第527話 実は違った?

 リューバギーズから報酬として分捕……もらった島は、グラナダ島と名付けた。


「あんたはまた……」

「いや、グラナダも硬い壁に護られた様子から、ザクロの名が付いたっていうし!」


 本当かどうかは知らないけれど、そういう説があるんだって。


 ここも周囲を堅牢な城壁で覆っている。その中は、異国情緒溢れる美しい街並みがある訳ですが。


 そんなこんなを込めて、名付けてみました! リラには不評だけど。


 いいじゃん、世界が違うんだし。地球なんか、下手したら違う国ってだけで同じ地名がついてるところもあるんだからさー。




 グラナダ島では、三日程過ごした。サンド様はもう少し長く滞在してもいいのでは? と提案していたけれど、早く次に行こうと急かしたのは、ルーンバム伯爵。


 まあ、他のメンバーも大分疲れが抜けたみたいだしね。ツアーから離脱させて、島へ移動させたのがよかったらしいよ。


 中には、預けた子供を案じて精神的に参ってた人もいたそうだし。そりゃまだ小さい子だったら、離れるのは嫌だよね。


 その子達も、今まではあちこちの島に分散していたのが、グラナダ島で皆一緒に過ごせるようになったので、元気になってきてるってさ。


 ここなら、親もいつでも戻ってこられるし。いや、島でも似たようなもんだったけど。


 にしても、移動陣の大盤振る舞いだなあ。費用は王宮に請求しちゃおうっと。




 グラナダ島は、リューバギーズのホエバル海洋伯領の港街、エギケから東南にしばらくいった所にある。ゼマスアンドの領海に接しているギリギリの場所。


 海洋伯がこの島を手放したくなかったのは、ゼマスアンドに対する睨みも含んでいたんだろうってさ。


 でも、カストルが手を入れる前って、島とは名ばかりの岩山だったって聞くよ?


「だからこそじゃないか? 端から見たらただの岩山なら、『敵』もそう思うものだ」


 私の呟きに答えてくれたのは、ヴィル様。現在、船の中の邸で、夕食の真っ最中でーす。


 これで寝て起きたら、もうゲンエッダだ。一応、船には周囲から認識されにくい結界を張っているので、ゼマスアンドの船に見つかる危険性は少ない。


 絶対って言えないのは、こっちの大陸にどれだけ魔力持ちがいるか、わからないから。


 魔力を持っていると、自力で魔法に近い事が出来る人も出てくる。中には感覚に優れていて、こちらの認識阻害をぶち抜いて来る人もいるから。


 それとは別に、いくつか海賊の根城も見つけたらしい。結構ゼマスアンドに近い島なんだけど……取り締まってないのかな?


『国から、外国船に限り海賊行為を認められているようです』


 何だそれ。どこのイギリスだよ。


『収入の一部を王家に差し出す代わりに、保護されているようです。捕縛しますか?』


 よし、やっちゃえ。正規の軍船って事なら問題だけど、あくまで認可を受けただけの海賊だ。捕縛したところで、誰も困らない。


 あ、海賊から上がりをせしめていた王家は収入減かも? でも、そんな事を認めるような国だから、いいって事にしておく。




 海賊に関しては、カストルに一任した。持って帰って労働力にするもよし、海賊が貯めたお宝を取り上げるもよし。


 人が捕まっていたら、帰してあげて。ただし、海賊行為に手を染めていない事が条件。


 脅されようと、誘惑されようと、他者に害を為した者は賊と見なします。厳しいかもしれないけれど、線引き大事。


 でも、現場は見たくないので、悪いけどカストル、よろしく。


『お任せください。工事現場はいくらでもありますから、問題ありません』


 ……デュバルって、まだそんなにあちこち工事、してたっけ?




 明けて翌朝。爽やかな目覚めと共に、ゲンエッダ近海に到着した事を知る。


「寝ている間に到着するんだから、楽だよねえ」

「そうね。船の旅も、いいものだわ」


 朝食の席で笑うのは、コーニー。今私達がいる邸には、変装組の六人しかいない。


 調子に乗って、リムテコレーア号を造る時、空間を弄り倒したものだから、同じ規模の邸が船内に三つあるのだ。


 その一つを特使メンバーが、もう一つを変装組の私達が使っている。残る一つは、現在閉めているので不使用状態だ。


「ゲンエッダでは、お父様達とは完全に別行動にするのよね?」

「うん、サンド様達は紹介状を使って、すぐ王都へ向かう手筈になってるから」


 リューバギーズで巻き上……もらった紹介状がどこまで使えるかはわからないけれど、最短で王宮へ行けるのなら使わない手はない。


 ここでもこじれたら、また別の国を探して交易しましょ。サンド様も、そのくらいの考えているようだ。


「じゃあ、私達はどうするの?」

「近場の港街から、ゲンエッダに入ってあちこち見て回ろうと思ってる」

「あら、楽しそうね」


 でしょー? コーニーならそう言ってくれると思ってたー。


「また厄介事を起こさないでよ?」

「私が起こした訳ではないのだが?」


 リラは酷いよね。


「でも、レラが引き寄せているわよね? 面倒ごと」


 コーニーも酷いよね!? しかも男性陣、誰も助け船を出しやがらない。


「レラ、厄介事に巻き込まれても、助けるから」

「……ありがとう、ユーイン」


 ありがたいんだけど、違う、そうじゃないんだ……




 ゲンエッダの港街、ラポント。なだらかな平地に築かれた街で、海から街の隅々まで船で移動出来るよう、水路が張り巡らされている。


「大きいねえ」


 現在、ラポントからちょっとだけ離れた場所から、ドローンで撮影した映像を見ている。この周辺、小高い丘とかないから。


 上から見るラポントは、エギケに比べても大きかった。網の目のように張り巡らされた水路と、それを渡る為の橋。それらが、街をより美しく見せている。


「暖かいからか、花も多いわね」

「軒先に、いくつもの鉢植えが飾られてますね」


 住民達の、街を美しく飾る事への思いが溢れているようだ。うん、確かに綺麗。




 今回、夫婦単位で分かれて行動する事にした。皆でぞろぞろ行動するのも楽しいけれど、最小単位で動く方が身軽だしー。


 という訳で、私はユーインと二人で街に入った。


 ラポントは、美しく活気に満ちあふれた街。店先には種類豊富な品が並び、街行く人達の顔は明るい。


 カストルに周辺との物価の差を調べてもらったら、近郊で手に入る品……食料品であれ日用品であれ、手頃な値段で売られているそうだ。


 総じて、過ごしやすい街って事かな? 領主の手腕かも。


 これなら、厄介事は引っかけないでしょう。さーて、何か美味しい物、ないかなー?


「きゃああ!」


 ん? 女子……というか、あからさま少女の叫び声。


「ま、待ってください! そんな……」

「うるせえんだよ! ちゃあんと契約書に書いてあんだろうが。ほれ!」

「借金を返せない場合、娘を奉公に出すってな!」

「ダックさんは優しい方だぜえ? 店は続けられるんだ。頑張って稼げば、娘を取り戻せるかもよ?」


 あれええええ? 何このテンプレイベント。私、何もやってないよね?


『これはもはや、主様の体質のようなものでは――』


 カストル、余計な事は言わないの。てか、あれ合法の金貸し?


『違法です。ですが、金貸しが領主の懐に食い込んでいるので、好き放題している状態です』


 駄目じゃん。




 カストルには、あの少女が連れ去られる先を追ってもらい、私の方は娘を連れ去られて膝を突いている店主の方を見た。


 周囲の店の人達だろうか、店主を立たせて、荒らされた店先を直していく。


「まったく、ダックの野郎、好き放題しやがって!」

「ちょっと! 衛兵にでも聞かれたら事だよ! ご領主様は、ダックがお気に入りなんだから」

「本当に、デーヒル領はどうなっちまうんだろうな……」

「先代様が、お元気でいらっしゃれば」


 ん? 今何か、気になるワード。


『領主の健康状態、調べますか?』


 うん、一応。毒とか普通の病気とかならいいんだけど……


『瘴気と呪いの可能性……ですね?』


 そうなんだよね。リューバギーズがあれだったから、つい気になっちゃって。


『お任せください。すぐに調べます』


 よろしく。それと、あの連れ去られた子なんだけど。


『奴らの根城に到着したら、グラナダ島に移送しておきます』


 うちの執事は、本当に有能だねえ。

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