卿には、ユーインと一緒に証拠書類を持って船に戻ってもらっている。


 邸の周囲には、結界を張った。これで中の様子は見られないし、中から外へ逃げ出す事も出来ない。


 カストル、金貸し達がいる部屋以外の使用人達は、どうしてる?


『全員何かしらの犯罪に手を染めている者達ばかりでしたので、ついでに捕縛しておきました。いい労働力が手に入りましたね』


 ……そうだね。


 じゃあ、パーリィー会場に向かいますか。




 ドラー森林伯の邸で、私は学んだ。馬鹿馬鹿しいくらいの事をしておくと、後で証言されても周囲に信じてもらえないという事を。


 あのメイド達がそう。幻影で恐怖のイメージを見せた結果、口々にまったく違う事を証言して、周囲から蔑みの目で見られたそうだ。


 事実を言っていても、とても信じられない事を言ったら、信用なんてされないんだよ。


 つまり! 今夜私が奴らの前で馬鹿馬鹿しい事をやるついでに連中を懲らしめれば、証言したところで誰も信じない。


 それどころか、何か悪いものでも食べて幻覚でも見たんじゃないかって思われる。


 私が今夜、目指すべきところは、それだ。


 という訳で。


 まずは、パーリィー会場の明かりを全て消す。


「な、何だ!?」

「どうした!? 何事だ!? 誰か、明かりを持て!!」


 おお、いい感じにパニクってるね。よし。


 会場の天井付近に、いい感じにスポットライト風の照明魔法で姿を照らし出す。


 この年齢で着るのはちょっと抵抗あったけど、どうせ旅の恥はかきすてだ。ミニスカメイド風の衣装を着て、ガーターソックスに黒のストラップシューズ、髪はピンクのふわふわツインテ、ホワイトブリムも完備だぞ!


 そして、最後に大事な目元のみを隠すタイプの仮面を装着!


 ……どうでもいいけれど、これ、作ったのポルックスだっていうけどさ。あいつの趣味って、どうなってんの?


 まあいいや。注目を浴びている今が、高笑いの時!


「はーっはっはっはっは!」

「な、何奴!?」

「お前達の悪事は、全て掴んだ! おとなしく、捕まりなさーい!」

「はあ?」


 よしよし、度肝を抜かれているな。


「お、お前は誰だ!?」


 よくぞ聞いてくれた! このまま名乗らないでこいつらを捕縛するのもいいけれど、やっぱり名乗っておいた方がいいよね。馬鹿馬鹿しさが増すから。


「私は星空の使者、キューティーストロベリー! この世の悪は、ゆるさないんだから!」

「はあ?」


 ノリ悪いなあ、もう。もうちょっとこう、「お前ごときにやられる我等ではないわ!」とか、言い返してもいいのに。盛り上がりに欠けるじゃない。


 まあいいや。とりあえず、海洋伯の息子と金貸し本人だけは、明日の朝、この邸の門前に捨てておかないとね。諸々の証拠のコピーと一緒に。


「とう!」


 天井から飛び下りる最中、目当ての二人以外は眠らせておく。


「食らえ! 催眠光線!」


 何回使っても思うけれど、これ本当に便利な術式だよね。最初はニエールの寝かしつけ用に作ったって、今じゃ誰に言っても信じてもらえなさそうだよ。


「な、何がどうなっているんだ!? ダック! 何とかしろよお!」

「うぬう、小娘めえ。おおい! 護衛達! 早くここに来て、この小娘を捕まえろ!」

「あらいやだ。捕まるのはあんた達の方よー」


 殴るように見せかけて、魔法で吹っ飛ばす。おお、金貸しはよく飛ぶなあ。アヒルって、本来空は飛べないはずなんだけど。変異種? ダックって、アヒルの事だよね?


 さて、残りはガタガタ震えているだけの、海洋伯の息子だな。


「後はあなただけよねえ?」

「ひ……ひい!」


 あれ? 何もしていないのに、白目剥いちゃったよ? 失礼じゃない?


『あまりの恐怖に、精神がもたなかったのでしょう』


 本当、失礼だな!




 船に戻る前に、格好を元に戻しておく。服はちゃんと着替えたんだー。髪の色は魔法で一時的に変えたけど。


 元の服に着替えて、髪の色を戻して……とと、栗色だ栗色。ホワイトブロンドだと目立つんだから。


 鏡を取り出して、身だしなみチェック。よし。


「ただいまあ」

「お帰りなさい。あの髪色は、嫌味なの?」

「え?」


 何で、リラが知ってるの? リラの後ろには、カストル。


「カストルううううううううう!」

「エヴリラ様が、ご心配なさってましたので」

「だからって! あれを見せる事ないでしょおおおおおおお!」

「カストルを怒るのは筋違いよ。武士の情けで私以外の人間には見せていないんだから。そ・れ・よ・り・も。あの髪色を選んだ理由、まだ聞いてないわよ?」

「え? いやあ、元の髪色から遠い方がいいかなーって思って」

「だったら、赤でも金でも黒でもよかったよね?」

「あ、ありえない色の方がいいかなって」

「だったらどうして青や緑にしなかったのかしら?」


 に、逃げられない……


「む……」

「む?」

「昔見ていたアニメのヒロインが、あんな髪型と髪色だったんですうううう!」


 ちゃんとふわふわ具合も再現したんだい! 私の本来の髪だと、カールがきつくてふわふわにはならんのよ。


 あのふんわりもふっとした髪を再現出来たのは、我ながらいい仕上がりだと思うだ。ただし、色は違うけど。


「……本当に?」

「ほ、本当」

「なら、そのタイトルとキャラ名を述べよ!」

「星空の天使マジカルアリスの主人公アリス!」

「あの主人公、髪の色青じゃない! ストロベリー、まったくかすってもないじゃないの!!」

「しまったあああああ」


 あの名乗りも、全部聞かれたんだっけ……


 その後、リラの怒りが収まるまで、説教を受けました……




 翌朝、ラポントでは騒動があったそうな。金貸しダックの邸の前に、ダックとデーヒル海洋伯の息子アヌヴェドスが、二人して門にくくりつけられていたんだって。全裸で。


 ……そんなリクエスト、したっけ?


「なるべく彼等の尊厳が貶められるようにしました」


 カストル、満面の笑みだよ……


 また、彼等がくくりつけられた門には、ダックの不正や犯罪の証拠となる書類も貼られていたそうだ。


 もっとも、あれらは全部コピーだけどねー。本物はこの船の中だ。


「海洋伯は、自分の息子の失態を見て、どうしたのかね?」

「その場で証拠書類を確認し、アヌヴェドスには廃嫡を言い渡したそうです」

「ほほう」

「ダックの方は、余罪があると見て捜査を命じていました」

「アヒルの息がかかった連中もいるんじゃない?」

「そちらは、リスト化して海洋伯の枕元に置いておきました」


 仕事が早い。


「あの、グラナダ島で保護している子は?」

「父親である店主との交渉を、これから行う予定です」

「そっか。うまくいくといいんだけど」


 こっちの大陸で初めて見つけた魔力持ちの子だからね。出来るなら、ちゃんと魔法を学んでほしい。


「それと、瘴気と呪いの件ですが」

「何か出た?」

「いえ……気配が曖昧で、追い切れない状態です」


 この有能執事ですら、音を上げるとは。本当、この大陸の瘴気と呪いは厄介だね。

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