第523話 なら遠慮せず

 無事王都に到着し、ツアーご一行様とはここで一時お別れ。王都の外で、野営地を作って休んでいてもらおう。


 私とユーイン、サンド様とシーラ様はホエバル海洋伯と共に、報告の為王城へ。今度はちゃんと表門から入れましたー。


 と思ったら……


「戻ったか!」 

「殿下?」


 門の向こうに、第三王子の姿が。王族がお出迎えとか、本当フットワーク軽いな。


 そしてそのまま、国王の私室へと案内されちゃったよ。私まで。


「おお、戻ったか」

「陛下におかれましては――」

「よい、ここは公の場ではないぞ、ホエバル。もう少し楽にせい」

「は……」


 ホエバル海洋伯、出鼻をくじかれるの巻。いや、笑っちゃいけないんだけど。


 大柄な海洋伯が、呪いのせいか痩せている国王から子供のような扱いを受けるのが、何かおかしくて。


 でも、今の私は平民。ここで笑ったら首が飛ぶ。物理的に。


「そこにいるのが、余と王太子を救った娘か?」


 あれ? 何か、名指し……って訳じゃないけれど、私に視線が集中してますか?


「そうです、父上。父上と兄上のみならず、西の山岳伯達の命を救った恩人です!」


 う。ちょっと胸が痛い。約一名、間に合わなかった人がいるんですが。


 あ、流れ弾がホエバル海洋伯にも。何か「ぐふ」って声が聞こえたぞ?




 リューバギーズ王の私室は、さすがに広い。前に見た寝室は、この隣にあるそうな。


 今いるのは、ごく親しい人を歓待する為の部屋。……私、「ごく親しい」訳ではないんだけどなあ。


 広い部屋の中央に置かれたソファセットはロの字型。部屋の入り口から見て奥の辺に国王を中心に向かって左に王太子、右に第三王子が座っている。


 海洋伯は国王達の右側の辺。私はサンド様の左、シーラ様が右。ユーインはサンド様の後ろに立っている。


「さて、まずは浄化と解呪、ご苦労であった」

「恐れ入ります」


 受け答えは全てサンド様が担ってくれる。


「貴君らには、面倒を押しつけてしまったな。また、見苦しいものを多く見せてしまった。それは、私の不徳の致すところ。許せ」

「もったいないお言葉にございます」

「貴君らも関わった以上、いくつかは話しておこうと思う。ホエバル、構わぬな?」

「陛下の御心のままに」


 お? てっきり「お待ちください!」とか言って、他国の人間に内情を話すなど……とか言い出すかと思ったのに。


 もしかして、ホエバル海洋伯は幼馴染みのハイド山岳伯を、後一歩で間に合わず亡くした事を引きずってるのかも?


「まず、貴君らも遭遇した我が国の裏切り者を巻き込んだ爆発攻撃だが、犯人は未だ見つかっておらん」


 あれかー。一応、フード姿の自爆なんだけど、痕跡が何も残っていないそうだからね。


 何せ瘴気の塊だ。あんなものを操れる人間がいるなんてねえ。後でカストルに操っていた人間を探し出してもらおうかな。


『既に終わっております』


 おうっふ! びっくりした。てか、もう判明してるのか……後で聞くね。


『承知いたしました』


 カストルと念話している間にも話は進んでいた。


「貴君らは、あの場で亡くなった二人に関して、聞いているかね?」

「第二王子殿下と、中央公という立場にある方だったとだけ」

「そうか……あの二人は、祖父と孫という関係なのだよ」


 え? じゃあ、あの中央公とかいう人の娘が、王妃様?


「では、王妃陛下のご実家の方でしたか」

「いや、王妃は別にいる。我が国では、王は二人以上の妃を持つ事になっているのだ。私にも、正妃の他に第二妃がいる。その第二妃がホエムロス中央公の娘だ」


 何と。じゃあ、王太子と第二王子は腹違い? 何か、今回の呪いや瘴気の件が見えてきたぞー。


「ここにいる二人は、正妃の子でね。その正妃も、十年以上前に病で亡くなっている」


 それ、本当に病ですか? 聞きたいけど、聞けない。


『ホエムロス中央公の手による暗殺です』


 ……うちの有能執事、マジ有能。


『家ぐるみでの犯行ですので、ホエムロス中央公の長男が正妃暗殺に関わっています。おかげで調べられました』


 いや、関係者が生きているからといって、普通は調べられるものじゃないからね?


 とはいえ、これは後でサンド様にご報告だな。


「ホエムロス中央公は、孫である第二王子殿下を次期王にと、画策していた訳ですね」

「そうなる。あの者は、昔から王位に対する野心を隠そうともしなかった……」

「心中、お察しいたします」


 それなのに、そんな人物の娘を妃に迎えなくてはならなかったんだな。王様も、大変だのう。


 まあ、オーゼリアの先王陛下も大変だったみたいだから、どこもそんなもんなのかもね。


 ……いや、ガルノバンは違うな。あそこは宰相様が大変な思いをしているから。今度よく効く胃薬でも、贈っておこうっと。



 リューバギーズの王によれば、今回の国内に蔓延る瘴気と呪いは全てホエムロス中央公と、その甘言に乗せられた第二王子の仕業……にするそうな。


「我が子に全ての罪を着せるのは忍びないが、あれはもうこの世にはおらん……」


 着せるも何も、第二王子は立派に主犯格だよ。自ら望んで、父も兄も殺そうとしていたんだから。


「それとホエバル。あの三国同盟とやらは、ホエムロスが主導で参加していたようだな?」

「はい。陛下がお倒れになられてすぐ、御璽を使い勝手に締結してしまいまして」

「トイドやホエバルが止められなかったのも、無理はない。これに関しては、ホエムロスが不正を行い勝手に締結したものとして、即刻脱退する」


 おお、三国同盟の一角が崩れたー。


「まったく、勝手な事をしてくれたものよ。いくら三国が束になるとはいえ、ゲンエッダに敵うはずもなかろうに」


 リューバギーズ王は、状況をきちんとわかっているらしい。なら、勝手に動いたとされるホエムロス中央公は? 見えていなかった? それとも……


『後者のようです。彼にとってリューバギーズは、さらに強大な王国を作り上げる犠牲のようなものだったかと』


 妄想だけは立派だったんだね。所詮外部の人間の言いなりになるような小物が、大きな国を切り回していける訳がない。


 トップに立つって、凄く大変で重い事だもの。




 三国同盟に関しては、言い出しっぺの国に「うちは部下が勝手に動きやがったから、この話はなしな! 一抜けするわ」って王が手紙を書くそうな。


 それで、簡単に同盟から抜けられるの?


『残る二国から攻撃される恐れはありますが、やる気のない同盟国などあちらとしても不要でしょう』


 なるほど。ちなみに、言い出しっぺの国はあのチブロザー海洋伯がいるブラテラダだそうな。あそこかー……


 ブラテラダにはもう行く事はないだろうけれど、残り一つの三国同盟……ではなくなったね。力を合わせてゲンエッダに攻め込もうぜ同盟の残り一つの国、ゼマスアンドはどんな国なのやら。


 つか、オーゼリアとしては行く意味あるのかね。それを決めるのはサンド様だけどさ。


 しばらく同盟関係の政治的なお話が続いたので、サンド様の隣でおとなしくしておく。というか、余所者である私達の前で、そんな内情暴露してもいいのかね?


『隠す必要を感じないのではありませんか?』


 そうなの?


『同盟に参加していたのは、国の意思ではなく一個人が勝手に国を名乗って参加しただけという話は、広まったところでリューバギーズの痛手にはならないと判断したのでしょう』


 王が伏せっている間に、外戚のような貴族が勝手したってのは、醜聞にはならないのかね?


『その貴族は、既に天罰を受けて生きていない……とすれば、リューバギーズの株が下がる事はないかと』


 政治の世界って、怖ーい。


「おお、込み入った話ばかりしてしまったな。本日そこの娘に来てもらったのは、王家として褒美を出そうと思ってな」

「褒美……ですか?」

「うむ。王城及び西辺境の浄化と解呪に対するものだ」

「それでしたら、既に島をちょうだいしておりますが」

「それはホエバルとの話し合いで得た報酬であろう? 今回のは王家よりの褒美だ。遠慮なく受け取るがよい」


 何だか面倒な話になってるなあ。あ、あった。でもこれ、この場でそのまま言ってもいいもの?


 ちらりと、サンド様を見る。


「レラ、何か欲しいものがあるのかな?」


 さすがサンド様、気付いてくれたあああ。


「娘、構わぬ。何なりと申せ」


 よし! 許可ゲット。


「ええと、シアズシアの種か苗が欲しいです。あと、育成方法も」

「ほう、シアズシアとな」


 例の、酸味が強い果実である。あれで作るジャムがすっごくおいしいんだ!


 王様達は、まさかそんなものを欲しがるとは思わなかったらしく、ぽかんとしている。


「あれは、我が国では特段珍しい果実ではないのだが……本当に、それでよいのか?」

「はい!」


 育成条件によっては、デュバル領か飛び地のいずれかで栽培が可能になる……はず。リラもジャムなら工場を作りやすいって言ってたし、栽培だって立派に仕事だ。


 リューバギーズでは珍しくない植物なら、簡単に手に入るでしょう。

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