第528話 待たない!

 新しい街を歩いていたら、通りすがりに悪徳金貸しに娘をかたに取られた男性を発見。


 周囲の人が言う事には、悪徳金貸しは領主に取り入っていて、誰も手出しが出来ない状態だという。


 ちなみに、連れて行かれた娘に関しては、幻影を被せたオケアニスを身代わりにして、グラナダ島に匿っている。


「という事がありまして」


 港街ラポントから一度船に戻り、昼食の席で戻ってきていたリラとヴィル様に、街での事を報告していたところ。


「本当に……どうしてそう、厄介事ばかり拾ってくるの!?」

「えええ? これ、私が悪い訳じゃなくない!?」


 リラは酷いよね。私だって、好き好んで娘さんを助けた訳じゃないのに。


「だって、連れてかれた子、まだ十二歳だっていうんだよ?」

「うげ。どこのロリコンよ」


 言いたい気持ちもよくわかるが、どうやら悪徳金貸しがやっている娼館に入れて、娼婦としての教育を付けるつもりだったらしい。


 なので、今すぐ身売りさせるって訳じゃないようなんだけど。


「それでも、十四、五で娼婦にさせるっていう話じゃない。どのみち変態のロリコンだわ!」


 まあなー。でも、オーゼリアでも成人は十五歳だし、一応その年齢になれば結婚出来るんだよね。その年齢で実際に結婚する人は少ないけれど。


「その、ろりこん……というのが何かは知らないが、あまり他人の事に首を突っ込み過ぎるなよ? レラ」


 ヴィル様の正論に、何も言えない。




 まあねえ。通りすがりってだけだから、あの店主が何故借金をしたのかすらわからないし。


『妻が病気になり、治療費がかさんで借金をしたようです』


 調べたんだ……


『ただ、その病気にも、金貸しが絡んでいました』


 マジで?


『実際の妻の死因は毒です。そして、毒を盛ったのは金貸しの手下です』


 そんな手を使ってまで、店主を借金漬けにした意味は何?


『目当てはあの娘のようです』


 ……マジでロリコン?


『そちらが目的ではなく、娘の持つ能力が問題です』


 能力?


『彼女は、こちらの大陸では非常に珍しい事に、魔力持ちです。それも、かなりの量を持っています』

「えええええ!?」


 カストルからの念話の内容に、思わず驚いて立ち上がる。あ、まだ昼食の席だった。


「何だ? 急に」

「大方、カストルと念話をしていて何か驚く話を聞いたんでしょう?」


 リラが正解。じゃなくて!


「今回偶然助けた女の子、魔力持ちだって! しかも、かなり量が多い」


 私の報告に、リラもヴィル様もすぐに事態の深刻さを感じ取ってくれた。


「レラ、女子の父親の借金額がいくらか、調べられるか?」

「ええと……カストルが調べてました。おおよその金額ですが」


 オーゼリアの通貨に換算して、大体庶民の大きめの家が買える程度の金額だ。


「その程度なら、肩代わりが出来る。店主に話をして、借金を清算しておいた方がいい。その後、グラナダ島に家族もろとも移住させ、魔法教育を施すのがいいだろう」


 普通なら、そうですよねー。


「ヴィル様、どうやら借金自体、金貸しに作られた可能性があります」

「何?」


 カストルから聞いた内容を話すと、リラもヴィル様も表情が険しくなった。


「何それ!? 毒を飲ませて奥さんを殺したって……しかも、その毒を薬と騙して借金させてまで買わせてた!? 外道か!!」

「レラ、証拠はあるか?」

「一応、金貸しの金庫にはあるそうです」


 ご丁寧に、誰にどの毒をどんな薬と偽っていくらで買わせて金を貸したか、ちゃんと残しているんだって。律儀なのかなんなのか。


「なら、その金貸しを襲撃して、証拠もろとも領主に突き出すか」

「あ、現領主は金貸しの言いなりだそうです」

「何?」


 おう、ヴィル様の怒りの波動がくる。怖い。


「現領主の父親である前領主が倒れた事から、今の金貸しや怪しい連中が幅を利かせるようになったそうで」

「親に似ないボンクラか」


 一刀両断。


「……上が腐ると、困るのは下だ。そういう意味では、今手を打っておいた方がいいのだろうが」


 ヴィル様が、手を出すかどうか悩んでます。


「先代当主は、病で倒れたのか?」

『確認が取れました。呪いです』


 あちゃー。


「……呪いで倒れているそうです」

「なら、解呪と浄化の出番だな?」


 にやりと笑うヴィル様に、何とも言えない。


 だって、浄化と解呪ばっかりってつまんないじゃん!




 夕飯時には、コーニー達も帰ってきた。


「あら、何かあったの? レラ」

「何かって」

「だって、変な顔をしているから」


 コーニーが酷い。


 一連の事は、夕食時にリラが説明してくれた。


「まあ、やっぱり何かあったんじゃない」

「いや、それはそうだけど」

「レラは相変わらずねえ」


 コーニーの言葉に、リラが頷いている。君達……


「とりあえず、その金貸しの事だけはどうにかしておこうと思う。お前達はどうする?」

「あら、そんな面白そうな事、参加しない訳がないわ」

「コーニーが参加するなら、俺も」


 結局、変装組は全員参加が決定しましたー。




 草木も眠る丑三つ時。こっそり領主の邸に侵入する。ちなみに、こっちに来てるのは私とユーインのみ。


 リラは船でお留守番。金貸しの方には、ヴィル様、コーニー、イエル卿が行っている。


 私達がここで何をするかと言えば……


「ああ、やっぱり瘴気が蔓延してるねえ」

「呪いの影響か?」

「多分」


 普通に玄関から中に入り、廊下を進む。門番は眠っているし、出会った使用人達も漏れなく眠ってもらった。


 誰が現当主に肩入れしているか、わかんないからね。


 もっとも、向こうからこっちは認識出来ないけれど。遮音結界に加えて外から中が見られない結界も張っている。


「瘴気が濃いのは二階かー。この奥かなー?」

『ナビゲートしますか?』


 そうだね。お願い。


 カストルナビにより、デーヒル海洋伯家前当主、ドツロス卿の部屋に到着した。おお、瘴気で真っ黒。


 ちらりと隣のユーインを見ると、顔をしかめている。


「やっぱり、臭い?」

「ああ」


 西行きが決まった時点で、魔法的な嗅覚を封じる腕輪を研究所に作ってもらったんだけど、それをぶち抜く臭さらしいよ。


 例えると、トイレの臭さって……それは臭い。


 部屋に入る前に、瘴気を浄化。扉は簡単に開いた。鍵とか、かけてないんだね。


 中に入ると、応接用の部屋だ。


『寝室は、右手の扉のさらに奥です』


 なるほど。右側の壁には、端の方に扉がある。そこも特に鍵はかかっていないので、普通に開けて入った。


 入った部屋は、一面本棚が作り付けられていた。書斎かな?


『部屋の主は読書好きで、ここに置いてあるのは特に好みの書籍のようです』


 ほほう。寝室は、この更に奥だとか。


 やはり鍵もかかっていない扉を開けると、再び瘴気で辺りが真っ黒。これ、相当酷く呪われていないか?


『おそらくですが、ドツロス卿は非常に珍しい体質の人物と思われます』


 珍しい体質?


『瘴気、及び呪いに耐性があるようです』


 ほう、そりゃ確かに珍しい。


 まあ、それは後回しにして、先に浄化と解呪をしようか。


 浄化はかなりビカーっと部屋が光ったし、解呪でも更にビカーっと光った。遮光結界を先に張っておいてよかったよ。


 さて、当人には起きてもらわないと……


「そこに、いるのは……誰だ?」


 え。気がついている? 今、私とユーインは外から認識出来ない結界の中にいるのに。


「答えられない……のか?」

「ごめんなさい、おじさん。ちょっとびっくりしたんだ」

「ほう?」


 なるべく、庶民っぽく聞こえるように話す。ロールプレイは続いているのだよ。


「こんな夜中にごめんね? でも、迷惑掛けた分、おじさんの呪いは解いておいたから」

「呪い……だと?」


 呪いは消えたけれど、今までの呪いによって減った体力は簡単には戻らない。


 でも、この人にはこの後しっかり働いてもらわないとならないしなあ。よし。


「これはおまけ」


 私の魔力を与えて、それを体力に変換させる。これで起き上がれるはずだ。


 ドツロス卿も、自分の体に起きた変化に驚いている。


「これは……今のは、どういう――」

「本当、ごめんね。これから、悪者を退治にいかなきゃいけないんだ。だから、これで」

「ま、待たんか!!」


 待てと言われて待つ馬鹿いないよね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る