第524話 新サービス

 追加報酬……というか、王家からの褒美ももらって、これで終わり……と思ったのにー。


「では、シアズシアの種と育成方法は手配しておこう。だが、それだけというのもな。王家の沽券に関わる」


 えー? 別にいいよもう。最初に島を分捕……もらってるから。


 カストルから、埋め立てがハイスピードで進んでいるって連絡が来てる。一応、ビフォーアフターの写真記録は撮影しておくよう指示を出したので、面白い航空写真が見られるでしょう。


『写真だけでなく、動画でも記録を残しておりますので、いつでもご覧いただけます』


 そっすか。本当、有能だよね。


 カストルと念話で話している間に、何やら国王の話は進んでいて……


「という訳で、王都に邸を用意した。いつ来てもいいように、使用人も手配しておこう」

「……はい?」


 邸? ここに? しかも、使用人付きで?


 いやいやいや! 何囲い込もうとしてんのよ! 普通、王族に邸を賜ったりしたら、住まないって手はない。


 邸に不満があるって事になりかねないからね。


 ここは、サンド様に! ちらりと視線を向ければ、サンド様とばっちり目が合った。


 のはいいんだけど、何でそこでにやりと笑うんですかね? 嫌な予感がひしひしとするのは、気のせいですか?


 でも、国王との交渉は引き受けてくれた。


「ほう、邸ですか」

「うむ。王家が持つ邸の一つなのだが、長らく使っていなくてな。すぐに手を入れる故、引き渡しまでは我が国に留まってもらいたい」


 王家所有って、それ邸じゃなくて離宮っていいませんかねえ!? しかも、滞在延長までぶっこんできたし!


 断ってー。サンド様断ってー。


「ふむ……レラ、ここは相手のご厚意を快く受けなさい」

「え!?」


 笑顔のサンド様は、声の調子はそのままに、オーゼリアの言葉で話し始めた。


『三国同盟の国々が不安定なのは、君も理解しているね? 島はもらったから近場で監視出来るのはいいが、やはり中央に即行ける足がかりはあった方がいい。何、使用人は断るし、補修もこちらでやると言っておくから』

『サンド様……もらわなきゃ、駄目ですか?』

『駄目』


 終わった。


 サンド様がリューバギーズの言葉で、早速国王に受け取る事、建物の補修はこちらでやる事、それに使用人もこちらで用意した者を常駐させたい旨を伝えた。


「だが、それでは――」

「報酬としては、既に島を頂いておりますし、これ以上となれば彼女の負担になりかねません。どうか、ご寛恕ください」


 これ以上押しつけてくるなら、邸もらわずに帰るぞ? という裏の意味がある言葉ですねー。さすがサンド様。


 しばし考えていた国王は、やがて決定を下す。


「わかった。では、場所を案内しよう。トイド」

「は!」

「彼女を邸まで案内してやれ」

「わかりました!」


 あー、フットワークの軽い王子様かー。


「では、我々はこの辺りで――」

「済まぬが、貴君達にはまだ話がある。何、彼女の事はトイドがしっかりと護る故、安心せよ」


 あれ? これ、私一人で第三王子と邸というか離宮に行く流れ?


『ユーイン卿、レラと一緒に行くといい』

『……よろしいのですか?』

『構わんよ。レラ一人で行かせて、第三王子にもしもの事があったら、そちらが大変だ』


 待ってサンド様。それ、どういう意味ですかねえ?


 悪者が近づいてきたら、ちゃんと第三王子も護りますよ!


 ユーインが来てくれるのは嬉しいけれど、サンド様達の護衛がゼロになるのは困るー。こんな事なら、ヴィル様にも同行してもらえばよかった。


『レラ、私達は大丈夫だよ。ブレスレットをつけているからね』

『え? あれですか? サンド様達にはいらないと思って、用意しなかったのに……』


 毎度おなじみ、結界発生装置とGPSを兼ねたブレスレットだ。アップグレードをちょこちょこ続けていて、今や城塞のように堅固な護身用ブレスレットとなっている。


 サンド様もシーラ様も、ご自身で身を守る術を持ってる方々だから、用意しなかったんだよね。


『ヘレネに頼んだら、用意してくれたよ。だから大丈夫』


 ヘーレーネー。そういう事があったなら、ちゃんと報告しましょうね!


『も、申し訳ございません……』


 やっぱり、ヘレネも念話が使えたか。今回は助かったからいいけれど、次回からは気を付けてね。


『肝に銘じておきます……』


 よろしく。


「何を話し合っているのか、聞いてもいいかな?」

「ああ、これは失礼いたしました、陛下。彼女の護衛に、彼が同行します」

「え」


 あれ? 何で国王と第三王子が同じように驚いているんだ?




 王城を出て、城門へ向かう。既に馬が用意されていた。第三王子の護衛と共に。


 でも、第三王子と護衛、合わせて五人なのに、馬は五頭。私達には、走ってついてこいと? いや、出来るけどね。


 実際、ユーインと二人で王城を抜け出し、王都郊外の野営地まで行って帰ってってしたし。


「ユーイン、走るけど平気?」

「無論だ」


 だよねー。んじゃ、第三王子には先導してもらおうか。大丈夫、最大速度で走っても、追いつくから。


 ふんすと鼻息を鳴らしていたら、隣から笑い声。お、珍しくもユーインが笑ってる。


「何かあった?」

「いや」


 彼の視線が、ちらりと護衛達と何かを話している第三王子に向かった。


『彼の思惑は外れたようだ』


 どういう事? しかも、わざわざオーゼリアの言葉で。


 内心首を傾げていたら、奥からもう一頭、馬を引いてくる人が。


「君はそちらの馬を使ってくれ。あなたは――」

「ユーイン、乗せてー」

「わかった」


 馬には乗れるんだけど、スカートのまんまだと乗りづらいんだよね。でも、ここにはユーインがいる!


 彼に乗せてもらえば、問題なしだ! 先に馬にまたがった彼の前に、引き上げてもらう。おお、楽ちん。


 何故か第三王子がぽかんとこちらを見ていた。


「行かないんですか?」

「あ……い、いや……行く」


 なら早く行こうよ。とっとと行って、とっとと帰ってきたいんだから。




 馬で走る事三十分程度だろうか。王都の外れにあるのは、まさしく離宮と呼ぶにふさわしい建物だった。


「これ……」

「見ての通り、荒れ果てている。だが、元はとても美しい離宮だったんだ……」


 あー、第三王子も離宮って認めちゃったよー。


 王城とはまた違い、のっぺりした外観の高い壁。門はちょっとイスラム建築を思い出す様式だ。


「随分と質素な外観ですねえ」

「や、外はこんなだが、中はとても綺麗なんだ! あ、今は荒れていて、昔の美しさには欠けるけれど……」


 何があって放棄されていたのか知らないけれど、まあ、中身を見てみましょうか。


 第三王子や護衛と一緒に、門を開けて中に入る。


「おお」


 門から奥へ、一直線に伸びる空間。これ、真ん中は水が張ってあったんだろうな。段差がある。


 その水路? の両脇には、雑草が生い茂っていた。元は花壇だったみたい。石材でしっかり区切ってある。


 通路は水路と花壇を避けるように、両の壁際に設えられていた。


 そしてその壁! 見事なタイル装飾が施されている。タイル一枚一枚に絵を描き、それが合わさって一つの大きな絵画になるような感じ。


 これ、ポルトガルのアズレージョみたい。こっちのは、青一色ではなく色々な色が使われているけれど。


「ここが前庭だ。本当は水と植物が溢れる場所なんだが」


 やっぱり。なら、華麗に甦らせてみようじゃないの。カストル、ここ、綺麗に直せそう?


『造作もございません。お任せ下さい』


 任せた!




 前庭を通り抜け、建物の中に入っても、やはり荒れているのがわかる。壁や天井が所々剥げ落ちているよ。床が抜けてないのが救いかな。


 石材で作られていても、落ちる時は落ちるからね。


 内部の装飾も、タイルを多めに使っている。大きなタイルと小さなタイルを色とりどりに使って描き出される幾何学模様。綺麗。


 床なんかに使われている石材は、この辺りで採れるものなのかな……


『西の山中で切り出された石材のようですね。改修する際には、そこから材料を調達しましょう』


 そうだね。昔と同じ建材を使ってほしいな。


「室内は、危険だからなるべく早く抜けよう。こんな感じで、荒れているとだけ、認識しておいてくれ」

「わかりました」


 問題ないない。これまでも、古い建物を改修したり、新しく一から作ったりしてきたから、ノウハウはちゃんとある。


 必要なら、デュバルから人形遣い達を呼び寄せて。


『手配してございます』


 うん、うちの執事、マジ有能。


 建物を抜けると、そこに広がるのは……


「庭?」

「本当は、もっと美しい姿なんだが……」


 目の前に広がるのは、雑草に覆い尽くされて荒れ果てた、昔は美しかっただろう庭。


 家って、人が住まないと荒れるっていうから、離宮もそうなんでしょう。特に計算して作られた庭は、人の手が入らなくなると途端に荒れるもんね。


 背の高い木もいくつかあって、あれらはそのまま残した方が風情がありそう。それに、区切られて管理されていたであろう庭は、やっぱりオーゼリアのそれとは違う。異国情緒溢れる庭に、客を招待するのもいいかもね。


 色々と、脳内での妄想が捗るわあ。あ、「新しいスタイルの庭をご提供します」なんてサービスはどうだろう?


『主様、それらは一度エヴリラ様にご相談なさった方がよろしいのでは?』


 う……ソーデスネ。

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